某Vtuberによる詐欺事件についての所感

タイトルの通りです。何人かに聞かれたので適当に書きます。要件とかをちゃんと調べずに書いてるので間違っている可能性があります。ご了承ください。

概要については
https://www.youtube.com/watch?v=9FP3Zy1oC0Q
を見てもらえればわかるかなと。

見るのが面倒な人向けに文字でざっと書くと

・母親が入院してお金が必要なので組み立てPC買ってください(相場より安め?)、先振り込みで購入者は入金
・実は入院したのは本人でした
・死んだのでアカウント消しますby母親

こんな感じ(詳しくは知らんから間違ってるかも)

ところで、今回騒いでいるのは大きく分けて何種類かに別れて

①購入者
②Vtuber
③一般リスナー

こういう事件の結末としてみんなが考えるのは

①ちゃんと商品が発送される
②返金される
③詐欺事件として立件される
④詐欺事件として立件されつつ返金または商品が発送される

の4種類くらいかな。③④を考える場合そもそも詐欺なのかって話をしないといけないんだけどね。

今回のケースに限らずに刑法の詐欺を考える前に民法の話を先にしておきましょう。

件の話の構造は単純な売買契約で、某Vtuberが「PCを売りたい」っていう意思表示をする、「購入者が買いたい」っていう意思表示をする、以上で売買契約が成立します。
そうすると某Vtuberには商品引き渡し債務が、購入者には代金支払い債務が発生する。同時に某Vtuberには代金支払い請求権が、購入者には商品引き渡し請求権も発生する。
代金の支払いは振込で、その後どういう方法、期限で発送するかとかの話は当事者じゃないから知らないけど特に定められてなければ振り込まれた時点で商品引き渡しの履行義務を負います。実際には発送するまでの期間とかの黙示的な同意があると推定されるので即時履行が必要ではないでしょう。さすがにどれくらいかかるかみたいな話はしてあったと思いますが。
ちなみに同時履行の抗弁権っていって「支払いと引き渡しが同時じゃないと嫌です」って拒否する権利はあるけどこういうケースだと「じゃあ売りません(買いません)」で終わりでしょう。

さぁ、代金を振り込みました、しかし商品は一向に届きません。
ここで購入者は考えるわけです、もしかして騙されたか?詐欺だったのか?と。
しかし、まだ詐欺事件となるには早いのです。そう、この時点では単に引き渡しが遅れてるだけなのかもしれないのです。引き渡し債務の履行が遅れてるのでそのまま履行遅滞といいます。ここで民法541条と545条を見てみましょう。

(催告による解除)
第541条
当事者の一方がその債務を履行しない場合において、相手方が相当の期間を定定めてその履行の催告をし、その期間内に履行がないときは、相手方は、契約の解除をすることができる。ただし、その期間を経過した時における債務の不履行がその契約及び取引上の社会通念に照らして軽微であるときは、この限りでない。
(解除の効果)
第545条
1.当事者の一方がその解除権を行使したときは、各当事者は、その相手方を原状に復させる義務を負う。ただし、第三者の権利を害することはできない。
2.前項本文の場合において、金銭を返還するときは、その受領の時から利息を付さなければならない。
以下略

件の話に限らず、代金を支払ったのに商品送ってこないという事案については、まず単なる履行遅滞の話であって、催告からの契約解除が考えられます。催告とか代金返還とかを無視し続けると「最初から履行意思がなかった」として詐欺事件の香りが段々と強まっていきます。
ところでネット上、特にtwitterでのやり取りの場合、ある程度信用できる相手の場合、振込口座くらいの情報しか教えてもらわないと思うので催告自体はDMとかでする形になるでしょうか。Vtuberが当事者なので個人情報はあんまり教えたくないでしょうから連絡手段はtwitterのみって感じだったでしょう、さすがに逃げるとは思わなかったでしょうしね。
さて、「死んだふり」によってtwitterのアカウントを消して連絡手段を断ったわけですがここでやっと刑事事件性が増してきます。単に代金を振り込んだのにPCを送ってこないっていうのはあくまでも民法上の履行遅滞。「〇〇までにPC送るか(利息付けて)金返せ」って話。
今回の話で「某Vtuberの罪責を述べよ」って問題がもしあったらA4用紙で2,3ページくらいは答案書けるくらい実は刑法的にはややこしい。

