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フリゲ2020 投票した作品まとめ

 2020年に自分が楽しくプレイしたフリーゲームのうち、フリゲ2020にて投票させてもらった作品について、感想をふわっとまとめました。紹介やレビューではないです。製作者様方、および常日頃からTwitterやブログ等にてフリーゲームを紹介してくださっている方々に感謝を申し上げます。あなたのおかげでこの一年がとても楽しかったです。ありがとうございました!
(※追記 「フリゲ2020」って何?と思った方へ フリゲ20XXとは、毎年末にプレイヤー主導のもと行われているフリーゲームの年間人気投票です。このゲーム面白かったなーと思ったら手軽に投票できる企画なので、初めて知ったフリゲーマーさんは次回からぜひ参加してみて下さい!)

RPG

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Fanastasis(製作: もさもさ様)
 超大作のネフェイスト系RPG。がらんどうの主人公が復活を果たすために自らの記憶を拾い集めて荒廃した王国を駆ける、探索重視のゲームです。
 プレイングの柔軟さはオープンワールドゲームを思わせるほどで、アドベンチャーの趣きが非常に強いと思います。ダンジョン毎の個性的なギミックを切り抜けつつ、各地に点在しているかつてそこに生きていた人間の残滓をすくい上げて世界観の背景を知り、没入していくのが楽しかったです。
 探索ゲーのセオリーというかここに何かありそう!みたいな直感がだいたいその通りの設計になっているのも隠し○○好きとしては嬉しいところ。



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退廃の抒情詩(製作: もさもさ様)
 探索ジャンキーのための短編ギャグRPG。クリアだけを目指すならば30分もかからないけど、寄り道を堪能するなら数時間かかる作品です。
 探索ゲーあるあるに基づいた探索行為を楽しむためのゲームとして徹底されており、何を調べても(「何かあるはずと思わされる虚空」ですら)主人公が反応を返してくれるのが面白かったです。実績やアイテム図鑑などコンプ厨をくすぐる要素が満載でした。公開自体は三年前だけど、ちょくちょく内容が追加されており、今年ついにバージョン1.40となったので投票させていただきました。



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光芒を渡る。(製作: なんか。様)
 VIPRPG GW祭2020の参加作品。素性も関係も知れない一人の男と一人の女が、罪人たちによって形成された煙たい地下都市から共に這い上がって青空を目指すノンフィールド・スチームパンク中編RPG。
 ノンフィールド形式とシビアな難易度が作品の雰囲気と調和して気持ちの良い緊張感を生んでおり、主人公たちの歩みの切実さをひしひしと感じながらプレイしました。トラップの存在感がトラップらしくちゃんと薄いため、画面を注視していないと痛い目を見るあたりがゲーム内の状況とシンクロしていてとても良かったです。シナリオ・UI・操作感の全てがガッシリ噛み合って世界観を表現している作品だと思います。



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逝道(製作: 藻太郎様)
 VIPRPG紅白2019の参加作品。妹を背負って妖魔のひしめく山奥へと一人向かった男のなんてことはない顛末を語るノンフィールド掌編RPG。
 ノンフィールドゲーではあんまり見ない気がする横スクロールデザインで、そのせいか主人公の歩みも邁進というより淡々とした印象が強かったです。リソース管理はあるけど難易度は低め。余韻を噛み締めて沈黙せざるを得ない作品でした。『ドグマの箱庭』を想起する、原初の無常感……
 妖魔のビジュアルデザインが、単に気色悪いバケモノというよりも「何かが間違ってこうなっちゃった」感が強くてかなり好き。



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ウィンディ絶滅計画(製作: 藻太郎様)
 VIPRPG GW祭2020の参加作品。人類総ウィンディ化による世界滅亡を食い止めるべく青いツナギを着た男性と仲間たちが奮闘する物語です。藻太郎さんの過去作をプレイしている人へのファンサを感じる作品でした。
 システム面では快適さという点でユーザビリティの高いRPG、シナリオ面ではエログロナンセンスがさらに加速した印象を持ちました。戦闘画面が妙にかっこよくていちいち笑ってしまう。個人的にはおまけ部屋での創作論と、なみのりを覚えた後に行ける例の場所の存在がとても好きです。



