<一次創作案>蒼く沈む世界で

プロローグ

地球の温暖化は21世紀になっても止まることを知らず、ついに22世紀になって北極と南極の氷がすべて融けてしまうことが研究者によって明らかになった。
宇宙探査によって火星と月に人類が移住することが可能になった世界で、人類はこぞって地球から避難することを選んだ。しかし、地球と共に運命を共にしようと考える人間たちもいた。
彼らは沈みゆく沿岸部の栄えた土地を捨て、かつて研究者たちが沈まないと言っていたわずかな高地に望みを託した。
そして、地球のほとんどは、500年の時を経て繁栄と共に海に沈んだ。わずかな陸地で、君たちは身を寄せ合うように生活をしている。地球の温暖化は変わらず進んでいる。いつ、君たちの住む世界が沈んでしまうかは、誰にもわからないのだ。

世界設定

今から500年後の地球、陸地はわずかしかありませんが、その中でも大きい陸地が5つはあります。あなたたちはその中の一つ、「食料の街:サード」と呼ばれる陸地に住んでいます。この陸地は東を向いた三角形のような形(▶)をしています。広さとしては今の北海道の半分くらいしかありません。
ちなみに、他の陸地としては、「技術の街:ファースト」、「山の街:セカンド」、「自然の街:フォース」、「機械の街:フィフス」がありますが、未知の陸地があると信じている人たちもいます。この5つの街は互いに交易を行うことで生活を維持しています。

今でいう「大都市」はそのほとんどが沿岸部にあるため、すべて海底に沈んでいます。深さは100mといったところでしょうか、海底都市群として観光資源になることもあります。
現代の技術はそのほとんどが失われており、「ファースト」が現代の技術を再現すべく研究を行い、「フィフス」がその技術をもとにいろいろな機械を作ってはいますが、「サード」の技術ははるか江戸時代まで文明が退化しています。食料生産には向いている高地だったため、食料の生産・輸出が主な産業になっています。
なお、ロストテクノロジーとして電気と医術は残されており、海上発電所と太陽光発電所が各陸地に作られ、各陸地はその恩恵にあずかっています。とはいえ、「サード」では電気はラジオや照明、医術は簡単な処置くらいしか技術としては残っていません。「サード」での人々の移動手段は基本的に馬車です。食器など日常品についても、木製のものがほとんどです。

「サード」で生活している人たちは、大きく4種類に分けられます。他の陸地と交易をしている「シティ」と呼ばれる街、シティの郊外に作られている小さな集落群「アーバン」、シティとアーバンの生活を守る「自警団」、生活のため交易船を狙う「海賊団」です。「海賊団」に対しては「自警団」から選ばれた交易船を守る「海軍」があり、あなたたちは「海軍」か「海賊団」に所属することになります。

「サード」における区割りについて

「シティ」は他の陸地と交易を行いつつ漁業を行う港町であり、そして後述しますが「アーバン」からの食糧供給を受けるため、西側に幅5mほどの交易路があります。

「シティ」は「首都」にあたります。(物理的に)高いビル群や商店が軒を連ねて富裕層の人々が主に住み、「アーバン」の人々の憧れとなっていますが、その一方で自分たちで魚以外の食料を作ることができない都市群なので、「アーバン」の恩恵を受けずに人々は過ごすことができません。
主に木製の「コイン」が流通しており、人々はそのコインを使って生活しています。「サード」には金属がほとんど存在していないため、通貨は木製です。多く持っていることはもちろん富裕層の特権ですが、木製であるため風化しやすく、早くコインを消費しようとうまく流通が回っています。服屋などの商店は「シティ」の中にしかありません。

「アーバン」は「シティ」から西に離れたところに点在している、小さな集落です。集落外の土地で穀物や酪農、野菜生産など食料生産を行い、それを「シティ」に売ることで生活をしています。「アーバン」ごとに得意な作物があるため、物々交換を行うことも日常の光景です。
「シティ」で収穫物を売ると対価として「コイン」がもらえますが、「アーバン」ではあまり普及していません。より風化が早くなるからです。得たコインはシティの中で、服を買ったり普段食べられない食事を摂ったりと、ほとんど使い果たしてしまわなければなりません。

