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2024年度 中央ロー再現答案(全額免除)

はじめに並びに諸注意

  • 2024年度中央大学ロースクール入試、全額免除合格の再現答案です。書類点についてはGPAがだいたい2、提出書類なし、ステメンはゼミの話とバ先で弁護士案件に遭遇した話を盛りに盛ったものなので、個人的には中央ローは学費免除と書類点ってあんま関係ないんかなぁ?という感じです。サンプル数1なので分からんけど。

  • 再現答案と銘打っていますが、この答案は入試翌日に作成した答案構成メモにこそ基づいているものの、答案形式で書き起こしたのは入試から3ヵ月後の11月後半ですので、実際に提出した答案とはいくぶん…かなり…異なっている可能性があります

  • 各科目の見出しの横に成績開示で送付されたスコアを記していますが、このスコアは「受験生の最高得点から最低得点の間を5等分し、その得点域の最上位をAと表記し、以降B、C、D、Eの順に得点域を表記したもの」(通知書原文ママ)であり、順位ではないそうなので注意してください。

  • 全科目普通にめっちゃ間違えてます。まちがっても模範解答として使われませんよう。

  • 質問等あればTwitterアカウント(@lawsengimu)のDMまで(非公開アカウントですがFF外でもDMは送れる設定になっているはずです)。


憲法(A)

第1.設問1について。
1.臨時措置法は、特定懸念人物の財産権の侵害として、憲法29条に反しないか。
(1) まず、同条1項は「財産権」と規定しており、私有財産制のみならず具体的な財産権も同条により保障されると解する。
 次に、特定懸念人物にはA国人が多く含まれるところ、同条の保障が及ぶかが問題になる。
 この点について、憲法前文等より憲法上の人権はその性質上日本国民のみを対象としているものを除き、外国人にも等しく及ぶと解する。
 財産権は個人が生活する上で必要な物的手段の保持に必要不可欠な権利である一方で、国政に影響を及ぼしたり国民に固有の権利を侵害するものではなく、特定懸念人物にもその保障が及ぶ。
 以上より、特定懸念人物が有する国内所在資産に対する権利には、同条の保障が及ぶ。
(2) また、臨時措置法は日本政府が国内所在資産を正当な補償なく収容、換価、利用することが出来る旨を規定しており、上記権利を明らかに制約する。
2.もっとも、29条3項は「公共の福祉」に基づいて財産権の内容を定めるとしているところ、公共の福祉に基づいてかかる制約も正当化されないか。
(1) この点について、財産権は上記生活上の重要性を有する一方で、社会経済における相互関連性を有していることから制約の必要性が内在する権利である。
(2) もっとも、本件における臨時措置法による制約は、国内所在資産に対する銀行預金債権や所有権、知的財産権など財産権の内実を問わず広く規制するものであり、その様態も補償を伴わない収容という直接的なものであって、規制の程度は強大である。
(3) よって、規制の目的が重要であり、目的と手段の間に実質的関連性が認められる場合に限り、正当な制約として合憲であると解する。
3. 臨時措置法の制定目的は、クーデタによって非民主的政権へと転換したA国において、そのクーデタを首謀したB将軍らがそれによって得た資産を他国へと移転させる動きを抑制するための者であり、国際協調にも資するものであるから、目的に重要性が認められる。
 また、B将軍らが日本に有する資産に対し制約を加え、これを利用できなくすることは上記目的と適合性が認められる。
 もっとも、上記目的との関連において、クーデタ以前に日本に有していた財産にまで制約を及ぼす必要性があるとは言い難い。
 また、本件制約はなんらの補償もなく財産権全般に強度の制約を与えるものであり、利用の目的がA国における弾圧の被害者救済に限定されているとしても、権利者との関係では単なる国家によるさん奪行為であるから、手段が相当性を有するとは言えない。
 したがって、目的と手段の間に実質的関連性は認められない。
 よって、臨時措置法による制約は公共の福祉によるものとして正当化されない。
4.以上より、臨時措置法の内容は憲法29条に反するものとして違憲である。
第2.設問2について
 Cは、29条3項に基づいてD社が廃業したことに対する補償を請求しようとしているところ、かかる請求は認められるか。
1.まず、同項づく請求権が認められるか。この点について、私人の裁判救済的見地から、同項の補償する正当補償請求権は具体的権利と解する。よって、同項を直接の根拠とする損失補償請求権が認められる。
2.次に、Cがかかる補償を受けられる地位にあるか。
(1) 同項の趣旨は、特定の個人の犠牲の下に社会全体が利益を得るのは平等原則に反するという点にあるため、特別の犠牲といえる場合には補償を要すると解する。
 そこで、①制限が特定人を対象としており、②制限が受忍限度を超える程度に強度なものである場合に、特別の犠牲として補償請求が認められると解する。
(2) 本件において、臨時措置法による制約は特定懸念人物という特定人を対象としているところ、その対象であるF社と密接な関係を築いていたD社も、間接的ではあるが特定人を対象とした制約を受けていると言える(①充足)。
 D社はF社と取引することが出来なくなったことで廃業という大きな損害を受けており、その制限は強度なものとも思える。しかしながら、取引先の会社が倒産等の事情で原料の供給を出来なくなることは通常の社会経済においても十分起こりうることであり、受忍限度を超える程度に強度の制約があったとは言い難い(②不充足)。
(3) したがって、Cは補償を受けるべき特別の犠牲とは言えない。
3.以上より、Cの請求は認められない。