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Dark Malice(製作: だむ様)
 VIPRPG夏の陣2020の参加作品。一般通過女神トラックに轢き飛ばされて荒廃した異世界にトリップしてしまった主人公が、元の世界に帰るために遥か北の地を目指すネフェイスト系RPGです。
 個人的所感としては「とっつきやすいネフェイスト」かなと思います。ツクールMVなので操作感が軽いことや舞台が主人公にとって異世界であるがゆえの距離感があること、雑魚と衝突しても戦闘を回避できるギミックがあること、戦闘デザインがあんまりシビアでないと感じたこと等が主な理由です。冒険に際して手厚く助言してくれるガイド魔法陣の存在も大きかったかな。とは言え難易度が低いゲームでは決してなく、キャリーソウルシステムによって常に探索にほどよい緊張感が伴うところも楽しめました。



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捨てるしかない シンソウ版(製作: mrw様)
 魔王を討伐するためにゴミ溜めに潜るダークファンタジー・ボスラッシュRPG。舞台はこの世の全ての土葬者と神の死骸が集まる巨大な吹き溜まり。
 このゲームの特徴は「持てる物品の数は全部で14個」という点で、使用アイテムや武器防具、仲間すらひっくるめてカウントされるため、自分自身以外は全てをとっかえひっかえして敵を倒していかなければならず、取捨選択に常に緊張感があって楽しかったです。バトルシステムにもかなりクセがあり、レベルを上げて殴る脳筋戦法が禁止されているあたりからしても、試行錯誤の楽しさを突き詰めた作品だと思いました。



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封獄のモノクローム(製作: あきね工房様)
 今年のウディコンの参加作品。伝説上の勇者に憧れている少年が遺跡探索のアルバイトに参加したら想定していたより厄い案件だった中編RPG。
 カウントタイムバトル方式に前後衛交代システムを導入した、戦況の変化が目まぐるしいサイドビューバトルが魅力的でした。コマンド一つ選択するのにも、それを選んだことでどのように影響が連鎖して場が変化するかを見越した思考が必要となり、緊張感がありました。キャラクターの能力や技能をカスタムできる自由度の高さもあり、「どういう風に戦うか」について最大限自力で考えて難所を突破するのが非常に楽しかったです。



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Luna Plena(製作: fristal様)
 長い眠りから覚めた月世界のお姫様がそこらじゅうに蔓延った穢れ(モンスター)を浄化して回る、外国産の短編RPGです。落ち着いた色合いを基調とするビジュアルデザインから生まれた静謐な雰囲気が素敵でした。翻訳がちょいちょい面白いことになってるのも味がある。
 カウントタイムバトルを採用したサイドビュー戦闘が楽しかったです。即座に使用できる物理技、詠唱時間が必要な呪文、ここぞというときの大技を使い分けて複数の敵を相手取るのが面白い。プレイ中に難易度を変えられるので、こういう形式のバトルに不慣れな人にもおすすめできると思います。



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Qualia-盲唖の歌姫-(製作: すぎやん様)
 様々な思惑を乗せた遊覧船を舞台として、凄腕の電脳局員であるリッカーマンの爺さんが歌姫誘拐予告の捜査に乗り出すサイバーパンクRPG。独特なサイバー世界を構築するドットグラフィックの色彩、臨場感のあるバトルシステム、信念をもったキャラクターたちが魅力的な作品です。
 まだルートを全回収できていないけれど、本作は作者様の考え方や表したいテーマがゲームデザインの根底に強く流れており、だからこそシナリオに滾るような熱さがあるのだと思いました。序盤にとる行動によってその後のシナリオががらりと異なる細やかな設計がとても好きです。プレイヤーの意思をも重んじている一貫性を感じます。



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クラスメイズ(製作: かげろう様)
 突如迷宮と化した放課後の学校をクラスメイトと共に探索する中編RPG。キャラクター六名にそれぞれの性格や得意分野に基づいた個性的なスキルがあったり、状況に応じて隊列を柔軟に変えるのが戦闘攻略のキモであるところに、彼らのチームワークを感じながら楽しくプレイしました。
 友達というにはいささかドライだけど他人というには気安すぎる、クラスメイトの絶妙な距離感の中で和気藹々としている様子が微笑ましくて良かったです。ていうかこんな異常事態なのに誰もヒステリー起こさないし、かなり理性的ですごい子たちだと思う。



