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ヴィネット療法の試み

箱庭療法ってご存じですか。砂を敷き詰めた箱の中に、多種多様なフィギュアを自由に置いたり遊んだりするやつ。心理相談室であればたいていひと部屋に1セットは設置されています。精神科クリニックでも、ドクターが心理士に理解を示してくれるところだとけっこう設置されてますよね。

ただ常々思ってたことなんですが・・ 箱庭ってデカいんですよ。デカすぎて逆に何も置けない。

正規の箱庭は縦57センチ、横72センチ、高さ7センチとまあまあ場所を取るサイズです。映画館にある広告用B2サイズのポスターぐらい。閉じた状態の16インチ型ノートパソコン4台分以上。3口タイプの家庭用ガスコンロよりまだデカい。ちょっと手に余るというか・・子どもだったら砂で山つくって怪獣並べてガオーとか無邪気に遊べるし広い方がむしろ楽しいかもですが、大人だとな・・「ここに、好きなものを自由に置いてみてと言われても… カウンセラーに見られながら置いていくのもなんか恥ずかしいし、コレやアレを置いたらどう思われるんだろう・・とか考えながらこの広い空間に延々モノ置いてかなアカンの?」と、僕がクライエントだったら苦痛にしか感じないなと思ってました。


じゃあ、試みに小っちゃいサイズの箱庭作ってみたらどうだろう? 心の世界全部をあますことなく表現する、とかじゃなくていいやん。壮大さとかいらんやん。昨日職場であった嫌なことをそろっと表現してみたり。街角で見たほっこりする光景をちらっと再現してみたり。夢で見た印象深いシーンを、カウンセラーに語る代わりに箱庭上で作って見せてもいい。それだけでも充分、気持ちの整理やリラックスにつながるんじゃないの?

いやそんなことは正規の箱庭でもできるでしょ、と思われるかもしれません。でもね、サイズが大きいと「夢のシーン再現だけならすぐ終わっちゃうし、他にも色々置いたほうがいいよな、せっかくカウンセラーさん用意してくれたしな」みたいな、要らぬ気遣いをクライエントさんに強いてしまいがちなのでは?…っていう懸念が昔から拭えないんですよ。クライエントさんは真面目な方が多いから、サイズに合わせた作品を作ろう、そんな義務感に駆られがちになるんじゃないかと。そういう義務感から解放するメリットが、ミニサイズ箱庭にはあると思うのです。


しかしそのミニサイズの箱庭、どう調達するか。自作するしかないよな、と思ってましたが世の中便利になりましたね。楽天でこんなん見つけました。

盆栽・苔玉の専門店「みどり屋 和草」さんから購入できるもので、本来は「枯山水」キットですね。これはこれで楽しそうだな! フタ付き、箱は桐製、防カビ作用も高いんだとか。サイズは縦45センチ、横45センチ、高さ3.3センチと、これなら正規と比べてひと回り以上こじんまりとします。お店にはもっと小さいサイズも売ってました(22センチ×22センチとか)。いやーおうちで枯山水ごっこができるのも非常に魅力的なんですが、今回はこれを箱庭風にアレンジしようと思います。


アクリルガッシュの白で側面、天井を塗ったところ

八月某日、商品が無事届きました。梱包はバッチリで傷ひとつありません。ただ盆休みはゲームで忙しかったので作業に入ったのは九月からです。上の写真で見るとそんなにミニサイズでもないというか、「思ってたよりデカいか」と焦りましたが、モノは試しで進めていきました。商品の地の色は桐製品特有の淡く落ち着いた感じのものなのですが、箱庭と言えば「底面が海を、側面が空を」表すとされているので、色塗りしていきます。家にあった水彩絵の具で塗っていきましたが、木製品に対して乗りが悪いのでアクリルガッシュで塗り直しました。

付属品の砂にバーントアンバー(水彩)で色を付けた

商品付属の砂は真っ白でサラサラ、触ってるだけでいい気持ちです。枯山水にはぴったりです。箱庭療法でも本来砂の色は白なんですが、個人的には「もうちょっと自然な土色にできないか」と思ってました。砂が白だと浜辺や砂漠、礫地、雪山みたいな特殊環境ばかりイメージしてしまって、なんか違和感あったんですよね。そこで、茶色系の水彩絵の具2本分を水400mlに溶かし、少しずつ砂に注ぎ入れ、なじませていきました。が、最初の色の選定が悪く、思いのほか赤茶けた感じになってしまいました(バーントアンバーって調べたら「焼成した琥珀」だから、そら赤味を帯びますよね)。

これはヴァンダイクブラウン。
身長150㎝のチャールズ1世を温和かつ優雅に描いて王の信頼を得た、
フランドルの画家 Anthony van Dyck に由来する色名

家にあるものでテキトーにやるとロクなことがねえ、とロフトに買い物に行って上記の「ヴァンダイクブラウン」を買ってきました。このサイズのものを2本分、水400mlに溶かして再度砂になじませていきます。外で乾かすと砂が飛んで近所迷惑になるので屋内で陰干ししつつ、箱の色塗りのほうも進めていきます。

底面を青く塗る。側面の色は変えてみた

天井の白は残しつつ、側面はもっと空の色にしたほうがそれっぽいんじゃないか(ここまで来ると箱庭療法としての妥当性より個人の趣味嗜好を優先しているw)と思って、白で塗っていた側面にライトブルー系の色を重ね塗りしていきました。また、砂を入れてしまえばどうせ見えなくなるとは思いつつ、底面中央は海の深さを表現しようと少し暗い青を入れてみました。

ターナーのアクリルガッシュ、すぐ乾いて重ね塗りできて便利です。
空の色は「アクアブルー」で代用しました。
海の深い青はホルベインの「ウルトラマリンディープ」を使用してます



そんなこんなで出来たんがこんな感じ。

箱は完成ですね。いちおう保護剤かけようかな・・
砂は色を変えてちょっと濃くなりました。完全に乾くまであと数日というところ

側面を空色で塗り直してた時、パレットから大量のアクアブルーが底面に落ちてしまい(呑みながら作業してたw)、修正するのが大変でした。側面の空と底面の海の際が雑だったり色ムラがあったりと完璧ではないですが、ま、完璧など誰も求めていませんw さあ、これ砂入れてフィギュア置いていったらどんな感じになるのかなあ?「今週の箱庭」とか言って週ごとに制作したりしても楽しいかも(・・もはや最初の趣旨が飛んでいるような)。

で、こうまで個人的趣味を優先してアレンジしたものを「箱庭療法」と称するのは気が引けるので、これは「ヴィネット療法」「ヴィネット式」みたいな感じで呼びたいなと思います。ヴィネットというのは、えーと、「書籍の装幀に使われる小さな絵。文芸の小作品。演劇などの短い場面。小型のジオ
ラマ」とWikiにはありますね(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%B4%E3%82%A3%E3%83%8D%E3%83%83%E3%83%88)。つまりは、断片的なものという意味です。少し小さなサイズで、部分的に、控えめに表現するほうが好ましいなと思う方にお勧めしたい箱庭。それがヴィネット療法です。

自分でも実際に置いてみて、どんな感じになるのか確かめていきたいです。わくわくするなーw 
でもフィギュアがね、まだまだ足りないんですよね・・

(なお日本臨床心理士会による箱庭療法の説明はこちら↓)


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