私文庫(2023/夏 Ⅱ)

「君たちはどう生きるか」宮崎駿監督

とても面白かったですね。おじいちゃんが創ったアニメとは思えない。流石ですね。描写が本当にリアル。冒頭の火事のシーンで、火種が流れてくるから叩き消すためにホウキ持って待機してるところとか。窓のところでバタついてるアオサギが、川鳥特有の?粘液めいたものを残していくところとか。そういうところにリアリティを持たせることで臨場感が増しているし、いかにも宮崎さんらしいですね。

眼の前まで行きながら母親を救えなかったという主人公は、かなり重いトラウマを負ってるようです。表情ないし、喧嘩を口実に頭を石で殴りつけるという自傷行為に及んでしまう。あれは、罪悪感ゆえの行為なんでしょうね。しかもオトンの方は、屈託もなく亡妻の妹を娶るというデリカシーのなさを発揮w  そら多かれ少なかれ病みますよね。

物語としてはそういう主人公が、分身であるアオサギに導かれつつ、特殊な試練をいくつも乗り越えてトラウマを克服していく様を描いているように思います。「特殊な試練」の部分が少し分かりにくいというか、ファンタジックな活劇が異世界でどんどん繋がっていくので意味を追いにくいんですが、ここはまあ、特に意味はないんじゃないかと。ドラクエみたいに、多種多様なクエストがてんこ盛りで主人公に挑みかかってくる場面で、そこにひたすら、宮崎さんが大好きな世界の神話、伝説、民話のエッセンスを詰め込んでる感じかなと。

インコたちはまるでトルメキア兵のようだし(インコの王がクシャナだね)、異世界に現実では生きられなかった分身がいるのはユング心理学でいうシャドウっぽいし、「こちらへどうぞ」って丁寧に案内される先が屠殺場だったりするのはまるで「注文の多い料理店」ですが、あれもヨーロッパの民話によくあるネタですよね。宮崎さんがだいぶ前にアニメージュか何かに描いて文庫化されてる「シュナの旅」という傑作があるんですが、物語の構造があれに似ているなと思いました。

トラウマの克服が「亡き母の分身と協力して継母とその赤ん坊を救う」という形になってるのが、なんか凄くいいですね。死んだ母は帰ってこないし、継母を救うったってそこまで関係性できてるわけでもない。死んだ母に謝罪して許される・異世界から継母を救いだす、みたいな話だったらとんでもない駄作だったと思いますが、上述のような形にしたのが良かった。亡き母と主人公の持つ気高さ、利他性が却って強調されています。そうですよ、宮崎さんは気高くそして人のために生きろと言ってるんですよ暗に。特に主人公は、世界の均衡を保つ仕事を引き継ぐことで、なんかもっと高尚な(神的な?)存在にもなりえたのに、そんなものは断って現実の日本に戻ることを選択する。オトン待ってるしね。こういう選択もまた気高いし優しいよなと思わせます。

物語の最後は、1947年。家族で東京に行くとなっています。まだサンフランシスコ講和条約すら結ばれてない戦後の混乱した東京で、主人公はどう生きるのでしょうか。でもあんな大冒険を乗り越えられたんだから、きっとしっかりやってくれるに違いない。そういうラストでしたね。

ていうか宮崎駿監督、これだけの作品が創れるんですから、ナウシカ原作を完全アニメ化してくださいお願いいたします!!!

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