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Grimm's Hollow(製作: Mahum Najam様 翻訳: ぬりかべ様)
 ハロウィンにリリースされた外国産の短編RPG。目が覚めると死神になっていた主人公が弟を黄泉がえらせるために鎌をたずさえて奮闘する物語です。童話みたいにファンシーな雰囲気のグラフィックがとても可愛い。
 新人の死神として、死神の集まる街・ホロウから洞窟に一つずつ潜っていき、ゴーストを刈り取りつつ最深部を目指すことを繰り返します。戦闘はアクティブタイムバトルなので、鎌を見事に振り回してゴーストに攻撃するドットアニメーションと相まって、動きのある戦闘を体感できました。
 戦うお姉ちゃんのかっこよさと健気な姿にグッとくる作品です。



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収監少女ジャンヌ(製作: エキサイト様)
 頭の軽い勇者がノリの軽い神様の助力を得て帝国からの脱獄を目指す、短編アッパーコメディRPG。ノンフィールドかつボスラッシュなので、トンチキストーリーパートと手厳しい戦闘パートの切り替えがはっきりしていてテンポ良く楽しめる作品です。戦闘はundertaleのような弾幕ゲーを採用しており、キーキー言いながらリトライを繰り返して夢中になってプレイしました。頭空っぽにして楽しめる良質なコメディゲーだと思います。終始ふざけた雰囲気だけど、ボス戦だけはしっかりシメるあたりも好き。



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TOWER of HANOI(製作: せがわ様)
 個性豊かなアンドロイド「HANOI」たちとバーチャル世界「TOWER」を冒険する長編RPG。せがわさんの作品恒例の寄り道要素、可愛らしいドットグラフィック、そして露悪的エグみを堪能できるゲームです。
 キャラクターとの交流を通じて彼らをより深く知ることが趣旨であるような、いわゆるキャラゲーの極致と言える作品だと思います。圧倒的なテキスト量によってHANOIたちの背景や人格の奥行きが増していました。
 そんな魅力的なキャラゲーでありつつも、人間の悪性をカリカチュアしたモンスターをサンドバッグ代わりにボコらせるだけという対症療法にもなってないお粗末なやり方では取りこぼしてしまうHANOIたちの苦しみに向き合おうと努める、健気な主人公の姿が何より印象的でした。



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NAROUファンタジー(製作: ウスバー様)
 勇者として異世界に召喚された男子高校生の成長を描く長編SRPG。
 SRPGのシステムに乗っ取った作品ではあるものの、一つ一つのステージを突破するために必要なのは推理力や発想力というのが面白かったです。クリック式推理アドベンチャーに近い手触りでした。そしてシナリオ上での伏線の張り方が見事の一言に尽きる。散りばめられた要素の意味するところに気付いたときのカタルシスがとんでもなく気持ち良かったです。
 公開は三年前ですが、今年更新があったので投票させてもらいました。



ADV

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クソゲームガールわてりー(製作: かねたれ様)
 VIPRPG GW祭2020の参加作品。かねたれ氏が今までにスレに投下したksgに新作を加えてマリオ64みたいなつくりになったコレクションゲー。
 多種多様なksgがプレイできるだけで充分面白いのに、それらを「ミニゲームを遊ぶことでトロフィーが貰える探索ゲー」としてまとめ直した工夫にうなりました。探索欲と収集欲を刺激されて、プレイし尽くしてやる!!という気持ちに上手いこと乗せられてしまいました。『ブレわて』から探索の楽しさについてのセンスが一貫しているところもすごく嬉しかったです。
 ksgを集めた探索ゲーとしての本作をさらなる外側から捉え直して物語性を付与するための仕掛けもあり、盛り沢山な作品でした。



