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ズブの素人が乗馬に夢を見た話

 昨年2021年は本当に激動の1年だった。
 1年延期されたオリンピックが開催され、総理大臣もアメリカの大統領も交代し、マー君は日本に戻ってきた。藤井聡太君は四冠を取ったし、ヤクルトは20年ぶりの日本一に輝いた。

 そんな世の中が目まぐるしく動いた1年、自分は何をしていたかというと、ウマ娘にどっぷり浸かっていた。いや、更に正しく言えば競馬という世界にどっぷりハマっていた。

 最初は純粋にゲームとしてのウマ娘を楽しんでいたが、次第に毎週競馬を見るようになり、バイト代で「60YEARS名馬伝説」を上下巻揃えてからは早かった。過去のレース映像も漁るようになり、何故かキタサンブラックのラストランを見てさめざめと泣いた。今年に入ってからはPOGもごくごくミーハーであるが取り組んでいるし、人の予想を聞くのが面白くて動画やブログもガンガン漁るようになった。要は一大マイブームになっていたのだ。

 それほど馬に浸食されていたので、つい最近まで「後はコロナが明けたら競馬場に行くだけだ…!」と思っていたのだが、ふと気付いたことが1つあった。

「自分、ほとんど馬触ったことないのでは?」

ということだ。

 よくよく考えてみると、自分はどれだけ馬が大きい生き物かしっかりと把握していないにも関わらず、「タイトルホルダーも成長したよな…」とかいっちょまえに呟いていたのだ。馬にちゃんと触った記憶というのも、小学生時代に観光牧場で5分10分乗せてもらった時のものしかない。競走馬が引退するまでのストーリー、そこに向き合う人々の姿が好きなんだよなぁ…、などとほざいておきながら、自分は離れたところで見ているだけでいいというのは中々歪な楽しみ方なんじゃないか…?

 そんなことを考えていた頃、折しも実家で契約していたケーブルテレビの会社から、「乗馬体験無料券」なるものが送られてきた。はっきり言ってこれはお膳立て過ぎる。夏競馬が終わってG1シーズンに突入してしまう前に一度は馬の背中を体験しておこうと思い、電話で申し込むことにした。思ったよりも気さくな感じのスタッフさんの対応で話はどんどん進み、1週間後に体験することに。本番まではちょこちょこ乗馬クラブの動画を見たりして自分なりに気持ちを高めた。

 いよいよ当日、電車に揺られて最寄り駅に到着する。新しくて広い割に何もない駅前に少しそわそわした。ちょっと新しめの無印商品だけがあるのも不自然だ。
 今回訪問するのは東武乗馬クラブ&クレイン。一時期「カバ園長」で有名だった東武動物公園に隣接するクラブで、かなりの頭数馬を繋養していると聞いていた。

 最寄り駅ではあるはずなのだが、全く乗馬クラブらしき建物は見えず。送迎バスを案内されたんだし当たり前か…と思っていたら、かなりしっかりしたマイクロバスがロータリーにやってきた。そこで初めて周りにいた中高年のおじさま・おばさま方が、皆乗馬に来ている客だと気付く。ちょっと多すぎないか、本当にこれから体験することは乗馬で合っているのか?と少し動揺したが、かといって乗り過ごす訳にもいかず目の前にできた列に並んだ。

かなり立派なバスがやってきた。営業時間中はピストン運行をしているらしい。


 よく見るとマダムやダンディのリュックからは鞭のようなもの、というか鞭が露骨に突き出していた。これから乗馬を体験する人間だからこそこれが鞭と判別できるが、もし事前情報なしで変な棒を背負っている人を見たら距離を置いてしまうかもしれないな。
 結局居合わせた16~7人を乗せるには元々の座席だけでは足らず、補助座席まで出ることになった。目の前でおじさんがスムーズに椅子を広げている様子を見ると、きっとこれが日常なのだろうと感じる。特にアナウンスもなく、ベテランホースマンと自分を含めた馬好き素人若者数名を乗せてマイクロバスは出発した。

