総合格闘技の勝敗予想を狂わせる認知バイアスとは?「超RIZIN.3」に学ぶ

 2024年7月28日。この日行われたのが「超RIZIN.3」。あなたも興奮と熱狂、ワクワク・ドキドキを楽しんだのではないだろうか。

 さて。格闘技観戦の楽しみ方の一つは、「勝敗予想」である。あなたも「こっちの選手が勝つかな〜どうかな〜」などと予想していたのではないだろうか。

 YouTubeを見れば、プロの格闘家や元プロの格闘家、他競技のアスリート、そして格闘技系YouTuberと呼ばれる人々が予想動画を挙げている。

 メインカードの朝倉未来VS平本蓮 戦に関しても、多くの勝敗予想が行われた。その多くは朝倉未来が勝つと予想していた。対して、平本蓮が勝つと予想していた者は少数派であった。

 試合が終わると、勝者ではない方の選手を予想した者を「こいつらは見る目がない」などとなじる意見も見られた。

 この話をしている筆者も、「応援しているのは蓮くんだけど、ここ最近の雰囲気を見るとみっくんが勝ちそうな気もしてくる」と勝敗予想を立てるのが難しかったものだ。

 勝敗予想では得てしてこうしたことが起きる。勝敗予想を間違えてしまう。それは何故なのか?一体何故、プロの格闘家でさえも、勝敗予想を外してしまうのか。

 この問題について、原因となりうる要因を導き出すのに役立ちそうなヒントが「認知バイアス」にあるのである。


認知バイアスとは何か?

認知バイアス(にんちバイアス、: cognitive bias)とは、物事の判断が、直感やこれまでの経験にもとづく先入観によって非合理的になる心理現象のことである[1]認知心理学社会心理学での様々な観察者効果の一種であり、非常に基本的な統計学的な誤り、社会的帰属の誤り、記憶の誤り(虚偽記憶)など人間が犯しやすい問題でもある。従って認知バイアスは、事例証拠法的証拠信頼性を大きく歪めてしまうことがある。

https://ja.m.wikipedia.org/

総合格闘技の勝敗予想を狂わせる認知バイアスとは?


 あなたが下記に当てはまっているか、診断してみてほしい。

幻想バイアス


 格闘家に対して抱く幻想。これにより認知の歪みが生じ、フラットな勝敗予想ができなくなる。

 幻想はどうやって形作られるのか。海外へ練習に行った。世界のトップ選手と練習しツーショットを撮った。ジムを大きく改装し練習環境を一新した。インスタグラムでは素晴らしい肉体美を披露してくれる。そしてミット打ちは目にも止まらぬ速さで打撃音が鳴り響く。自信に満ち溢れた表情をしている。

 幻想の類語としては、華、オーラ、スター性、などが挙げられるであろう。

推し・応援バイアス


 あなたには推しの選手はいるだろうか?それは誰だろう。その選手の試合が組まれたら、勝敗予想をするときにどちらが勝つ……あるいは勝ってほしいと思うだろうか。それは推している選手であろう。

 しかし時として推しや応援の感情はあなたの眼を濁らせる。推しの選手が負けるであろうパターンを軽視し、対戦相手の選手の強さを過小評価する。

 応援している選手に勝ってほしい。そう思うことが悪いのではない。勝敗予想をする際に、応援している選手が勝つだろうと予想することが問題なのである。

 勿論。逆に応援していない選手に負けてほしいからといって負け予想をしてしまうのも、同様。歪んだ認知は勝敗予想に影響を与えてしまうのである。


一発・一本バイアス


 一発がある。一撃のパンチやキックの破壊力での鮮烈なKO勝ち。どんなに逆境に立たされても、一発さえバコンと当たれば一気に逆転してKO勝ちのゴングがかんかんかんかんと鳴り響く。会場にいる観客はもう絶叫し、歓声が湧き上がる。帰りの電車の中で「あのKOマジで凄すぎたわー強すぎだろ」などと盛り上がるファンもいることであろう。