民法(B)

第1.設問1について
1.請求①について
(1) まず、CはAに対し、債務不履行に基づく損害賠償請求(民法415条、以下法令名略)として、乙の価値相当額の賠償を請求することが考えられる。
 賃貸人たるAは賃借人たるCに対し甲の仕様および収益に必要な修繕をする義務を負う(606条1項)ところ、Aは甲の管理を行わず屋根の毀損の修繕を行っていないから、債務の不履行があると言える。また、乙の毀損という「損害」が生じ、乙が毀損したのは上述の屋根の毀損が拡大して雨漏りが発生したためであるから、損害と債務不履行との間に因果関係も認められる(415条)。
 これに対し、Aは乙が毀損したのは台風という「債務者の責めに帰することができない事由」によるものであって、請求は認められないと反論することが考えられる(415条1項ただし書)。
しかしながら、Aは屋根の毀損を認識しており、また甲がアトリエとして使用され内部に美術作品が置かれることも契約事項のウより予定されていたのであるから、屋根の毀損を放置し、室内に雨漏りが発生して乙が毀損したことは、Aの責めに帰することが出来ない事情によるものとは言えない。よって、Aの反論は認められない。
 したがって、CのAに対する債務不履行に基づく損害賠償請求は認められる。
(2) また、CはAに対し不法行為に基づく損害賠償請求(709条)として、乙の価値相当額の賠償を請求することが考えられる。
 Aが屋根の毀損を知りながら修繕を行わなかったという「過失」に「よって」、Cの乙に対する「権利」を侵害し、乙の価値相当額の「損害」を生じさせたのであるから、Aに不法行為責任が認められる。
 よって、CのAに対する不法行為に基づく損害賠償請求も認められる。
2.請求②について。
(1) まず、CはAに対し、賃貸借契約に基づく費用償還請求(608条)として、β債務相当額の償還を求めることが考えられる。
 上述のとおりAは甲の修繕義務を負い(606条1項)、甲の屋根の毀損は雨漏りを生じさせるため、その修繕は甲の通常の使用に必要であり、修繕工事の報酬であるβ債務の価額も適正であったのであるから、同費用は「賃貸人の負担に属する必要費」にあたる(608条1項)。
 よって、CのAに対する賃貸借契約に基づく必要費償還請求は認められる。
(2) また、CはAに対し、甲の修繕につき不当利得返還請求(703条)として、β債務相当額の償還を求めることが考えられる。
 同条の「法律上の原因」がないこととは、公平の理念から見て財産的価値の移動を当事者間において正当なものとするだけの実質的理由がない場合をいうところ、賃貸借関係を全体として見て賃貸人が対価関係なしに利益を受けた場合には、当該利益には実質的な理由がないといえると解する。
 本件において、Cは上述の通りAに対し費用償還請求権を有しているところ、賃借人たるAは甲の修繕の対価として同債務を負っているといえるから、対価関係なしに利益を受けたとは言えない。よって、「法律上の原因」がないとは言えない。
 したがって、CのAに対する不当利得返還請求は認められない。
第2.設問2について
1.反論①について
 CがEに対して自身の甲についての賃借権を主張するには、同賃借権について対抗要件を満たしている必要がある。
 不動産の賃貸借の対抗要件は登記(605条)であるから、CがAとの賃貸借契約に基づく甲の賃借権設定登記を具備していた場合にはCの反論が認められる。登記が具備されていない場合は、Cの反論は認められない。
2.反論②について
 反論①が認められない場合に、Cは甲について生じた請求権①及び②を被担保債権として留置権を主張し、甲のEに対する明渡しを拒むことが考えられる(295条)。
 もっとも、CはAに対して甲に関する請求権を有すると考えられるところ、明渡しを求めるEに対してそれらの請求権を被担保債権として留置権を主張することが認められるか。「そのものに関して生じた債権」の定義が問題となる。
 この点について、留置権の本質は、物の返還を拒絶し債務者に心理的圧迫を加えて弁済を促す点にある。そこで、「その物に関して生じた債権」といい得るためには、被担保債権の成立時点において、被担保債権の債務者と目的物の引き渡し請求権者が同一人であることが必要であると解する。
 Cが主張する事実8に挙げられる各請求権の債務者はAであって、被担保債権成立時の債務者と目的物の引き渡し請求権者が同一人であるとはいえない。よって、Cの反論②は認められない。
3.以上より、CがAとの賃貸借契約に基づく甲の賃借権設定登記を具備していた場合にはCの反論①が認められ、EのCに対する請求は認められない。登記を具備していなかった場合には、Cの反論①及び②は認められず、Eは甲所有権を有しCは甲を占有しているから、EのCに対する所有権(206条)に基づく甲の明渡請求は認められる。