 それにしても道中がのどかだ。道沿いの一軒家を除けば、殆どが畑・田んぼといった様相である。そんな中一瞬だけ工業大学のキャンパスの横を通り、また何事もなかったように農業地帯に入っていった。「今のは…?」とツッコみたくなる位忽然と現れそのまま後ろに過ぎ去っていった大学だったが、50年程前からあの場所に建っているらしい。大学なんて土地があったらできるものだし普通っちゃ普通か。
 15分間、ただひたすら埼玉特有の平坦な地形を眺める。あれは屋敷林かな、それとも防砂林かななんて想像もするが、本当に想像の域を出ない。乗馬が盛んなら農耕馬もいるんじゃないかとも思って見回してみたが全くそんなことはなかった。トラクターのある時代にわざわざ馬にお願いすることはないよな。

基本はこのような農地の近くを走っていく。馬どころか動物園を思わせる何かもない。

 田園地帯を抜けて、東武動物公園のちょうど裏側にたどり着いた。駐車場を更に進むと左手に馬場が見えてくる。やはり馬も人もかなり多そうだ。馬と馬に乗っている人がわんさかいる風景は中々興味深い。「実は乗馬が趣味で…」という人しかいない空間ってかなり特殊じゃないか?
 バスが停車し促されるようにして外に出ると、いよいよやって来たという実感が強くなった。思ったより馬のにおいは、しない…!事務所は2階建てで、1階に所属している馬の厩舎、2階に受付という風に分かれている。ちょうど授業間で馬を交代する時間だったようで、仕事を終えた馬たちが馬具を外してもらっていた。人間よりもずっと大きな生き物だと感じる一方で、周りのスタッフの皆さんを信頼して行儀良くしている姿はコンパクトにも見える。眺めているだけで自分の中のスケールが少しずつおかしくなっているのだから、実際乗ったらどうなるんだろうという疑問が頭をよぎった。

鉄筋でできたクラブハウスからの風景。1・2階に分かれて効率よく敷地を使っている。

 受付を済ませると、資料の入ったファイルが置かれたテーブルで待機することに。乗馬クラブの料金設定やレッスン形態に関しても書いてあるが、何よりニクいなぁと思わせるのは、草原や海岸を颯爽と駆ける馬の写真が載っていることだ。これはニクいを通り越してズルい。こんなの馬に乗りたくなる人が続出するじゃないか。自分も砂浜を馬に乗って歩くツアーにいつか参加したいと考えていたので、密かな夢を見透かされたような思いがする。
 フロアに置かれた馬具を眺めて過ごしていたら、今回担当されるスタッフさんから色々な条件が付いた契約書を渡された。なんでも乗馬をする上で起きた事故に関しては自己責任になるそうだ。それはそうか…。何となく高尚なイメージのある趣味ではあるが、要は「自分の勝手でデカい生き物に乗る」ということだもんな。怪我をしてもそんなチャレンジをした自分に落ち度があると言われれば言い返せない。少額ではあるが保険も入れたし、特にためらうことなくサインした。

 早速ヘルメットとブーツ・脛あてを用意してもらった。人生で初めてMのヘルメットが入ることには驚いた(自分は人よりもかなり頭が大きい)。下半身のピッチリ感もかなり強く、防護面に加えて礼節の部分も重視されていそうだ。Tシャツジーンズでやって来たにも関わらず、膝から下だけリッチになったような感覚がある。反対に胴周りが全く変化が無いのは少し間抜けか。少し外を見回すと、常連の方はシャツを着たりさらにピッチリしたスラックスを履いていたりと、装着前からコーディネートを上品にしていることが分かった。それに対しての自分のまあ「おのぼり然」としていること… 体験だということがバレバレで何だか恥ずかしい。
 ついでにエアバッグ付きのベストも着させてもらった。落馬した時には反応して勝手に膨らんでくれるんだとか。随分とハイテクな装置があるものだ。