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ようこそしょうゆわーるど(スレ投下作品)
 ムシャが謎のしょうゆわーるどに迷い込む探索系やるゲ。胡乱極まる世界の各地に存在するという三種の神器を集めて家に帰るのが目的です。
 VIPRPGならではの節操のないお祭り騒ぎのカオス感と芸の細やかさが見事に親和した良作でした。このパロディに関するふところのデカさ、まさしくVIPRPGという感じ。愛着あるキャラクターが大集合して常にわちゃわちゃ可愛らしく動いているので視覚的にも楽しかったです。軽めの謎解き要素や大豆の収集要素もあったりして、探索ゲー好きにはたまりませんでした。コンパクトな作品なのでとっつきやすさの点でも良かったです。



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ポイズン毒消し(スレ投下作品)
 メスガキキャラクターのアンチドーテーちゃんがポテチ王国に指名手配かけられた流れでナイ軍にちょっかいかけに行く探索系やるゲ。様々に悩みを抱えたナイ軍メンバーに正しく手助けするか、引っ掻き回して悪化させるか、どういった態度をとるかによって光闇のどちらかにポイントが加算されていきます。
 オリジナルキャラクターのアンチドーテーちゃんのみならず既存のもしもキャラクターたちが皆活き活きと描写されており、愛を感じました。探索ゲーとしての作り込みも最初から最後まですごい。特にリザルト画面! 味気無さとはどこまでも無縁の、丁寧に楽しさが詰まった作品だと思います。



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追星カスケード(製作: ほーむorあうぇい様)
 今年のウディフェスの参加作品。美しい実写風景と心洗われる水音に浸りつつ川を越え滝を越える、コマンド選択式ノンフィールドADV。『ソラドウト』を手掛けた方の新作と言うと雰囲気が伝わりやすいかもしれません。
 清涼な空気にどっぷり漬かるためのゲームで、すごく癒されました。綺麗な素材をただ使っただけじゃ出せないクオリティだと思います。夜寝るときに雨音動画とか聴くタイプの人向けの作品だと感じました。



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扉は君の鍵で開く(製作: 暗闇行灯様)
 今年のウディコンの参加作品。高校に転入してきて早々に奉仕活動部なるグループの一員となってしまった主人公が、校内を駆けずり回ってトラブルを解決する推理ADVです。
 キャラクターに話しかけるときにあらかじめ決めておいた単語について質問できるシステムを用いることで選択肢の総当たりによる突破を許さない設計になっており、推理の楽しさと厳しさにヒイヒイ言いつつプレイしました。徹底的にプレイヤー自身の発想力を要求してくる作品です。
 まだ比較的カジュアルな推理に収まっていた前半と、今まではウォーミングアップに過ぎなかったのだと思い知らされる後半とでまるで作品の温度が変わってきて驚きました。シナリオの構成力がすごい。



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のろいあれといって(製作: まさる星人様)
 復讐を遂げるためにイケニエを集める、やることはそれだけの掌編ホラーゲーム。狭いマップをうろつくバケモノたちを殺し回って祭壇に捧げます。
 後味の悪さに極振りした設計になっており、ゲームという媒体でしか体験できない恐怖が詰まっているため、「ホラーゲーム」の一種の真髄と言える作品です。けっこう人を選ぶ仕掛けだと思うけど、私はこういう風にプレイヤーを取り込むやり方が大変好みでした。介入しているのはこっちなのに浸食されている心地。あとBGMの選曲がちょっと的確すぎて、アメイジング・グレイスを二度とまともに聴けない体になってしまった。



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メメント・モリの夜(製作: 井戸端様)
 主人公を操作してハッピーエンドに導いてあげるADV。何やら執拗に追いかけてくるエネミーから逃げ回り、ときにはタンス等に身を隠しつつも建物内を探索して鍵を集めたりなんだりするあたりはわりとオーソドックスなフリーホラーゲームなんだけど、腹ペコの主人公がものを食い漁るたびに知能が向上してできることが増えていくシステムが目新しくて楽しかったです。
 何より個人的に一番良かったところがクリア後の演出でした。こちら側が積極的にやらかさないと見れないあたりがすご~~く好き。私はプレイヤーとして主人公との距離感を心地よく感じました。



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Good-Bye to Youtopia(製作: 深海フェイクメイカーズ様)
 主人公を操作して簡素な謎を解き、鍵を取得し、扉を開けてより深く潜っていくシンプルかつ単調なADV。大好きな作品です。公開自体は二年前だけど、ちょうど今年更新があったので投票させていただきました。



