見出し画像

やさしい手ほどき~On Elegance⑤    スーツの着こなし方、フランス編

フランスは、あと2か月で大統領選を迎えます。政治ウォッチャーの息子達が食卓でああだこうだと賑やかなこと。直近では極右のゼムール氏がグングン追い上げているとか。ネットニュースでもゼムール氏の姿を見ない日はありません。
ゼムール氏への支持の伸び、実は予測していました。今のフランスではポリコレよりも極右が正論に聞こえてしまうのでしょう。
でも、予測外だったのは、ゼムール氏の「見た目」の変化。ぐっと良くなっています。ゼムール氏は、老け顔、小男、痩せぎす、の三拍子揃った不運な人、さすがにこれは手がつけられないだろうな、と思っていたのです。

ゼムール氏については、こちら→「Zと言えば……フランスの今

画像3

 IllianDerex撮影 

これは最近のゼムール氏近影です。もちろん、まだ美男子とは呼べません。でも、以前はもっと貧乏くさかったのですよ(ホントに口が悪くてごめんなさい)。着るものにも拘りがなくて、見た目ではなく頭で勝負さ、と鼻をひくひくさせて笑うムッシュー・インテリ、という感じでした。
それが大統領選に立候補して、イメージコンサルティングが付いたのでしょう、じわじわと改善されていきます。
まず、今までの着た切り雀だったスーツから、シックなスーツに変わりました。小柄な身体にフィットした細身のマリーンブルーのスーツです。下にはいつも白いシャツ。このシャツが賢くて、衿足(衿台)が少し高いデザインなのです。これで細い首を隠すという戦略。年取った男性の細い首は頼りなく見えますからね。必然的にネクタイの結び目も気持ち大きくせざるを得ないのですが、それも細く尖った顎と、意外にも上手にバランスを取っていて若々しさを演出しています。

画像2

Éric Zemmour lors d'un déplacement à Nantes, le 30 octobre 2021.
Cheep撮影 

この外出先の写真では、スーツの上に濃紺のコートを羽織り、渋めだけどトーンをあげたブルーのショールを巻いてスポーティブさを加えている。コレ、日本の「背広の上はバーバリのレインコート」族も真似してはいかがでしょう。ハーフコートに、ショールくるくる。首回りが温かいし、ショールのソフトな肌触りが心地良いものですよ。

小男のゼムール氏でさえ(←また毒舌)ここまで力強さを演出できるのは、スーツならでは、だと思います。
そう、スーツを着こなすには、何もダニエル・クレイグの身体を持つ必要はないのです。
スーツは誰をもアップグレードする魔法の鎧。薄いウールの内側には芯地が入っているので、身体が薄い人には厚みを与え、太めの人は引き締めてくれるのです。

************

次は、ゼムール氏に、「オランド前大統領の、装いを少しマシにしただけの男 (il n'est qu'un Hollande en mieux vêtu)」と揶揄される、マクロン大統領を見てみましょう。
わたしは、この方こそ大和男子のお手本だと思っています。

画像1

Emmanuel Macron in July 2017
Presidencia de la República Mexicana撮影

マクロン氏の着こなしは至ってトラディショナル。この写真ではよく分からないと思うので他の写真も見てみて下さい。いつも紺色のシングル・ツーボタン・スーツに白いシャツ。その上ネクタイは無地のブルーという、冒険ゼロ、個性ゼロ。サイズ感、衿&ネクタイの結びめのバランス、足元の裾の長さ、全て間違いがない、模範解答的な着こなしです。

そんな「つまんない」マクロン氏の着こなしを、なぜ大和男子に勧めるかというと、「一回ここに戻ってみませんか」、と提案したいからです。

昨今の大和男子のスーツが迷走しているような気がしてなりません。タイトなシルエットが主流というのはわかります。裾短めが流行というのも知っています。お洒落を楽しみたいから柄に手を出したい、という気持ちも分かります。

でも、スーツはマクロン氏のように着るべし。抑えめ、渋め。この方が洗練して見えますから。

少なくとも、あなた自身の個性がしっかりと確立するまでは、きちんと正しく着るべきです。そうでないと、スーツに着られちゃって終わりですよ。「今日来た営業の人さ」「ああ、あのキレッ切れのスーツ着てた人?」ってなっちゃうだけです。覚えて貰いたいのはスーツではなくてあなた、でしょ? マクロン氏も、顔にこれという特徴がないから、スーツは抑え気味にしているのだと思います。

もう一つ、マクロン氏を勧める理由は、彼の体型が日本人に近いから。身長も高くないし、フランス人にしては丸顔というか、頭が大きい気がします。そういう意味でも日本の方には真似し易いのでは。

マクロン氏の着こなしの唯一の特徴は、衿とネクタイの結び目が、気持ち大きめな点。これが大きめの顔&丸さとバランスを取っているのだと思います。小さい衿と結び目だと、顔の大きさ丸さが強調されてしまいますから。ね、参考になるでしょう?  
あとね、マクロン氏のスーツ、噂では400ユーロ程度のお手頃価格だそうですよ。これも真似し易い価格では。やたらに高いものに手を出す必要なはないのです。それよりも、身体に合っていて、流行を追わず抑えめな、ほどほど価格のスーツを2、3着作り、ローテーションさせて着る方が賢いと思う。あと、基本的なルールを守って着こなすこと。まずはそこですよ。

逆にバランスの悪い例としては、保健省のベラン氏。地方の一神経科医だったベラン氏は装うことを知らない田舎者だったそうです。最近はマクロン氏と同じテーラーでスーツを作ってもらうようにしているそうですが、それでもまだ垢抜けない。

画像4

Revelli Beaumont撮影

この写真ではまだマシなのですが、他の写真も見てみて!
この人の問題は、シャツのサイズが首に合っていないことだと思います。細長い顔だから、と衿を小さめにして、ネクタイも細めのをキュッと小さく結んでいます。確かに装いの法則上それが正しいのですが、彼の場合はそれが逆に、顔の細長さと首の長さを強調してしまうのでバランスが悪くなっています。

装いの法則とか装いのマニュアルというものは一般論ですよね。論理的ではあるけれど、着るのは人間ですから、論理が当てはまらないことも多く。
「じゃどうすればいいの?」となるのですが、「装う」ということを大切に思っていれば、審美眼もそのうち生まれてくるものです。
マクロン氏の場合は、彼自身に好みというものあるのかもしれませんが、夫人のインプットがものを言っている気がする。夫人はエレガントな装いを好む人ですし、どこをみせてどこを隠すべきか、しっかり計算出来る人。その上24歳上ですから装いの知識も経験も豊富です。

それにしても、スーツは奥が深いですね。着こなしも大切ですし、もちろん、仕立てもとっても大切。あと、スーツを着ているときの仕草、これキーかも。いずれそんな話もしたいと思います。

でも今日はこの辺で。
どうぞ良い週末を!

画像5


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?