レガースはブーツにかぶせる形状。想像以上の締め付け感があった。

 「今日は一番大人しい子に乗ってもらいますね~」と屋根付きの練習場に通されると、「確かに一番大人しいだろうな…」という馬が立っていた。ユウスイ君というセン馬(去勢した牡馬)で、自分と殆ど年が違わないおじいちゃんだ。馬の寿命は大体20年から長くても30年というから、この乗馬クラブ全体の中でも最高齢の部類に入るのではないだろうか。
 しかしどっしりとした馬だ。体重も500kgくらいということでサラブレッドとしても大柄の部類に入るだろう。そしてこちらから触っているのにほとんど反応がない。ブルブルと震えたりしてくれればスキンシップの好き嫌いが分かりそうなものだが、そういった感情もあまり表に出ないようだ。ただスタッフのお姉さんがいうには喜んでいるらしい。ここは素直に受け取っておくしかないな。

ユウスイ君(24歳)。大きく伸びた流星が特徴的な黒鹿毛の子だった。

 いざ20分程の体験レッスンに突入。本屋にあるような階段付きの椅子に乗って、言われた通りの方法で勢いよく跨ってみる。人間でもそこそこ重量級の自分が上に乗ったというのに、全くびくともしない所に生き物としての強さを感じた。しかしその一方で、先程見ていた時のコンパクトさも理解した。これだけ大きな生き物が、跨れる幅であるということが驚きだ。下手すれば「お馬さんごっこをしている人」より足をかけやすいかもしれない。

跨った時の写真。太い首も上から見るとすらっとしている。

 歩いてもらう際には両方のかかとで合図を送らないといけないと言われ、早速ポンとかかとを押し付けてみるが全く反応がない。「それだと弱いんですよね~」と少し笑うお姉さん。もう少し勢いよくかかとで叩いてみると、ゆっくり歩き出してくれた…! が、いかにも疑わしそうな感情が鞍から伝わってくる。「お前今、本当に俺に指示したのか?」と訴えかけてきそうな歩調だ。案の定すぐ止まってしまい、次の合図を求められる。しばらくはかかとで叩いて、少し歩いて…という攻防が続いた。
 やがてちょっとずつ「そうか、こいつ体験に来てる客か」と認めてもらえるようになった。君の上に乗ってくる人はほぼ全員お客さんでしょとツッコみたくはなるが、ひとまずは意思の疎通が取れてきたことに安心する。するとその姿を見たお姉さんが、「止まる指示と右左に曲がる指示もやってみましょうか」と提案してきた。ここで謙遜するとユウスイ君との押し問答だけで終わってしまいそうなので、全く遠慮せずチャレンジすることにする。

 ブレーキと左右への方向転換は、長い手綱を使って指示するということだった。普通に手に取っただけではかなり遊びがある紐を、メリハリを持って操作するというのは中々難しい。ただハミが口の中にあることもあって、こちらの思惑が伝わっている感覚はある。
 何より馬を褒めてあげるということが大事なようだ。胴から真っすぐ前に向かって伸びている首をポンポンと叩きながら声をかけてあげると、褒められているという実感が馬側にも湧くらしい。馬は人間の合図を鳴った音や声を参考に聴覚で判断しているとも教えてくれた。叩かれた!という痛覚基準の反応ではないそうだ。周りに見習えそうなレッスン生もいなかったので、手探りで「偉いね~」「有難う~」と声をかけてみる。勿論何か返してくれるはずもないのだが、指示通りに曲がってくれたのを見ると通じたのでは…!と嬉しくなってしまった。

 一方でスタッフのお姉さんにしか分からないこともある。その1つが「かなりの頻度でユウスイ君の顔はかゆくなっている」ということである。歩くのをやめてお姉さんをジッと見た時は高確率で顔がかゆいらしい。かゆかったね…と歩み寄るお姉さん。少し強めに顔の左をかいているとユウスイ君が右前足をスッと出した。かゆいのは反対側だったようだ。顔で伝わらなかったらジェスチャーで、というのは人間と同じかもしれない。
 ちなみにこのユウスイ君、写真を撮られるのが好きというかなり変わった特徴がある。サークル前のベンチが撮影スポットとなっているために、1周する度に「そろそろ写真撮る時間…?」と足を止めるのだ。急ブレーキもお決まりになってくるとちょっと愛おしい。以前ABEMAのテレビクルーがモデルさんと一緒に撮影に訪れた際にも、ユウスイ君が画角に入ろうとしたせいで何度も撮り直しになったそうだ。

