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縦割りビルヂング ~見本市と玄関口のビル~ 東京交通会館ビル・中編

2F

 かなり実用性が増した!このフロアに目立ったアンテナショップはなく、階段を上ると真っ先に三省堂書店が見える。軽く覗いた時は気付かなかったけれど、1階にあった店舗がそのまま繋がっていたようだ。2階では実用書や絵本や幼児向け書籍、コミック等が並んでいる。流石は東京の本屋というべきか、併設された文房具売り場に並ぶノートやペンも中々高級だ。少し時間が経っていたこともあって客の数はそこそこ増えていた。個人的に買いたかった本とコミックだけは買っておくことに。

いかにも東京の本屋という感じ。会社帰りに立ち寄るならかなり便利かもしれない。

 そして何より2階を特徴づけているのがパスポートセンターと、その手前にある旅行用品店だ。このビルが「東京交通会館」であることを強く印象付ける。パスポートセンターは外から見る限りでは自分が以前申し込んだ京都の施設と大差はなさそうだった。証明写真コーナーの前には人が立っていて、旅行を計画する人を待ち構えている。
 このような情勢でなければもっと海外に旅立つ人でごった返していたのだろうか。もう少し覗こうとしたら職員の方に案内されそうになってしまい、軽く会釈して引き返す。パスポートを取ってから結局海外にも行ってないし、ルポも兼ねてここで申し込めば良かったか…ちなみに裏口のすぐ傍には抗原検査キットの自販機が置かれていた。とことん旅人に向けたスペースだ。

写真の撮影場所で埋め尽くされた一角。案内の人が何人も立っていた。


 色とりどりのキャリーバッグが並ぶ旅行用品店ではクリアランスセールが開催中。平日では流石にお客さんの数も多くはないか。どうやら中には写真を取れるコーナーが。この辺りは証明写真の激戦区なのかもしれない。

様々なスーツケースが並ぶ店内。旅行用の細々したグッズも置いてある。

 2階に唯一あるギャラリーは閉まっていて、そのまま左へ曲がってみる。刺繡画展という言葉にはすごくそそられただけにもどかしい。作者を調べると色々な場所で個展を開いている方のようだった。ビルを回る中でまた出会える可能性も無きにしも非ず、だろうか。
 照明の数が少ない路地沿いでは、落ち着いたサービス・店舗が増えていくようだ。早速出迎えてくれた看板は”ほけんの窓口”だった。保険で悩む方でこの世があふれているのかと思う位に最近はこの看板を見かける。そのすぐ隣で矯正歯科が入居しているのもいかにも都会のビルといった感じだ。
 その一方で占いの店舗が多く立ち並んでいるのには驚いた。占いを否定する訳ではないが、美容外科と占いの館が壁を隔てて並んでいるのは少し怖い。その勢いで二重にしてしまう方の姿が何となく想像されてしまうのが…実は旅行用品店の傍にも占いのスペースがあるので、アドバイスそのままに海を越えてしまう方までいるかもしれない。

 今回は中に入れなかったが、3Dプリンターを用いた人形を販売するお店もあるそうだ。先程の旅行代理店がドイツの会社と提携し、リアルな人形を販売しているという。少し値は張ってしまうもののかなり精巧なモデルが送られてくるらしい。この自粛が求められた2年間旅行用品一本でやっていくのは相当厳しかっただろうし、かなりの決心で始めたのだろう。全く異なる分野に着手する企業は何となく好感が持てる。

 路地に入っていくとかなり寂しい雰囲気になってきた。少し空きテナントも多くなってしまっている。建物の構造としても裏通りと呼ぶべきエリアで、中々借り手がつかないのだろうか。
 宝塚歌劇団のグッズを取り扱うショップ「宝塚アン」は日比谷に移転してしまったようだ。今年の4月までは営業していたということで、またしてもチャンスを逃してしまったなと反省する。撤去されていない看板と豪勢なショーケースは現状に似つかわしくない程に華やかだ。宝塚のファンが足繫く通っていた頃はグッズを抱えている方を目撃できたかもしれない。

