人として

 「参観会の後、ママたち何人かでランチに行ってきて」弾むような声で話す彼女のことばが、私の胸をチクチクと刺激する。参観会の後、私はまっすぐ自宅に帰ってきた。誰からもランチに誘われなかったし、わたしも誰のことも誘わなかった。人混みが苦手で、そういう場所に出かけるとひどく疲弊してしまう。この日も、人酔いしたのかクラクラして一瞬倒れそうになった。「早くお家に帰りたい」その感覚は幼い頃からずっと持っていて、今でもちっとも変わらない。

  わたしは誰かとランチに行きたかったのだろうか?いや、一刻も早く自宅に戻って一人になりたかった。部屋着に着替えて一息つくと、ガチガチに固まった筋肉がふっと緩むのがわかった。そして「やっぱりお家がいいな」と思った。参観会で散々お喋りし、更にランチに行く気力があるなんて、一体どうなっているのだろう。そもそも彼女たちにとってそれらは〝気力〟なんて必要のないことなのかもしれない。

  あのとき感じた胸の痛みは「人として、わたしは彼女たちよりも劣っている」ことへの痛みだった。どうして彼女たちが当たり前にできることが、わたしにはできないのだろう。正直落ち込んだ。夫に話すと「でも、俺といるときは疲れないでしょ」と、どこか愉しげに言った。悔しいけれど、認めざるを得ない。

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