 記念写真を撮ろうと急かしてくれるユウスイ君には申し訳ないが、最後に速歩(はやあし)の練習だけさせてもらう。結構振動が来るので気をつけてくださいと言われ、少し緊張して身構えているとがくんがくんと視界が揺れだした。こういうダイナミックさを待っていたんだよ!
 それと同時に、お姉さんがユウスイ君のことを褒めちぎっている…「かっこいいね!」「足速いね!」と半分作業感のあるポジティブワードに感化されて、ユウスイ君も更に速度を上げ始めた。そういうやり方なの?という気持ちとそれでユウスイ君は良いの?という気持ちがないまぜになって、もうヘラヘラと笑うしかなかった。

 それにしても下半身を襲う反動は相当なものだ… 流石におじいちゃん馬の上でいつまでも尻もちをついている訳にはいかないので、途中から教えてもらった通りに立ったり座ったりを繰り返してみる。最初はへっぴり腰になっていたが、馬の大きさを信じて体重をかけてみるとかなり上手く行った!尾てい骨への衝撃もかなり抑えられるし、疲れこそするが動きが癖になってきた。
 一周回ったところでユウスイ君を褒めるフェーズを挟み、もう何周かさせてもらった。回りきる度に「格好良いよ!」「イケメンだよ!」の掛け声に張り切る老馬という構図は何度見ても不思議だ。24年生きてこれほどに無垢なのかとも思ってしまうし、その無垢な生き物に跨ってひょこひょこしている自分も傍から見ればかなり阿呆ではないだろうか。

 一通りのレッスンが終わったので、スマホを渡して乗っている姿を撮影してもらった。先程まで使っていたサークルの柵の配置を変えると即席のフォトスペースが完成した。確かにベストなポジションだ…と、毎回足が止まっていた位置に納得する。上品なポーズを知っているはずもなく無難にピースを作って撮ってもらった。ユウスイ君はテンションを上げるかと思いきや、その場にじっとしてすまし顔をしていた。馬のテンションというものは最後まであまり分からなかったが、言うことをすんなり聞いてる時点で機嫌は悪くないのだろう。

ハートの絵文字で隠したが、自分も正直あまり余裕のない表情だった。

 ユウスイ君と別れ、一度馬房を見学させてもらった。昼間にも関わらずあまり日の光は入ってこない。出番を待っている馬が静かに暮らしているようだ。少し気になったのでユウスイ君の紹介文を見せてもらう。お父さんはジェイドロバリーという種牡馬で、マイルチャンピオンシップ南部杯を勝ったタイキシャーロックや、阪神3歳牝馬ステークス(今でいう阪神ジュベナイルフィリーズ)を制したヤマカツスズラン等の父でもある。ダートで走る子供達を多く輩出しているが、かなり広く種付されたことから芝の名馬の血統表にも名前が残っていたりするそうだ(レッツゴードンキ・メイショウマンボの母母父、等)。きっとこれだけの馬格があったらダートで走ると見込まれていたんだろうな…

飼料の量や馬具など、スタッフに向けた情報も併記されていた。

 競走馬だったのだとしたらnetkeibaにも詳しく掲載されているのでは?とユウスイで調べたところ、真っ先に個別ページがヒットした。
 2戦0勝、獲得賞金51万円。牡馬なのに殆ど走らせなかったのか…と思ったら、デビューが3歳の夏と非常に遅かったことが分かった。仕上がりが遅れたのか、怪我等が響いたのかは今となっては分からない。結局レースで結果を残した馬でなければ、どんな生き方をしていたのかも記録されないんだな。
 未勝利戦にはあの岡部幸雄さんが乗って5着。最終戦となった500万円下では今やエフフォーリアの管理で有名な若かりし頃の鹿戸雄一調教師を鞍上に迎えての6着。そこで成績は終わっていた。地方に転厩することもなくたった2戦で競走馬生活を終えたユウスイ君と、20年後もこうやって楽しく乗馬を経験させてもらっているのは奇跡的だ。