 一本を取れる。寝技になればどんなに膠着状態になっても一瞬の隙を突いてサブミッション技を極める。文句なしのフィニッシュである。観客はわーわーと盛り上がり、その選手のフィニッシュについて、イベント帰りのファンも「あのフィニッシュすごかった〜」などと談笑していることであろう。そして寝技のテクニカルな部分について、「【実演・実技解説】〇〇選手のフィニッシュをプロ格闘家が徹底解説!」などとYouTubeでもプロ格闘家や格闘技経験者が、そのフィニッシュについて丁寧に解説してくれる。

 一発と一本。これに共通するポイントは何だとあなたは思うだろうか?それは「勝利した時の場面状況や映像が強く印象に残りやすい」ということである。

 大熱狂に包まれた会場の雰囲気。大歓声を上げる大勢のファン。盛り上がるソーシャルメディア。

 衝撃的なシーンであるが故に、映像は何度もメディアで使われる。何度も同じ場面が再生される。KO・一本の瞬間は短い為、映像編集においても使いやすい。煽り映像でも気軽に挿し込むだけでインパクトのある動画になる。映像編集者も
KO・一本のシーンは非常に重宝していることであろう。


 さて。ではKO・一本のシーンが強烈に印象に残る。勝敗予想において、これの何が問題なのであろうか?それは印象的なシーンの持つ強烈なイメージに引っ張られて、選手の全体像を俯瞰して見られなくなるということだ。

 KO・一本があることで実力以上にその選手を見てしまう。すると認知が歪み、勝敗予想に影響が出るのである。

 勿論。一発逆転できる武器は大きなアドバンテージであるしかしこの一発や一発を過信してしまうことは冷静とはいえない。

 この「一発・一本バイアス」に気づいているプロ格闘家は多いようで、KO・一本がある選手を逆に過小評価する傾向もあるようだ。

 選手を大きく見ることも、小さく見ることも、どちらも勝敗予想を歪めてしまうのである。

 ここ最近の勝敗予想では、「一発があるだけでは総合力のある選手には勝ちにくい」とされることが多く見られる。

 例)鈴木博昭vsYA-MANでは、勝敗予想で「ヤーマンが一発はあるものの、総合力とMMA経験の差で怪物くんが勝つだろう」と予想する意見も多くあった。

戦績バイアス

 対戦カードの選手の戦績に差がある。経験のある方が圧倒的に有利に思えてくる。

 戦績の分母が大きければ大きいほど、その選手は試合数を多く重ねている証拠である。つまり経験を積んでいるということになる。

 ただし気をつけねばならないことがある。それはその選手の戦績の数が多ければ、勝率が上がるとは言えないからである。

 戦績の数すらも勝敗予想を狂わせる原因となってしまうのである。

 例)斎藤裕vs久保優太は、斎藤選手が21勝9敗2引き分け、久保選手が5勝1敗であった。この数値の差のみを見ると、「斎藤選手が有利だ」と思う人も多いことだろう。事実、斎藤選手が勝利すると予想したプロ格闘家も多かった。

さいごに

 総合格闘技の勝敗予想において、多くの人が間違える原因として、認知バイアスが大きな役割を果たしている。バイアスは我々の判断に影響を与え、時に誤った結論を導き出す。例えば、代表的な認知バイアスである「確証バイアス」は、自分の信念を強化する情報ばかりを集め、反証となる情報を無視する傾向を引き起こす。また、「代表性ヒューリスティック」により、特定の選手が過去に好成績を収めた試合の印象が強く残り、それが勝敗予想に過度に影響を与えることもある。さらに、「アンカリング効果」によって、初めて得た情報がその後の判断に過大な影響を与え、偏った予測を生むことも少なくない。

 このように、認知バイアスは我々の予測に対して見えない障害を作り出している。これらのバイアスを意識し、客観的なデータに基づいた分析を心がけることが、より正確な勝敗予想を行うための第一歩である。認知バイアスを理解し克服することで、総合格闘技の楽しみ方も一層深まることであろう。

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