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縦割りビルヂング ~見本市と玄関口のビル~ 東京交通会館ビル・前編

 お疲れ様です、ラパスです。

 これからしばらくの間、昭和に建てられたビルを歩き回った記録をこちらに投稿していく予定です。

 初回では有楽町にある「東京交通会館ビル」を紹介します。
 フロアやエリアごとに店や雰囲気を紹介していきますので、この階だけ見たいという方は適宜見出しでスキップしていただけると嬉しいです。今後何度も通うようになれば加筆修正はしていくかもしれません。その時は「こいつこのビルがそんなに好きになったんだな…」と思っていただけたら有り難いです。

玄関

 JR有楽町駅中央口を出て、左手にどっしりと聳え立っているビルが東京交通会館だ。他の複合ビルの背が高く、十分高いはずなのに相対的に高層ビルという印象がない。広場から見渡せる位置に吉野家が2軒あるのも不思議だ。有楽町は熱心な吉野家ファンで溢れているのだろうか。
 入口にはがっつり「TOKYO KOTSU KAIKAN」の文字。全く英訳されていないのも趣深い。NHK=日本放送協会みたいな、誰に向けているのか分からないアルファベットは好きだったりする。

 横断歩道を渡ると小さな吹き抜けに突き当たった。地下1階から2階を繋いだ空間には、シャンデリアを模した照明が吊り下げられている。試しに降りてみるとそのまま地下鉄の通路に繋がっていた。色々なアクセスが用意されていることにも驚いたが、時間が時間(3時過ぎ)だったので人通りはかなりまばらだった。

 吹き抜けを囲むようにして小さな屋外スペースも備えつけられている。片方には野菜のマルシェが広がり、もう片方には靴磨き職人の椅子が並んでいた。
 東京の中心地でありながら手ごろな値段の野菜が多いマルシェだった。じっくりと見学するお客さんも何人かいて、静かな都会のお洒落な専門店というよりは活気ある市場といった印象だ。素朴な疑問だが、ここで野菜を買った人がどうやって帰っているのか気になる。葉物野菜やメロンを抱えて山手線に乗っている人を見たことがないしな。実は野菜好きで世界はあふれていて、自分が気付いていないだけなのだろうか。
 靴磨きの職人さんは全員同じ制服に身を包んで、手際よくサラリーマンの靴を磨いていた。自分はメッシュのスニーカーで来たので何も頼めず。知っていたら適当な革靴を履いてきたかもしれないのに。それにしても暑そうな素振りを見せない職人さんには頭が下がる。

野菜を販売するマルシェ。傍には靴磨き職人の方が4~5人スタンバイしていた。


1F

 かなり綺麗だ!会館という名前がピッタリの内装。ホテルのロビーのようで入館しただけでテンションが上がった。

 噂に聞いていた各地のアンテナショップも目を引く。一際大きな北海道のアンテナショップ「北海道どさんこプラザ」は建物の内外から入店できるようになっており、激しく混雑していた。酷く暑い日だったのでソフトクリームが飛ぶように売れている。プレーンなバニラ・メロンに加えてそのミックスも用意されているのがナイスすぎる。
 ただ流石にイートインスペースの人口密度が高すぎた… 皆周囲に気を付けながら縮こまるようにコーンを舐めている。「試される大地」とはよく言うが、このイートインでは利用者のモラルが一番試されているような気がする。自分はもう少し涼しい季節にゆっくり楽しむことにしよう。

かなり人の行き来は多い北海道どさんこプラザ。スイーツと海産物がウリになっている。


 真横には近畿日本ツーリストの大きな事務所が。隣で雄大な北の大地に感化された人に向けて大きく口を開けているようにも見える。冷静に考えてみるとアンテナショップと旅行会社というのは中々に悪魔的な組み合わせだ。こういう情勢でなければ旅の出発地としての役割をしっかり果たしていたんだろう。

 もう一方では大阪のアンテナショップ、大阪百貨店が賑わいを見せていた。店内にかかっているラジオもFM802でいかにも関西という雰囲気。平積みされているカールにもテンションが上がった!関東で販売が中止されてもう5年も経つらしい。これまで数あるお菓子の1つだったものに一喜一憂している自分も単純だなと思いながら、チーズ味を1袋買ってしまった。他にもフエキのりとパインアメのコラボレーション商品、関西でしか売っていないソースの数々と、どちらかというと関西外の方が思い浮かべる大阪がてんこ盛りである。大阪の人たちの「あくまでも外向け」というどこか割り切った感情を勝手に察してしまう。

巨大な大阪の文字が何故か木目調の壁に合っている。売店半分・イートイン半分という構成だ。

 その反面フードコートではたこ焼き、いか焼きといった文字が並んでいて、中年の方々(熟年夫婦含む)が黙々とソウルフード各種を頬張っていた。誰に睨まれた訳でもないのだが、「これがほんまもんの大阪や!」という矜持を感じた。カールオンリーの鞄を肩にかけていた自分が恥ずかしくなってそそくさと店外へ。