ノベル

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Diva&Gunshot -ウタヒメ ト ジュウセイ-(製作: 稲海様)
 ひと昔前のアメリカ合衆国を舞台として、冴えないブン屋の男性が厄介な騒動に巻き込まれていく、一本道の中編ノベルゲーム。
 相手を選ばずおすすめできる最高のエンターテイメントです。とにかくツイてないことに自他からの定評がある主人公が押し付けられた複数の記事のタネをヤケっぱちで取材していくうちに、彼のもとに文字通りこの物語の全ての要素が収束していくサマに圧倒されました。どこかエスプリの効いた小気味よい言い回しもあって、洋画を見ているような心地になりました。王道の面白さをしっかり備えた展開の爽快感が気持ち良い作品です。



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螺旋卵形線チェルアルコ(製作: Sinilintu様)
 目覚めるとそこはファンタジックな異世界だった長編乙女ゲーム。古い魔法使いが創ったとされる神秘的な世界の中で、主人公が運命に翻弄されつつも幸せになるために足掻く、人間賛歌の物語です。
 同作者様の『青のアウェアネス』と共通する作り込まれた世界観、因果が美しく絡み合うシナリオ構成、生命の宿ったキャラクター、艶やかなビジュアルデザインが合わさった素晴らしいノベルゲームでした。キャラごとに複数存在する個別ルートの一つ一つが側面となって最終的にプレイヤーの前に浮かび上がる、神話のごとく壮大な巡り合わせの物語に打ち震えました。ここぞというときのスチルの美しさったらない。選択する意思への祝福に満ちた作品だと思います。



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うみをはむ(製作: 背泳様)
 小さな島国を舞台として信仰にまつわる物語が展開する女性向け中編ノベルゲーム。美しい海を臨む土着信仰の寺院を管理する立場の主人公と、その寺院に名目上の従者として勤めている男性の交流を描いた物語です。
 民俗学的観点を含みながら練り上げられた綿密な設定が非常に魅力的な作品でした。また、キャラクターの核に宗教信仰とはまた別の「信仰」があるところも面白かったです。信念よりは切実さが幾分強い印象のそれを抱えている彼らを愛おしく思いました。
 波が寄せては弾ける音と、熱い潮風を感じる作品でした。



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てんがいちかく(製作: 相互不理解様)
 記憶を失って入院している主人公のもとへ見知らぬ青年が見舞いにやってくるゲーム。青年の方は主人公のことを知っているようで、彼女のパーソナリティについて色々と聞かせてくれます。
 文字のみならずゲームを構成する全てを使って物語を表現しており、ゲームであることを最大限に活用している作品だと思いました。周回前提となる設計もそうですが、シナリオを読み進めるだけの操作ではたどり着けないようになっているのが好きです。操作って行動なんだよなあ。
 私はこの主人公だからこそ(ああした結果にいたる彼女に向けたものだからこそ)彼の行動がこうも愛らしく映えるのだなあと思いました。



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もんだいがある▼(製作: 相互不理解様)
 高校入学してまもなく初対面の不良生徒に告白される掌編乙女ゲーム。平穏無事に日々を送りたい主人公が火の玉豪速ストレートな好意をかわすために対話を試みるところから行動次第で話が転がるラブコメディです。
 短い尺の中で登場人物それぞれを新鮮なキャラクターとして確立させている上に、会話のテンポがすこぶる良いので読み進めるのが楽しかったです。好意の示し方にも話運びにも勢いがあるお話でした。
 本編とおまけ部屋それぞれの取り扱い方を見るに、ゲームに対するプレイヤーの視座を強く意識しているつくりだと思います。心底好き。



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花散るまにまに(製作: 相互不理解様)
 「私」が「お兄ちゃん」と一緒に花火を見ながら他愛のない会話をする、夏のある日の思い出、それだけのお話。「私」のお喋りを聞いている「お兄ちゃん」の表情の変化や眼差しの優しさがたまらなかったです。何よりエンディングがコンプリートされたことを反映してこのゲームの意味がああいう風に変わるところが狂おしいほど好き。
 プレイ体験そのものや構造に意味が宿る作品なので言語化し難いんだけど、素敵なゲームでした。



