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白浜公平/5枚の写真から語る『蓋と路上観察と私』/都市のラス・メニーナス【第17回】

2020年から「路上観察の現在地を探る」として、いろいろな方をお招きして、その方が見ているものの魅力、また、どうしてそういう視点に至ったかなどを、片手袋研究家の石井公二編集者・都市鑑賞者の磯部祥行がお聞きしてきたトークイベント『都市のラス・メニーナス』主としてYouTubeで配信してきた。「ラス・メニーナス」とは、17世紀にベラスケスによって描かれた、見る人によってさまざまな解釈を生じさせる絵画。街も、人によって、まったく異なる見え方をしているはずだ。

平井オープンボックスを会場として、毎月1回開催中。平井に移って2回目、通算第17回が2023年5月28日(日)に、鉄蓋鑑賞愛好家の白浜公平さんをお招きして開催された。

中央が白浜公平さん。左は磯部祥行、右は石井公二(写真=丸田祥三さん

「5枚の写真」で白浜さんの活動を語る!?

白浜さんは鉄蓋(マンホールの蓋※)の趣味者として多くのメディアに登場している。その鉄蓋を検索したときに、まず目にするのが白浜さんの「駅からマンホール」のサイトだろう。白浜さんは送水口の分野でも「村上製作所」を送水口趣味界隈と結びつけ、それが送水口博物館になるなど、非常に大きな役割を果たしている。そんな白浜さんから送られてきた「5枚の写真」。鉄蓋の写真が中心かと思いきや…?

※道路上などに設置されている鉄の蓋は世間一般では「マンホール」と言われるが、「マンホール」は人が出入りする垂直の穴のことであり、その蓋は「マンホール蓋」という。鉄蓋だからといってマンホールというわけでもない。人が入れない構造の蓋も多々ある。

まずは1枚目。告知画像にも使った写真だが、文字を載せたので、告知画像では「消防関連?」くらいにしか感じないかもしれない。実際はこう。広大な敷地で、防火水槽の蓋が開き、そこにポンプから吸管が伸び、他方にホースが伸びている。

これは偶然見かけた出初め式の写真。下水道のマンホール蓋ではないが、穴が実際に機能している状態を見ることはなかなかない。蓋・機能・使い手のすべてが写っている写真ということで、1枚目に挙げられた。

もともと白浜さんは「古いもの」が好きで、その一つがマンホールの蓋だった。学生時代につくばでデザイン蓋を撮影し(それが1枚目)、後日、合併で消失した自治体の蓋を撮影(それが2枚目)したことから急速にはまっていく。

ハイボールは17時まで毎日39円…! 生中は193円

2枚目はこれ。白浜さんから話をうかがうまで、なぜ、たった5枚しか選べない写真のうちの1枚がこれなのか、わからなかった。何かの記念? たしかにそうだ。関西の趣味仲間とマンホール蓋を見るためにあちこちをめぐった後で入った居酒屋だそう。

「うまい酒が飲めればいいんですよ」。白浜さんは言う。趣味は楽しい仲間と楽しく行い、満足いく成果も得られれば最高だ。趣味なんだから。この写真は、白浜さんが趣味を楽しむ心意気を示すものだった。

林さん手書きの資料

3枚目は、ノートに描かれたイラストと「白浜さま…」の文字。路上観察の歴史を知っている人は、マンホール蓋といえば林丈二さんの名前が大前提として出てくるだろう。「路上観察学会」が発足するきっかけが、そもそも林さんだ。1984年にマンホール蓋の本を刊行しているが、撮影はその十数年前からに遡る。なお、『都市のラス・メニーナス』でも第13回「水路上観察入門(髙山英男・吉村生)」でご登壇いただいている。

その林さんのいままでを総括した展示があり、また、過去の資料を頒布する会があった。あいにくめざすソレを白浜さんは入手できなかったが、後日、別の資料が出てきたとかで、それをいただくことができた。その写真である。

これはその林さんのイベントの写真。3枚目の補足。


明治時代の人類学者、坪井正五郎

4枚目は人物の写真。「今和次郎が考現学を起こす前に考現学者であった」と路上観察学会が言うほどの存在。今の師匠となる柳田国男と南方熊楠を引き合わせたりもしている。坪井は江戸から明治に切り替わる際に、髪型・服装・履物を組み合わせて分析していて、これは路上観察とは違うと感じるかもしれないが、路上観察学会にも女子高生の制服を分類した森伸之氏がいる。

「この写真を出したのは、路上観察の祖にあたる人が、大泉洋に似ていることをお知らせしたかったのです」。えっ!

『明治神宮と大東京』
『大東京市民ノ常識』

4枚目の補足。いまから102~3年前、大正9~10年(1920~21年)に刊行された「常識」の本だ。そこに、マンホール蓋の図解がある。『大東京~』の右上は「地下電話線の電纜を接合又は工作する為めに設けある(ママ)地中函(マンホール)の蓋」、左上は「改良下水掃除又は工作をなす為めに設けある地中函の鉄蓋」などと説明がある。当時、下水道の普及はわずかで、ようやく鋳物の蓋が出始めたころ。この蓋のある場所は衛生的近代化の先端であり、その象徴であるマンホール蓋を「常識」と言っている資料だ。

この冊子を書いた人は誰なのか。ずっと探している。

楽しくやれればいいな

白浜さんは、路上観察の「健全な批判」ができる場所があるといいな、と言う。マニアフェスタはその回答の一つとなるだろうし、私たちは、この『都市のラス・メニーナス』も、その役割が果たせたらいいと思っている。

5枚目のこの写真は「楽しくやれればいいな」という気持ちが込められている。石井・磯部が知る白浜さんは、鉄蓋の研究家としての数々の歴史的事項の発見やアーカイブの方だったが、実際の活動は2枚目の写真の心意気を持ちながら、存分に楽しんでおられることがよくわかるトークだった。

アーカイブはこちらから

(1)YouTubeにて最初の30分を公開しています。

https://www.youtube.com/watch?v=wmGezH2tYnw

(2)配信すべてを有料にて観覧いただけます。
『5枚の写真から語る蓋と路上観察と私』都市のラス・メニーナス


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