 馬主は碓氷ミナ子さんという方。根室で造り酒屋として財を成した一族のご出身で、今も碓氷勝三郎商店という造り酒屋の代表を務められている他、根室の観光協会会長をされていた時期もあるそう。代表的な銘柄である「北の勝」は地元の飲食店でかなり消費されているらしい。もし取り寄せることができるなら飲んでみたいなぁ。北海道の中だけで飲まれてる日本酒なんてロマンの塊じゃないか。
 ユウスイという名前も「ユウ」は冠名ということだが、何となくお酒を想像させる文字列でもある。「湧水」かもしれないし、「優(れた)水」かもしれないし。同じオーナーがユウバクという馬も所有していたらしいけれど、こちらは麦からだろうか。

 そして何よりの驚きは、担当調教師が藤沢和雄先生だったことだ…!グランアレグリアの活躍は記憶に新しいし、この前亡くなったタイキシャトルやゼンノロブロイも藤沢先生の下で羽ばたいた名馬だ。名門も名門の厩舎にユウスイ君はいたんだな…と知ってぞくぞくする。
 年代的にも、マチカネキンノホシやスティンガーにゼンノエルシド、シンボリクリスエスが同時期に所属していたことは間違いない。名馬や実力馬がわんさかいる厩舎にポンと投げ込まれて、ユウスイ君は何を思ったのだろうか。いや、何も思わなかったからこそ長生きできたのか。それこそ大レースをものにして種牡馬として活躍した後輩たちだって、既にこの世を去ってしまっている訳だし。たとえ乗馬クラブに通う人しか名前を知らなくとも、皆に乗ってもらって愛されている姿を見ると、何が幸せか分からなくなりそうだ。まさか馬から「塞翁が馬」という言葉の実例を学ぶとは思わなかった

 帰り際には会員の方々が練習している様子をテラスから見学させてもらった。初心者の方は集団で、上級者は個別に馬と呼吸を合わせて走っている。乗馬競技に使うハードルも設置されていて、大会に向けた練習もここで行っているということだった。レッスンでライセンスを取得すればどこでも馬に乗れるだけでなく、資格として履歴書にも書けるらしい
 会員の多くはやはり中高年の方々だが、時々は芸能関係の方もレッスンに来ているとのこと。この間は乗馬にインスピレーションを求めて芸術家の方がやって来たらしい。GoProを体にくくりつけて映像を撮影し、生き物の上からでしか撮れない映像から発想を得ようとしていたのだという。

広いサークルでは集団レッスンが行われていた。のんびり歩く子もいれば、少しちゃかついている子もいる。

 確かに馬に乗れるということだけで、相当に夢が広がるなぁとは思う。旅先で乗馬という選択肢が一つ増えるだけでも面白いし、引退馬関連の取り組みに関しても調べたい以上、競馬から離れた馬の内実を知っておくということは非常に重要そうだ。競馬に関する記事を書くにしても、馬という生き物を知っているか否かで深みは変わってくるだろう。

 ただ如何せん乗馬クラブに通えるほどの財力がないのが悔しい…。もっと余裕があればその場で入会してしまう程、魅力を感じたのは間違いないのだけれど。ビルを回るだけでお金をくれるパトロンのおじさんがいれば話は変わってくるが、現実はそうもいかない。しばらくは地道に頑張って、いつか立派な大人になって凱旋するしかないか。こっちの懐事情を素直に話しても、スタッフさんが嫌な顔一つせず「いつでもお待ちしてます!」と声をかけてくれたことは書いておかなければいけないな。半日しか滞在しなかったけれど、本当に良さそうなクラブだった…

 後ろ髪を引かれつつ、しかし一方で貴重な経験をさせてもらったことに満足しつつ帰りのバスに乗る。馬という大きな動物と心を合わせて行う運動は実に楽しかった。ある種狭い世界で、お高い印象も強い乗馬だが、内容自体に強烈な魅力・コンテンツ力を秘めている趣味なのかもしれない。
 今はまだ自分に見合わない場所ではあるが、いつかまた、馬の背中を感じに行こう。そして料金を提示されてもたじろがない、リッチなおっさんになろう。その大きな夢に繋がるかは見当もつかないけれど、今後も発信は続けていくことにする。

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