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手は口ほどに物を言う(製作: 木製3秒間様)
 高校二年生の主人公が、ワケあって学校名物の委員会活動に参加するところから物語が展開する短編青春乙女ゲーム。登場人物の顔や姿が一切描写されない代わりに、タイトル通り手先の動きを切り取ることで感情の機微を表現している面白い作品です。彼らのそのときの顔には表れなかったかもしれない情動を反則的に見てしまった気がして可愛らしいやら気恥ずかしいやらで大変でした。歯ァ食いしばらないとうめき声が出てたと思う。
 文体に主人公の素朴な気質と柔らかい眼差しが反映されており、読みやすさと心地よさを感じました。描写が丁寧で素敵な作品だと思います。



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桜影に揺蕩う(製作: 飴ツユ様)
 男遊郭を舞台とする中編BLゲーム。裕福な家の跡取り息子として真面目につとめてきた青年が、そろそろ火遊びの一つでも経験しときなさいと母親に無茶苦茶言われて男娼を買うことになり、色々とすったもんだするトンチキラブコメディです。
 全体通してシナリオの緩急が素晴らしかったです。キャラクターが漫才のような掛け合いをしながらもタイミング良く場面が切り替わるため、遊郭と家のたった二つを行き来し続ける長編でありながら全く飽きが来ませんでした。また、テンポの良いコメディで読者を引き込みつつ、確実に変わってゆく関係性を描写する文章力にうなりました。コメディ10割だと思っていたら起承の間に積み立てられたラブの論拠にぶっ飛ばされて転がる作品です。



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汝の神を愛せよ(製作: 露骨様)
 田舎の小さな教会を舞台とする女性向け短編ノベルゲーム。幼い頃に孤児院から教会に引き取られて以降、司教位の男性のもとでそれなりに楽しく暮らしてきた少女が、18歳の誕生日という節目を迎えたことで教会から出て独り立ちするかどうか決断するまでを見守るお話です。相も変わらず読み進めるにあたってこの上なく快楽を感じる気持ち良い文章でした。フィクションの宗教が好きなので、教義や成り立ちを知るのがとても楽しかったです。
 私は愛している人を手放せるキャラクターのことを尊敬しているので、司教のとった行動は真意に関わらずマジで最悪だと思うけど、彼のことが愛おしくてなりませんでした。諸々込みで結局エンド7が一番好きです。



番外編

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WIZMAZE 帝都の守り人【体験版】(製作: Jakalope様) 
ダークファンタジーRPG『WIZMAZE』の外伝、体験版。あの徹底的に練り上げられた重厚な世界観を別の角度から少しだけでも垣間見ることができて興奮しました。選択肢システムに仕掛けられたとある操作の重要性がめちゃくちゃ私の好みなので、これにWIZMAZEの物語上具体的にどういった意味が乗ってくるのか知るのが今から待ちきれないところ。



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ユンヤダム【体験版】(製作: ローゼンクロイツ様)
 モナーRPGの神の新作ゲヱム、体験版。まさかゆ虐エッセンスを取り入れるとは思ってなかったので流石に動揺したけど、実際の内容を見て氏の作風との親和性の高さに笑ってしまいました。題材が題材なので今までより人を選ぶ危険物が爆誕しそう。ともあれ完成版が楽しみです。



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ReisenSPQRDragonGirl(製作: SNEEDLE様)
 フラッシュゲームで一番好きな作品。三作ともに勇敢な女の子・ジッタを共通の主人公に据えるクリック式謎解きアドベンチャー。
 両親を亡くしたユダヤ教徒の少女が第二次世界大戦のさ中の激動の時代を駆け抜ける『Reisen』、共和政ローマの貴族として生を受けた少女が愛のために戦争の渦中に身を投じる『SPQR』、ニューヨークの裕福な家に生まれた下半身不随の少女が車椅子を乗り回して父の失踪の謎を探る『DragonGirl』と、いずれも過酷な状況に晒されても必死に生きる主人公の姿に胸打たれる物語でした。
 Adobe Flashのサポート終了に伴って2020年12月を最後にプレイできなくなってしまうため、ここで紹介させていただきました。