シャッターの閉まった元「宝塚アン」。宝塚歌劇の文字はまだ残っている。
ショーケースの装飾もいかにもといった感じ。どんな商品が並んでいたのだろう。

 さらに進んでいくと右手には日本刀の専門店が。こちらは見学目的ではそもそも入店できない店だった。試しにホームページを確認してみると、「お手頃価格な日本刀」で40万を超えている。当たり前のように4桁万円の刀も公開されていて流石にくらっとした。これは流石に冷やかしがどうこう出来る代物ではないな…脇差のストラップくらいは買う覚悟はあったけれども。通路に向けて作られたショーケースには、一揃いの甲冑と1対の掛け軸が並んでいた。掛け軸は片方だけで150万するそうだ。野菜のマルシェでも気になったが、ここで購入した日本刀はどう運ぶのだろうか。関係者通路等からゴトゴトと運ばれていく刀、なんて光景があったりするのか。

日本刀の販売スペースは直接見られない設計になっていた。セキュリティはかなり強固だ。


 反対側には毛皮製品を扱ったブティックが営業しており、その前を通り抜けるとまたエレベーターホールに突き当たった。なるほど、じっくり落ち着いて買い物をしてほしいからこそ裏に出店していたのか。2階は大人なフロアだなぁと頭の悪い感想だけ浮かんでいたが、実際には大人という括りの中にもさらにゾーニングが施されていた訳だ。旅行を目前に控え何となくそわそわと、でも前向きな気持ちの人々が行き交う表通りと、東京の中心地で嗜好品にじっくりと向き合う人達がお忍びで訪れる裏通り。どちらも素敵でありながら、やはり自分には遠い場所かもしれない。


 どこまで行けるかは分からないが、せっかくなので3階までは上がってみよう。4階以降はかなりオフィスビルとしての側面が強くなってしまうので、フロア全体を見て回ることができるのも次が最後だ。楽しく回っている分、しっかりと色んな場所に入ってみたい。

3F

 2階でも驚いていたのだが、3階はさらに雰囲気が違う… 階段もさらに幅が狭くなっていて隠れ家のような印象を受ける。屋上庭園に割かれている分建物内部のスペースは小ぢんまりしていた。床にも木目が付いていて、フロア全体に暖かみがあるのが嬉しい。最初に訪れたのが既に夕方だったことも大きいか。
 エレベーターフロアも落ち着いた照明ばかりで、木材を短く切って集めたようなベンチが置かれていた。暗いはずなのに怖さや居心地の悪さは全く感じない。図書館の一角に迷い込んだような感覚だった。

エレベーターホールは人間の眼を通すともう少し暗め。落ち着いた空間だ。


 屋上に庭園があるというのもこの3階の大きな特徴だ。
 有楽町コリーヌという名称が付けられたガーデンには、繁華街に囲まれながらも緑が茂っている。駅前広場もしっかり見渡せて、8月の暑ささえなければとても良い休憩場所だろうと思う。その証拠にと言う程ではないが、BS番組の制作スタッフが撮影のために集まっていた。この色々な魅力があるビルをどんな切り口で紹介していくのか。場合によっては有楽町をバックに一度撮影した上で、そのまま街ブラロケに移行するのかもしれない。
 何よりテンションが上がるのは、新幹線が想像以上の頻度で前を通ってくれることだ。一方向からだけでなく、時間によってはすれ違う様子すら見ることができる。ここが大都会の中心地であることを強く実感した。

有楽町の駅前広場が見渡せる庭園。無理なく街を見渡せる高低差が気持ち良い。
新幹線同士がすれ違うこともしばしば。鉄道が好きな子供は息をする暇も無さそうだ。


 撮影の邪魔になってもいけないと思い、庭園側の喫茶店「ジュン」へ。地下1階のローヤルとは違って、こちらは窓を一杯に開けて自然光を取り入れていた。スポーツのクラブチームのロゴが額縁に入っていたり、テレビで流れる映画ではブルース・ウィリスが要人を保護していたりする所からして、何となくアメリカ贔屓なマスターなのかなと推測する。たまたま他にお客さんがいない時間帯だったので、中々妄想がはかどってしまった。
 注文したロイヤルミルクティーにはまたしてもクリームが乗っかっていた。先程のローヤルと示し合わせているはずはないのだが、交通会館のルールとして決まっているのだろうか?ちなみにガムシロップはごく一般的なプラスチックのカップ1個だった。まろやかな味は勢いよく飲みたい夏の日にもってこいだ。一人新幹線が通る窓を眺めていると、とんでもない贅沢をしている気分になった。一番速い乗り物の前で一番ゆっくりしていられる優越感から来ているのだろうか。いっそのこと次はケーキを食べてしまってもいいかもしれない。