 1階で最後にしっかりと寄ったアンテナショップは「徳島・香川トモニ市場」だった。2県が合同で出店しているという点がまず驚きだ。確かに南北で重なるように並んではいるけれど…当たり前のように別の県の特産品が混ざって陳列されているなんて。開店に至るまでどんな会議があったのだろう。ちょっとここ徳島さんはみ出してますよ、みたいな指摘をし合ったのだろうか。
 流石に何かお金を払わなければと飲み物売り場を見たら、阿波踊り専用ドリンクが陳列されていた。いくらなんでも用途が狭すぎる。踊り手さん達が出番の前にこれをグイっと飲み干してから繰り出すのか…? 伝統舞踊の裏にカフェインやアルギニンが見え隠れするのは少し現実的すぎて嫌かもしれない。


 商品名は「アワライズ」で、何も説明しなければ「泡+rise(上る)」と勘違いしてくれそうだ。ゆず&すだちというかなり爽やかなフレーバーも気になり、美味しかった場合と美味しくなかった場合を両方想定して2本購入した。今度踊る必要のあるイベントがあったら飲もう。クラブに行くタイプの人間ではないし。

 まだまだ他のフロアも気になるので一旦下の階へ。吹き抜けのモザイク壁画が昭和を感じさせる。エレベーターホールもあるためそこまで通行人が多い訳ではない。大きく「よ」と「ぶ」の文字が並んでいたが、こちらはそれぞれ「横っちょ横丁」と「ぶらり横丁」を表しているらしい。展覧スペースの広告が並んでいるのも興味深い。入館時よりさらにテンションを上げて1段1段降りていくことにする。

踊り場を飾るモザイクアート。劇場のような印象も受ける。
横っちょ横丁とぶらり横丁の案内。丸みのあるレタリングも素敵だ。

B1F

 1つ階を降りるだけでマニアックさは格段に増した。マップを見るだけでも満腹になりそうなフロアである。2つの”横丁”と数々のギャラリー、北陸・和歌山・福岡といった各地のアンテナショップ、その隙間を埋めるように老舗のブティックといったように、ジャンルも創業年もまるで違う店舗がずらりと並んでいる。

 ギャラリー・画廊は数は多いものの、決して大規模なものではない。それぞれがスペースをいっぱいに使って個展を開いているようだ。
 思わず引き込まれて入ったのは、ゴリラの絵だけを描いている画家のギャラリーだった。外観で分かっていたはずだが、本当にゴリラの絵しかない。そして会場外に向けて掛けられた絵に隠れるようにして、ゴリラが描かれた小物と「ゴリラという生物の説明書き」が置いてあった。生息地の分布等もちゃんと明記されていて、作者のゴリラに対する強い愛を感じる。
 ギャラリーにいらっしゃった方(画家本人かどうかは確認できず)に、「ここまで水彩画で、ここから油彩画なんですよ…!」と嬉しそうに声をかけられた。なるほどと思う反面、ゴリラが強すぎて全く技法に注目していなかったことに気付く。そして徐々にゴリラの圧が強いことにも気付く。自分より強い生き物に囲まれているという感覚が強くなりすぎて「それでは…」と退出してしまった。せめてゴリラ柄のコースターだけでも買えば良かったか。ただどんな飲み物にゴリラのコースターが合うかは正直見当がつかない。

 他に幻獣神話展という特集が組まれているギャラリーもあった。手前のスペースは完全に物販に絞り、奥のもう1部屋で値が付いた芸術作品を展示するという構成だ。幻獣と神話というてんこ盛りな題名そのままに、中の作品のモチーフも様々。日本の妖怪から西洋のドラゴン、クトゥルフ神話に至るまで、色々なジャンル・地域から発想を得た作品が並んでいた。
 スペース全体の雰囲気も、格調高いギャラリーというよりはサブカルが好きな若手芸術家の溜まり場といった感じでほんわかしていた。少し身なりが派手な方々がぼそぼそと、しかしながら充実した表情で談笑する中を歩いてみる。交通会館の地下でアーティストの青春が繰り広げられているなんて考えもしなかったな… ちなみに正面の店には韓国の美味しそうな食べ物が並び、すぐ横には首から上の部位に特化したマッサージ店の看板が立っている。俗世とアートが肩の触れる距離にいる「ごちゃまぜ感」も、サブカルチャーをこの地に引き寄せる磁力になっているのかもしれない。

既に9回も開かれている幻獣神話展。人智を超えた存在には大なり小なり浪漫がある。

 芸術的なフロアという意味では、エレベーターホールに設置されたストリートピアノも一役買っている。自分がふと訪れた際にはまだ小学校にも入学していないだろう男の子が見事な演奏を披露していた。クラシックには疎いので曲名は分からなかったが、とにかく曲調が重い。ちょっと重すぎる位だ。絶対に「仔馬がパカパカ歩いていますね」、みたいな曲ではない。男の子の服装もかなり整っていて、相当な英才教育を受けていることがうかがえる。ピアノが上手ければ上手いほど、着ているセーターすら高そうに見えてしまうのは自分だけだろうか。演奏が終わり、今の今まで圧倒されていた周囲の大人達は、少し息を飲んでから一斉に拍手を送った。
 この後演奏するには相当プレッシャーがかかるし、どんな方が挑戦するのかな…と思っていたら、警備員さんがそそくさとピアノの周りに柵を回してしまった。看板に書かれた開放時間を過ぎていたようだ。男の子に最後まで演奏させてあげようというビル側の粋な計らいがあったのかもしれない。

