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天地ガエシのアイスコーヒー

 2024年9月6日、金曜日。
数日前の涼やかな日が嘘になるような暑い日でした。

 今日のひとつ前の日に。
所用があり、横浜の元町商店街へ足を延ばしました。

観光ガイドにも書かれることがある商店街ではあるのですが、各々のお店が開店直後ということで客足は控えめです。この商店街のはずれに、行きつけのお店があるのでそちらに伺ったのですが、昼を前にして暑さにやられました。用事を済ませて即帰る予定でしたが、商店街のカフェで一休みしたい気持ちになりました。

 元町商店街でのカフェといえばチェーン店も多々あるのですが、どうせならば”ここにしかないカフェ”に入りたいと思い、商店街を戻りながら吟味していますと、昔ながらの狭い急な階段の先に喫茶店があります。ここまで戻ったなら駅まではあと一歩ではありますが、だからこそこの喫茶店でクールタイムを楽しむ。そうするれば、帰宅するまで涼やかな感覚を保つことも出来るでしょう。

 勇みながら階段を一歩ずつ上ると、お店の入り口近くでコーヒーの粉のような粉末がちらほら歓迎してくれています。なんとなく「美味しいコーヒーが頂けるだろう」という確信に変わり、入り口を開けると。。。。

めっちゃ店主がくつろいでました。

「いらっしゃい。お好きな所へどうぞ。」
誘われて、見渡すとどの席も選べそうだったのでカウンターに座り、さりげなく置かれたメニュー表を見ようと手繰り寄せます。

言葉なく水が置かれ、ラジオの音を背から感じながら何を頼むか一瞬悩み。でも、答えは決まっていました。

「アイスコーヒー、いただけますか?」
「はい。」

この暑さにクタクタになった今の私にはそれしか選択肢がありませんでした。アイスコーヒーを待つ間、タオルハンカチで汗を取り除きつつお店の空調がそれほど冷えていないことに気付きました。外はしっかり暑い。でも、このお店はそれほど冷房を強めていない。何らかの意図を感じて、水で体を落ち着かせていると

「おまたせしました。どうぞ。」

アイスコーヒーが提供されました。


お。。。?

 氷山のような凍らせたコーヒーが直立するアイスコーヒーが出てきました。

ひとくちストローで口に含むと、コーヒー自体はまだぬるいです。
ですが、濃厚な燻されたコーヒー豆の香りと味が広がります。間違いなく美味しいコーヒーです。

よし、こいつをキンキンに冷やそう。
心に決めてストローでひたすら直立不動のコーヒー氷を回し始めました。
すると、グラスが冷えてくるではないですか。それを両手で包むと。。。。。

最高に涼しい!!!!

冷たい飲み物を飲むしかないと思っていたところに、思わぬ副産物でした。しかも、水からの氷ではないですからアイスコーヒーは常に満足できる味と香りのままです。これは。。。。無限アイスコーヒー?!

空調が少し物足りないと思っていたのですが、今ではすっかり心地よくあります。

 ストローで転がしては、コーヒーを楽しむ。
 ストローで転がしては、グラスを両手で包み涼を楽しむ。

 と、しばらく繰り返すと、氷の出っ張りがグラスの外に溢れそうになっていました。傾いてグラスのフチに触れていたのです。そうなると、そのうちそこから上部のコーヒー氷が残り続けてしまう可能性があります。そうです。そうならば、清潔にしてある手であれば。。。。。やるしかない。。。。。天地返しを。

”天地返し”という言葉は、太目の麺。たくさんの野菜、そしてニンニクとか濃いめのスープを合わせたハイカロリーラーメンを食す際に使われる、下と上を入れ替えるくらい混ぜることを指すのですが、このアイスコーヒーにもコーヒーに浸かっている部分の氷と浸かっていない部分を逆にする必要を感じたのです。

アイスコーヒーに、天地返し。

 この雰囲気の良い喫茶店で、それが上品かどうか。は、さておき。
このような面白いアイスコーヒーを出来るだけ楽しみたいという好奇心で、そっとグラスからはみだしているコーヒーを掴み、グラスの下の方へ入れ替え、グラスを手で包み、ゆっくり程よく解けるのを待ちました。

 そして、スモーキーで深いアイスコーヒーの時間です。

気付けば体はすっかり涼しくなっていました。
最後までコーヒー氷を溶かすことは叶いまおうかせんでしたが、3分の1は溶かせたでしょうか。

 予定もありましたので、お会計を済ませ、店主の方に感謝を述べると
「窓を見ると、日差し強くなってきたね」
と返してくれたので
「ええ、駅まで戻ろうと思ったのですが暑すぎて立ち寄らせてもらいました。アイスコーヒーのおかげで帰るまで頑張れそうです。
 ありがとうございました、また伺います!」
とても快適な滞在に感激でした。

 何度か訪れている場所であっても、新鮮な体験があることに喜びながら階段を降り、駅へ向かいます。暑い日差しは更に強まったように感じますが、特別なアイスコーヒーのおかげか、本当に自宅に帰るまで快適に移動できました。


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