マキャベリストのウイルス対策〜Joan of Arc〜

その日、金田は株式会社ソリディア電機、研究者のもとを訪ねていた。
「よう、先生。久しぶりだな。」「僕は変わりないです。先日、
お預かりしたサンプルから怪物の正体をつきとめました。」
「あれ?なんだったわけ。」

研究者はデスクに一枚の紙を出すと。真ん中に大きくCと書いた。」
「なんだ?シャネルか。」「違います。カーボンご存じないですか。」
「ふーん、知ってるよ。俺の職場でフルカーボンのパソコン売ってる。」
「それは、おそらくカーボンニュートラルに関係する商品でしょう。
今回いただいた黒い物体はどちらかというと髪の毛の成分に近いものでした。」

「ふーん、俺はあのバケモノにケーブル・メデューサって名前つけたんだよ。」
研究者は親指を上げて、グッドサインを出す。
「神話に出てくるメデューサのような怪物というわけですね。」
「そう、ネットで調べたら。アメリカではブラック・サンダー・オクトパス。
って呼ばれてるんだ。」
「それで、これから。どうされるおつもりです。」
「決まってるじゃないか。ケーブル・メデューサ専用のウイルス対策ソフトを作るぜ。」

「ホントにそれで、解決すると思ってますか?相手は、ただのコンピューターウィルスじゃなくて。一般家庭の電話回線まで乗っ取り兼ねない怪物です。物理的に解決する方法をオススメします。」
「具体的にどうするんだ?」「メデューサを焼き切るんですよ。」

「金田さんのお知り合いに、マグネシウムを扱っている人はいませんか?」
「そういえばいたな。まさか、そいつならできるわけ?」
「金田さん、学生時代は化学の単位がいまひとつでしたから。
今の、あなたにアドバイスできるのは。教師だった僕しかいないはずです。」
研究者は白髪を撫でながら語る。

「あなたと、春田さんは親しかったですよね。」
「今はそこの姪っ子が職場に来ているんです。」
「ごく最近、そこのお嬢さんも同様の被害に遭われていますよね。」
研究者は、福助から預かったナツキのタブレットを差し出す。
「これを解体した時は驚きました。ほら、中身が八の字に焼けているでしょう。」

「あなたの、パソコンも調べたら同様に中身が八の字に焼けて。本来パソコンには入ってないケーブルが大量に増殖して壊れている。」「うーん。」
「こういうのは、呪詛って言うんです。
古代の人たちは、それを焼くことで断ち切っていたんです。」
「俺なんかしたかな?」金田はにわかに自信を失っていく。

食い入るようにタブレットを眺める。
「だったら、先生。俺、ウィルス対策のプロジェクトを立てるぜ。」
「そうですね。それが一番妥当な方法でしょう。」

「なら、イカしたプロジェクト名を付けてやる。」「良いですね。」「昔、フランスにジャンヌ・ダルクって聖女がいただろ。彼女は罪をおかしたわけでもないのに、最後は火あぶりの刑で天に召されていった。メデューサとは全く正反対のヒロインだ。」

「やっぱり金田君は頭の回転が速いね。センスもある。」
「メデューサに勝てるのは。ジャンヌ・ダルクしかいない。
歴史がそう証明しているじゃないか。」

金田の瞳は、野獣のように光っている。
「あなたは、たいへん価値のある人です。」
研究者は静かに立ち上がると。金田にささやく。
「君は、マキャベリスト。だけどホントは優しい。」

「正義は時に小さな人を傷つける。僕はそういう世の中が嫌なのです。」
「俺は、ナポレオンの再来。だけど、守るべき人がたくさんいるんだ。」金田はそうつぶやくと。研究室を出てゆく。

研究者のデスクには貴久と肩を組む金田の写真。
ーー教え子が立派になって、また羽ばたいていった。
僕は、アインシュタインのようになりたかったけど。
君たちが生徒で本当に良かったよ。ーー

金田のメンタルは浮沈船のように堂々としていた。





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