刑法(C)

甲及び乙の罪責について
1.甲と乙がA方に侵入した行為は、Aの「住居」への住居権者の意思に反する立ち入りであって「侵入」にあたる。よって、住居侵入罪の共同正犯が成立する(刑法60条・130条、以下法令名略)。
2.甲と乙が現金500万円を持ち去った行為に窃盗罪の共同正犯が成立するか(60条・235条)。
(1) まず、Aの500万円は「他人の財物」にあたる。
(2) では、甲と乙は「窃取」したといえるか。「窃取」とは、他人の占有する財物を、占有者の意思に反してその占有を侵害し、自己または第三者の占有に移転させることをいうところ、500万円は唯一の居住者であるAが死亡した一軒家に置かれていたことから、他人の占有が認められるか。
 この点について、死者には占有の事実も意思も認められないから死者の占有は認められないと解する。
もっとも、被害者の生前の占有は、①被害者を死亡させた犯人との関係では、②被害者の死亡と時間的・場所的に近接していれば、なお刑法的保護に値し、かかる場合には被害者の生前の占有が認められると解する。
本件において、Aは乙がAの身体を捕まえ甲が顔面を殴打したことで死亡しているから、死亡させた犯人が財物を持ち去っているといえる(①充足)。甲と乙はAを殺害したのち甲居住のアパートに引き返しており、時間的接着性は認められないが、乙が財物を発見したのはAの殺害現場たるA宅内であり、Aの死体は未だ現場に所在していたのであるから、なおも被害者の生前の占有が刑法的保護に値するといえる(②充足)。
よって、現金500万円に対しAの生前の占有が認められ、甲と乙はこれを持ち去って自己の占有に移転しているから、「窃取」したといえる。
(3) 上述の行為を甲と乙は意思連絡のもと共同して行っているから、「共同して犯罪を実行した」と言える。
(4) では、甲と乙に窃盗の故意(38条1項)が認められるか。両者は強盗殺人(240条)の行為についての認識・認容を有することから問題となる。
 この点について、故意責任の本質は、反規範的人格態度に対する道義的非難にあり、規範は構成要件の形で一般国民に与えられている。
そこで、保護法益や行為態様において共通性があり構成要件に実質的な重なり合いがある場合には、その重なり合いの限度で規範に直面しえたと言え、故意が認められると解する。
本件において、強盗殺人の故意と窃盗の故意は窃盗の範囲で実質的に重なり合いが認められる。よって、窃盗の故意が認められる。
(5) したがって、上記行為に窃盗罪の共同正犯が成立する。
3.甲がAの顔面を殴打した行為に強盗殺人罪の共同正犯が成立するか(60条・240条)。
(1) まず、甲と乙は238条によって「強盗」といえるか。実行行為は構成要件的結果発生の現実的危険性を有する行為であるところ、甲と乙は現金が保管されているであろう書斎を探そうとしたのみであって、財物の占有移転の現実的危険性を生じさせたとは言えない。よって、両者は窃盗の実行行為に着手しておらず、238条の「窃盗」にあたらない。よって、同条は適用できない。
(2) 次に、強盗罪の暴行は財物奪取に向けられたものであることを要するところ、甲と乙がAに暴行を加えたのは逮捕されるのを避けるためであって、財物奪取に向けられていたとは言えない。よって「暴行」にあたらない。
(3) したがって、上記行為に強盗殺人罪の実行行為性は認められない。