「アーバン」にはしばしば収穫物を狙って野盗が現れることもあります。特に「シティ」には多くの作物が集まるため、より盗賊が多く出没します。その被害から人々を守るために結成されたのが「自警団」です。出自はいろいろですが、主に「アーバン」出身者で結成されています。とは言えリーダーは「シティ」出身です。交易路を守るため24時間交代で見張りを行い、その賃金で生活を賄っています。自警団は「シティ」の中に寮があり、そこで規律正しい生活をしています。
その中から選ばれたエリート集団が、他の陸地との交易を行う交易船を守る「海軍」に所属することになります。ただ単に屈強というわけではなく、部隊を取りまとめる統率力や参謀など、選ばれる基準は様々です。交易船は他の大陸との技術交換によりかなり大きい船となっていますが、海軍の船はさほど大きくありません。「海賊団」に速やかに対応するため、大きすぎてはいけないのです。自警団とは違う寮で生活しており、その質は高く、高価なユニフォームで制服が揃えられています。

「海賊団」は「サード」から東に離れた海の上の小島に作られた小さな自治組織です。この島には古い海水ろ過施設があり、海水をろ過して飲用水にできたり、海水を利用して発電できたりすることが可能です。小島の中の電気はこの施設でまかなっています。小島の上で生活を送り、交易船を襲うことで金品や生活用品を得ています。移動手段はもちろん船です。
漁業を行っているため、「シティ」の小さな漁港に他の漁船と紛れるように入り込み、コインを得ることもありますが、基本的に交流はほとんどありません。今でいうスラム街みたいなものです。
海軍に対抗するため、独自の造船技術を持っていますが、海賊船は小回りは効くもののさほど大きくなく、海軍船に乗り込んでからの肉体戦を得意としています。

「サード」に住んでいる人々について

人々の寿命はおよそ60歳くらいです。簡単な外科的医術しかないため、病気にかかってもそれを治す技術がありません。病院も大規模なものは「シティ」にしかなく、「アーバン」では診療所が街に1つあるかないかレベルです。

地球の温暖化は進んでいると前述しましたが、「サード」の地形でいうと西側からどんどん土地の水没が進んでいます。海水の増加についてはメカニズムが解明されていないため、いつ大波が襲ってきて街が飲み込まれるかわかりません。「アーバン」の人々は海の恐怖を知り、戦々恐々としている人もいれば、これも運命だと悟ってそのまま生きている人もいます。より西にある「アーバン」の人々は、自然と共に生きて死ぬ、という考えの人が多いようです。

教育は「アーバン」では寺子屋的な存在が診療所と同じレベルで存在していますが、より高等教育を受けるとなると「シティ」に行くしかありません。ただ「シティ」も限られた土地の中で生活しているため、よほど「アーバン」で稼がないと高等教育を受けることはできません。逆に、「シティ」の人々は教育で得た知識がうまく使えないと「アーバン」に帰らされてしまいます。そこで寺子屋を開いて生活している人たちもいるのです。また、日々の生活に飽きを感じ、「盗賊団」にその身を投じる人たちも、決して少なくはありません。

他の4大陸については、「シティ」に長く(少なくとも10年以上)住んでいる人でなければ知ることはありません。「アーバン」でもその存在を知る人はほとんどいないでしょう。ましてや他の陸地の特徴を知る人は、交易を行う人以外は「シティ」でもほとんどいません。「交易を行う」ことが、「サード」の人々にとって一番のステータスなのです。
よって「シティ」には巨大な貿易港が1つあり、そこで他の大陸との情報共有をしています。また、小さな漁港は「シティ」の沿岸部に点在しており、「アーバン」からやってきた人たちが漁業を行い、商店に魚を卸していることが多いです。
「海賊団」はこの漁港に漁船として紛れ込み、中には「シティ」での束の間の生活を楽しむ人もいますが、漁港はあくまで小さな港であり、その正体がばれることはほとんどありません。「海軍」とすれ違ってもわからないでしょう。「海賊団」はそれほど巧みに立ち振る舞っているのです。

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