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いよいよ最終回『機動戦士ガンダム 水星の魔女』 スレッタが「水星」の魔女である理由

※本記事は12/6執筆分をリライトしたものです。

1 描かれるのはスレッタの「上京物語」

シリーズ初の「学園モノ」&「女性主人公」で話題の『機動戦士ガンダム 水星の魔女』。シーズン1が最終回をむかえます。振り返ってみると、良きバディであるスレッタとミオリネの関係や、彼女たちが勝負から逃げずに立ち向かう姿など、見どころが盛りだくさんでした。

筆者としては、無名の田舎者が都会のエリートを倒して学園ナンバー1の座を奪うという展開に心を掴まれました。

「ねぇ、水星から来たってホント?」
「人住んでたんだ……」

第1話の冒頭、水星出身の少女・スレッタが、モビルスーツのパイロットたちを育てる学園に編入します。クラスメイトはスレッタを馬鹿にしますが、その後、彼女が操縦するモビルスーツ・エアリアルの圧倒的な強さを目の当たりにするのでした。

なぜスレッタは水星出身という設定なのでしょうか? 制作陣はインタビューで、「既存の物語であまり開拓されていなかった水星を舞台にする」とか、「『水星という田舎から女の子が上京する』が最初の着想だった」と語っています(『ガンダムエース』2023.2号、『New Type』2022.11号)。

ガンダム作品といえばSF要素。記事を書くにあたって、今作の「水星=田舎」というイメージはもしや科学的な裏付けがあるのではないかと調べたところ、実は水星は太陽系で最も行きづらい惑星だということが分かりました。

その原因となるのは太陽の重力です。水星は最も太陽に近い惑星。地球から探査機を送り込んで水星の周りを回る軌道に入れようとすると、太陽に引っ張られて猛スピードで水星を通り過ぎてしまいます。そこで、エンジンを強く噴射して軌道と速度を制御せねばならず、膨大な量の燃料が必要になります。消費するエネルギーの量で言えば、太陽系最果ての惑星・天王星の周回軌道に入れるよりも大変なのです。

道理で水星は行きづらいわけです。ましてや、太陽の巨大な重力を振り切って水星から戻ってくるのは更に困難だといえます。現実世界でも、2022年現在、水星行きの探査機はどれも片道切符でした。小惑星探査機「はやぶさ」のように、サンプルを持ち帰ることは未だかつて実現していません。

だから『水星の魔女』の作中、スレッタが学園の皆から「本当にそんなところから来たの?」と驚かれるのは当然のことなのです。

2 シャアが批判する「重力に魂を縛られている人々」

スレッタは太陽の重力という壁を破って、水星から飛び出していきました。

もしスレッタが、自分の故郷にとどまることを選んでいたとしたら……。きっと彼女は、かつてシャアが批判していた「重力に魂を縛られている人々」だということになってしまうでしょう。

シャアは映画『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』で、地球の天然資源を浪費する連邦政府に失望し、人類を強制的に宇宙へ移住させようとします。彼が取った行動はあまりに暴力的で身勝手でした。しかし、人類が故郷に閉じこもることをよしせず、重力を振りきって外に出よという考えには説得力があります。

一方、スレッタは物心ついた頃から水星しか知らなかったので、母の勧めに従って学園へ行くかどうか非常に悩んでいました。

『水星の魔女』の主題歌( 『祝福』YOASOBI)の原作小説『ゆりかごの星』に、こう書かれています。
「お母さんは、娘とたった二人でこの水星に逃げてきた。かくまってはもらったものの、全員が好意的というわけではない。やっかいごとを抱え込むなと放逐を主張する老人も少なくなかったという。それでもスレッタとお母さんには、水星ここしかない。ここで生きていくしかないのだ」

そんなスレッタの背中を押したのは、「逃げたら一つ、進めば二つ」の言葉でした。故郷を離れた彼女は、ミオリネという最高の友人や、数々の強敵を打ち破った実績を手に入れます。

今後放送されるエピソードでは、さらなる困難がスレッタを待ち構えているでしょう。それでも、母からもらった勇気の言葉が心の支えになっていくと思います。今シーズンの最終回とシーズン2が見逃せません!

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