(4) 甲と乙はAに拘束と殴打という有形力を行使して、脳出血という生理的障害を負わせる「傷害」行為を行い、よってAを死亡させたのであり、その事実の認識・認容もあるから、上記行為に傷害致死罪の共同正犯が成立する(60条・205条)。
4.甲と乙が道具とカバンを用意した行為それぞれに強盗予備罪が成立する(237条)。Aの死体をナイフで刺した行為は、強盗殺人の故意で行われ死体損壊罪(190条)との構成要件的重なり合いは認められないから、同罪は成立しない。
5.甲と乙の行為に以上の罪が成立し、窃盗罪と傷害致死罪は住居侵入罪と牽連犯となり、それらと余の罪は併合罪となり、甲と乙はかかる罪責を負う。

民事訴訟法(B)

第1.設問1について
 XのYに対する甲建物所有権の確認を求める訴えが適法であるためには、当該訴えにつき訴えの利益が認められることが必要である。
確認の訴えの場合、確認対象が無限定になるおそれがあり、また確認判決は執行力を有しないから、確認の訴えの利益は、紛争の抜本的な解決のために確認判決をすることが有効・適切である場合に限り認められると解する。
具体的には、確認の訴えの利益は、訴えの対象が適当であり、即時確定の利益があり、確認の訴えによることが方法として適している場合に認められると解する。
1.Xは、当該訴えにおいて、現在の法律上の権利である甲建物所有権が、自己に属することの確認を求めており、訴えの対象が適当であると言える。また、甲建物はYによって占有および登記がなされており、XとYとの間で所有権をめぐる争いが生じているのであるから、Xの権利に危険があり、即時確定の利益があると言える。
2.もっとも、Xは自己の甲建物所有権に基づく給付請求を提起することが出来るところ、上述のYが甲建物を占有し登記を有している状況における紛争は、執行力を伴う給付の訴えによる方が抜本的解決に資すると言える。よって、確認の訴えによることが方法として適しているとは言えない。
3.以上より、Xの甲建物所有権の確認を求める訴えには訴えの利益が認められない。したがって、当該訴えは適法であるとは言えない。
第2.設問2について
 まず、口頭弁論の分離は裁判所の裁量(152条1項)であり、原則として裁判所が弁論の分離を命ずることは許される。
1.もっとも、中間確認の訴えは当事者が請求を拡張して行う(145条)ところ、裁判所が中間確認の訴えによって定立された請求について口頭弁論を分離することは、訴訟の開始と終了及び審判対象の特定とその範囲の限定について当事者に主導権を認める建前たる処分権主義に反し、許されないのではないか。
(1) この点について、処分権主義の趣旨は私的自治の訴訟法的反映たる当事者意思の尊重にある。そこで、その効力は当事者が本案判決による紛争解決を求める訴訟物について及び、本訴請求についての判断の先決関係たる権利又は法律関係には及ばないと解する。
(2) 本件において、甲建物所有権がXに属することは、本件訴えの訴訟物たる所有権に基づく返還請求権たる建物明渡請求権の存否の判断において先決関係に立つ。
(3) よって、裁判所が口頭弁論の分離を命じることは、処分権主義に反しない。
2.しかしながら、上述の通り中間確認の訴えの対象である甲建物所有権の帰属についての判断は、本件訴えの訴訟物の先決関係に立つところ、これについて口頭弁論を分離すると判決の矛盾が生じ得る。
 したがって、中間確認の訴えの請求は本訴請求との合一確定の要請が働き、弁論の分離は許されないと解する。
3.以上より、本件において裁判所が中間確認の訴えの請求について口頭弁論を分離することは許されない。