何がややこしいかは後で話すとして、まずは詐欺罪の条文である刑法246条を見てみよう

(詐欺)
第246条
1.人を欺いて財物を交付させた者は、10年以下の懲役に処する。
2.前項の方法により、財産上不法の利益を得、又は他人にこれを得させた者も、同項と同様とする。

詐欺罪の構成要件は意外と面倒くさくて

①相手方を錯誤に陥らせて財物等の処分をさせる行為(欺罔行為)によって②相手方が錯誤に陥り
③錯誤に陥った相手方がその意思で財物等を処分し
④財物等が行為者等に移転し
⑤上記①~④の間に因果関係があり、行為者に行為時おいてその故意および不法領得の意思があったと認められる

以上だ。一般人にはわかりにくい。わかりやすく言い換えると
①相手にお金とかを払わせるような嘘をついて
②相手がそれを信じて
③自分の意思でお金とかを払って
④お金とかが騙した人の下に行って
⑤一般的に①~④が繋がっていて、最初からお金とかを騙し取るつもりだった
という場合に詐欺罪が成立する。問題となるのは⑤の最初から騙し取るつもりだったという点で、これを立証するのは客観的証拠に拠らないとほぼ不可能です。振り込め詐欺の場合は、客観的に嘘をついて騙してるのが明らかなので簡単ですが、商品を送ってこないという場合は「最初はちゃんと売るつもりでした」って言われたらおしまいです。動画によると実際に準備してたけど用意しきれなくなって逃げたっぽいし。
「商品を送ってこないから詐欺だ!」って警察に行っても「催告とかそういうのはしたの?これってただの債務不履行・履行遅滞の話で・・・」って言われます。なのでもし警察に相談する場合には、催告や契約解除の意思表示等をしても反応がない場合にしましょう。
さて、話を戻しますと今回の話のポイントは「母親による突然の死亡報告」と垢消しによって連絡手段を断ったというところです。まぁ死んだってのは嘘だったから欺罔行為なわけです。
ここで詐欺罪の条文の第2項を見てもらいたい。これは何を言ってるかわかりにくいが、簡単にいうと「欺罔行為で何か権利を得たり、債務を免れたらこれも詐欺罪になるからな」ってことです。まぁ実際に死んでたところで相続放棄しない限り債務は相続人に相続されるんですけどね。
さぁ、死んだふりによって商品引き渡し債務を免れようとした某Vtuberですが、知人とか生存確認がされてしまい計画は失敗に終わってしまいました。むしろ成功すると思ってたのかな。このくらいの状況で警察に行って相談すれば、暇だったら詐欺かもなぁって捜査してくれる可能性が・・・ないかな。まだ履行遅滞の範囲内だから捜査してくれないと思う。ぶっちゃけ3か月は過ぎてないと捜査してくれないと思う(経験上)。
さて、人を欺いて、商品引き渡し債務を免れるという財産上不法の利益を得ようとした行為は未遂に終わってしまいました。はい、未遂です。詐欺未遂罪はあるのでしょうか。詐欺未遂罪はありまぁす!(刑法250条)
というわけで死んだふりをした時点で実行の着手が認められますので某Vtuberには詐欺未遂罪が成立します。以上です。
刑法の単位ください。 「不可」 ぐはぁ。


結末としては返金するってことなのでそもそも最初に挙げた②でした。
まぁ返金してるようだし逮捕されることもないでしょう。

ついでにバ美肉であることを隠して音声売ってたりした件について。
性別を女性であると明示してなかったら購入者が勝手に勘違いしただけなので詐欺にはなりません。女性と偽って売ってたらそれは欺罔行為なので詐欺罪です。
性別をちゃんと確認せずに購入したことは購入者の重過失になるので錯誤無効を主張しての返金もできません。
他のVtuberとかとの絡みについては慰謝料請求したら取れるんじゃない?裁判費用が10倍以上かかりそうだけど。

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