まさかのクリーム被り。交通会館の伝統なのか。



 反対側の石のテラスは閉鎖中でガラス越しにしか確認することができなかった。新幹線とほぼ同じ高度に首都高が走っていて、小さいスペースながら間近で行き交う車両の迫力を感じられそうだ。地図で確認しても交通網に囲まれるようにしてこのビルが建っていることが分かる。本当に「交通会館」という名称がピッタリだ。


目と鼻の先に首都高。通っている車から自分は見えていただろうか。



 移住のサポートセンターは8階にあるそうだが、3階にも沖縄・北海道の出張所が置かれている。「沖縄観光コンベンションビューロー東京事務所」の入り口では2体のシーサーが出迎えてくれた。観光案内所ということもあって各市町村のパンフレットが縦置きされている。奥のスペースは予約した方の相談スペースになっていて、部屋全体の広さの割には自由に歩き回れるスペースは少なかった。親子連れが一組資料を見比べながら楽しそうに話をしている。今から夏の計画を立てるとするなら少し遅い気もするが、そんなことを抜きにしても沖縄の情報はワクワクするのだろう。特に訪れる予定はないが、自分もエイサーのパンフレットだけ持ち帰った。想像をはるかに超える数の団体が沖縄には存在するらしい。昔1度だけ遊びに行った時には伝統芸能まで関心が回らなかったものな…民宿に泊まって地域のおじいおばあと交流する旅なんてのも良さそうだ。

 南に行ったなら北海道の施設にも行ってみようと、「札幌市東京事務所・どさんこサロン」にも足を運んでみた。こちらはどちらかというと開放的なフロアで、仕切り等は存在せず広い相談エリアが広がっている。ただし各自治体の詳細な資料が載っている本は閲覧することができず。こういう点でも今の情勢が憎いなぁ…もし市史なんかに触れる環境ならこの部屋だけで一日が終わっていたはずだ。
 でっかいどう、と茶化される北海道だけあって、それぞれの市が推す観光資源や特産品も幅が非常に広い。日高地方の自治体は馬産地であることをアピールするリーフレットを出していた。最近の競馬人気やウマ娘人気も、地域にとってはかなり追い風になっているのだろう。
 見てみたい市町村のパンフレットだけを取って敷地を出ようとしたら、後ろからバタバタと足音が。振り返ると先ほどまで窓口にいた職員さんが「邪神ちゃんドロップキック」のクリアファイルを持って追いかけてきていた。確かに事務所に入る前に、アニメとタイアップしてるなんて今時だなぁと写真は撮らせてもらったが…完全に職員さんの中ではここまで足を運ぶ熱心なオタク、という認識になってしまったようだ。「すみません、まだありますんで是非…!」と何故か受付まで戻され、3枚も同じ”邪神ちゃん”をいただいた。1枚でも十分というつもりではあったが、ぐいぐい来られてしまったからには有難く受け取るしかない。8月末まではキャンペーンを行っているそうなので、是非邪神ちゃんファンの方には足を運んでいただきたい。きっと職員さんが丁重にもてなしてくれるはず…

まさかのクリアファイル3枚。遠目で見るとかなりのどかなデザインだ。

 3階唯一のギャラリースペース、グリーンルームでは”ふわふわのくま”というキャラクターの作品展が開かれていた。名前の通りふわふわとした白い熊のキャラクターが描かれた掛け軸やぬいぐるみ等が販売されており、。各国を熊が練り歩く絵本や、風神雷神図屏風になぞらえたイラスト等ジャンルは様々だが、とにかく画風がゆるい…見ているだけで良い意味で気が抜けてしまいそうなものばかりだ。他のフロアと比較しても若い女性やカップルが多いので、このふわふわ目当てに上がってくる人が相当多いのかもしれない。会場のスタッフの方もとても気さくで過ごしやすいギャラリーだった。

大小様々なぬいぐるみに絵本。なんだかこちらまで気が抜けそうだった。

 まだ何か面白い施設はと探してみたが、後は昔ながらの病院があるだけで、あまりズケズケと踏み入る雰囲気ではなさそうだ。時間的にも厳しくなってしまったので一度帰宅することにした。6階の献血ルームや8階の移住相談に関しては別日に訪問してみよう。(別日・後編に続く)


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