刑事訴訟法(C)

第1.(1)について
 下線部はいずれも、検察官が主張する具体的犯罪事実たる訴因である。当事者主義的訴訟構造(256 条6項、298 条1項、312 条1項等)の下、訴因が裁判所の審判対象となる。
 そして、訴因は、裁判所に対し審判対象を識別させる機能(識別機能)を有するとともに、被告人の防御範囲を明示する機能(防御機能)を有するところ、訴因が他の犯罪事実と識別されていれば防御の範囲は明確であるから、訴因の第一次的機能は識別機能であると解する。
1.二か所の下線部では行為の主体が異なっており、訴因変更(312条)を経ずに後者の事実を訴因とすることが出来るかが問題となるとも思える。しかしながら、訴因事実が認定事実を包摂している場合には、認定事実は当初から検察官により黙示的・予備的に合わせて主張されていた犯罪と考えることができる。下線部では公訴提起時に不明確であった行為の主体が特定されたにすぎないから、訴因の記載通りの認定の一態様に過ぎず、訴因変更を要しない。
2.もっとも、公訴提起時の訴因たる最初の下線部では、そもそも「罪となるべき事実を特定」しているといえるか(256条3項)。
 この点について、上述の趣旨より、①特定の構成要件に該当するか否かを判断するに足りる程度特定され、②他の犯罪事実との識別が可能である場合には、訴因が特定されたと解する。
 最初の下線部では、暴行・脅迫の態様は明白であり(①充足)、主体は甲及び乙とされているものの、日時及び場所が特定されており、他の犯罪事実との識別も可能である(②充足)。
 よって、訴因の特定の問題も生じない。
第2.(2)について
1.まず、裁判所が二重下線部のような認定をする際の訴因変更手続きの要否を判断するにあたり、いずれの訴因を基準とすべきか。
 この点について、当事者主義的訴訟構造の下、審判対象たる訴因 の設定・変更は検察官の専権であるから、検察官による訴因変更を容易にすべく、現訴因を基準とすべきと解する。
2.では、いかなる場合に訴因変更手続を要するか。
(1) 上述のとおり、訴因の第一次的機能は識別機能であるから、①審判対象画定のために必要な事実について変動があった場合に訴因変更を要すると解する。
 そうでない場合でも、争点明確化による不意打ち防止の要請から、②被告人の防御にとって一般的に重要な事項については、検察官が訴因において明示した以上、原則として訴因変更を要すると解する。ただし、③審理の経過等に照らし、被告人にとって不意打ちを与えるものでなく、不利益ともならない場合には、例外的に訴因変更は不要であると解する。
(2) 本件において、二重下線部は二か所目の下線部の訴因と行為の主体が入れ替わったにすぎず、実行者及び行為の態様、日時等についてはいずれも変化がないから、審判対象画定のために必要な事実について変動はない(①不充足)。もっとも、本件は甲を被告人とする公訴であるところ、下線部では甲はVの両手首に粘着テープを巻いたに過ぎないのに対し、二重下線部ではVに対し包丁を差し向けて脅し、手拳で暴行を加えており、暴行・脅迫行為においてより中心的な役割を担っているといえる。共犯の犯罪事実において主要な役割を担っていたか否かは、本人の主観事情等とも密接に関連するため、被告人の防御にとって一般的に重要な事項にあたる(②充足)。そして、当該変更が被告の不意打ち及び不利益とならない事情は存しない(③不充足)
 よって、訴因変更を要する。
3.以上より、裁判所が二重下線部のような認定をするために、訴因変更手続きが必要である。