体よりずっと大きなピアノを扱う男の子。体の傾きまでプロ級だった。

 アンテナショップも1階よりはより高い年齢層に向けた店舗が多いように思う。富山のアンテナショップ「いきいき富山館」は日本酒・地ビールに加えて海鮮の名産物を販売しており、うちの商品だけで飲んでくださいと言わんばかりの品揃えだ。わかやま紀州館やザ・博多(福岡のアンテナショップ)でもアルコールが売り場の一角に並び、各県が酒の名産地であることを強く主張している。
 傍にも有楽町線につながる通路が接続されているので、有楽町線から銀座線へ抜けていく場合には、アンテナショップを何軒も目にすることになる。家に帰る以外することがない会社員が酒とツマミを買うにはもってこいのフロアなのだろう。終業して直で向かえば何とか間に合う営業時間でもあるし。

 肝心のぶらり横丁と横っちょ横丁は、時間帯が早かったこともあって残念ながら営業していない店が多かった。ただ雰囲気・佇まいは十二分に感じ取ることができる。砂利を敷いたような模様の床も「酒場通り」にピッタリだ。3~4時台にも関わらず客を入れている居酒屋があったのでちらっと中を覗くと、50歳は超えているであろう夫婦がカウンター越しに店員とやりとりをしていた。なんだか悉く自分が若造であることを思い知らされる空間だ
 通路に取り付けられた照明のカバーも規則的に波打っていて、フロア全体の複雑性を物語っているような気がする。我が儘かもしれないが、こういった照明は今後中の電球がLEDになったとしても外装は変えて欲しくないな。
 横っちょ横丁は「横っちょ」という言葉がピッタリの狭い通路に面した飲食店街だった。こちらに関しても時間帯が悪かったせいで利用者は少なかった。しかしながら「横っちょ横丁」、何度でも読み上げたくなるフレーズだ。横を2つ使ったことで、言葉自体が2回弾んでいるようにも感じる
 気になるお店もあったので、時間帯を間違えたのはかなり悔しい…これからも何度か足を運んで、いつか"横っちょ気分"を味わってみることにしよう。

昭和を感じさせる照明。いつから飲み屋街を見守っているのか。
暗い店内と明るい通路でメリハリが効いている。通るだけなら抵抗はない。
横っちょ横丁は開店準備と閉店後の作業がぶつかってような時間帯だった。

 居酒屋には入れなかったので、地下鉄通路に近い「純喫茶ローヤル」へ。純喫茶と呼ばれる店に入ること自体初めてだ。ヨーグルトがサンプルとして並んでいるのもかなりレトロさを感じる。今でこそ安価で自作すらできる食べ物だけれど、昔は出掛けた先でのご馳走だったりしたのだろうか?花形であろうパフェも、メロンパフェ・アプリコットパフェと相当に硬派。全体的に甲子園にやってきた商業高校のような、「古豪」感があるメニュー達だ。
 残念ながら胃袋に空きが無かったので、アイスカフェラテのみを注文して店内へ。これが純喫茶か・・と、声には出さないものの心の中で感動する。壁には大きなステンドグラス風の灯りが設置されていて、地上であるかのように錯覚してしまいそうだ。焦げ茶色のテーブルには色々な光源からやってきた光が反射し、外から覗くよりもずっと穏やかな空間だった。

お好きな席を、と言われたので「窓際」の席へ。これだけの電球と目が合う機会は最近少ない。

 カフェラテの上にはクリームが乗っていて、市販のカップ2~3個分のガムシロップが入った容器も付いてきた。何も入れず飲んだ方が良かったりするのか?と勝手に想像していた分、容器の大きさを見て少し驚く。いや、ここまで至れり尽くせりのサービスが長年営業されている秘訣なのか。結局正しい嗜み方は分からなかったので、シロップをちびちびと継ぎ足しつつ、スプーンでクリームを突き崩して飲んだ。立ち止まっては写真を撮り、お土産を買い…とちょこまか動いていた体に、甘い飲み物は想像以上に染みる。今考えると、話し相手がいなかった分目の前のコーヒーに集中できたかもしれない。純喫茶巡りはしっかり踏み入れたら抜け出せなくなりそうだ。

紙製のコースターにROYALの文字。当然だがゴリラはいなかった。

 既に色々な店舗を回って満腹感はあるけれど、一般の利用客に全フロアが解放されている2階・3階もチェックしなければ。後半戦では少し毛色の違う階を歩きながら、交通会館が交通会館たる所以についても妄想していくことにする。(後編へ続く)



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