商法(B)

第1.設問(1)について
 BがDに所有するすべての甲会社株式を譲り渡していることから、Bは甲会社株主にあたらず、甲会社がBに議決権(会社法105条1項3号、以下法令名略)を行使させたことが違法になるのではないか。
1.まず、BのDに対する株式譲渡は有効か。株主名簿にDが株主と記載されていないことから問題となる。
 この点について、130条は文言上対抗要件を定めた条文に過ぎないから、株式譲渡は株式名簿の名義書換えを経ずとも有効であると解する。
 よって、BのDに対する株式譲渡は有効である。
2.もっとも、名義書換えを行っていない以上、Dは甲会社に対し株式の取得を対抗できず、甲会社がBを株主として扱ったことは適法になるとも思える。
3.しかしながら、名義書換えが完了していないのは、Dが適法に名義書換請求(133条1項)を行ったにも関わらず、甲会社が過失により放置していたためである。そこで、このような場合には、Dは甲会社に対し株主であることを対抗できないか。
 この点について、名義書換制度の趣旨は、多数かつ絶えず変動する株主を取り扱う会社の事務処理上の便宜を図る点にある。よって、会社側の過失によって名義書換えがなされていない場合にまで譲渡を対抗できないとするのは、信義則(民法1条2項)に反する。
そこで、このような場合には、譲受人は名義書換なくして株主であることを会社に対抗できると解する。
甲会社は過失により名義書換請求を放置していたのであるから、譲受人Dは甲会社に対し、株主であることを対抗できる。
4.以上より、Dに株式を譲渡したBは株主にあたらないから、甲会社が本件決議においてBに議決権を行使させたことは違法である。
第2.設問(2)について
1.①について
 本件贈与は利益供与(120条1項)にあたり、EおよびY1は甲会社に対し責任を負わないか。甲会社はEに対し、株主Aから株式を買い取らせるために500万円を贈与しているところ、「権利の行使に関し」と言えるかが問題となる。
(1) この点について、同条の趣旨は企業経営の健全性及び公正の確保にある。
 そこで、「権利の行使」には株主の地位に基づく権利の行使だけでなく、株式の処分も含まれると解する。
(2) よって、甲会社は、自社の計算において、株主Aの株式譲渡という「権利の行使に関し」、500万円という「財産上の利益」を供与しているから、利益供与にあたる。
(3) したがって、「供与を受けた者」であるEは、甲会社に500万円を返還する義務を負う(120条3項)。また、本件贈与を提案したY1は「利益の供与をすることに関与した取締役」にあたり、甲会社に対し500万円を支払う義務を負う(120条4項)。
2.②について
 Cは、甲会社に対しE及びY1に対する当該責任についての責任追及の訴えの提起を請求し(847条1項)、同請求から60日以内に提起しない時は、自ら責任追及の訴えを提起することが考えられる(同条3項)。
(1) もっとも、EはY1の友人に過ぎず、発起人以下同条1項に列挙されているいずれの責任主体にも当たらない。よって、CはEについて、責任追及の訴えを提起できない。
(2) 一方で、Y1は代表取締役であり、「役員等」にあたる。
(3) したがって、請求の時点でCが6か月以上甲会社株式を保有していた場合には、CはY1の500万円の支払責任について、訴えの提起を請求し、責任追及の訴えを提起することができる。

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