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スダーマーのお米の贈り物

神は権威者であり、邪悪な人々に対しては破壊的ですが、信者に対しては優しく慈悲溢れ恵み深いものなのです。信者の信愛の前では、神の意思は色を失い、溢れるばかりの慈愛と恩寵を注ぐことで、信者を決して失望させません。そんな神の誓いが描かれている、インド聖典『シュリーマド・バーガヴァタム』の中の、スダーマーのお米の贈り物の話(第10巻第81話)です。

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『厳格なブラフミン(カースト最上位の僧侶階級)であるスダーマーは、神さながらに感官を完全に制覇し、ブラフマン(神)の知識に確立し、心安らかに暮らしていました。感官や欲望の対象に無執着なスダーマーは、みすぼらしい服を身につけ、純粋な方法で手に入れた少しばかりの食べ物しか口にしませんでした。彼の妻も気高い心の持ち主で、夫と同様に贅沢をしなかったので、身体を充分な服で覆うこともできず、わずかな清らかな食べ物のみ食べていたのです。妻は日に日に痩せ細そり衰弱していきました。肉体的精神的限界に近づき、彼女は夫に懇願しました。

「あなたは友人であるクリシュナと一緒にグルクラで学んだ仲ですよね。富の女神ラクシュミーの夫であるクリシュナ神は慈悲深く、愛する寄る辺なき者を、決して困窮させず、富を与えてくださるはずです。どうか、友人のクリシュナを訪問して、食べ物や必要な物を恵んでもらってくださいませんか。」

妻の切実な願いを受け入れ、幼少時にかつて一緒に学んだクリシュナ神の宮殿を訪れることにしました。スダーマーはクリシュナへのお土産として、妻が近所を回ってもらったわずかなお米の揚げ物を、粗末な布切れに包んで携え、クリシュナの住んでいるドワーラカーに向けて旅立ちました。彼はクリシュナからお恵みを頂くことよりも、ダルシャン(神の拝謁)にあずかれることに喜びでいっぱいでした。

クリシュナがいる豪華な宮殿に到着したとき、遠くから会いに来てくれた懐かしき学友スダーマーを思わず抱き締め、涙を流し喜びました。クリシュナ自身が礼拝の品々を運んできて、スダーマーの御足を洗い、その水をクリシュナ自ら頭にかけました。そして、愛するブラーフマナ、スダーマーの身体に高価な香水や白檀やサフランなどを塗られたりして歓待しました。クリシュナとスダーマーは妃の扇子で涼しい風の心地良さを感じながら、子供時代に2人のグルであるサーンディーパニ先生のもとで過ごした懐かしい思い出に花を咲かせました。

聖なるバガヴァン、クリシュナ神はすべてを知っていました。しかしあえて、スダーマーに尋ねました。「僕のために贈り物を持ってきてくれたんだね。その包みの中は何?」

粗末な布てくるんだ小さな包みを、スダーマーはとても恥ずかしく思い、ただうなだれていました。クリシュナはそんなスダーマーにお構いなしに、彼の上着の下に隠してあった布で包まれていたお米を取り上げて言いました。
「愛する友よ、これは僕の大好物じゃないか!これは、僕ばかりか、世界を満足させるものです!」

そう言うと、クリシュナは袋に入ったお米をひと包み食べ、またひと包み口にしようとしました。あまりにも美味しそうにパクパク食べるクリシュナを見た、妻の女神シュリーは
「世界を満足させるには一口で十分でしょう。」とクリシュナの手を止めさせました。クリシュナ神は、スダーマーのお土産のお米を喜んでいた以上に、ここに来たスダーマーの純粋な理由と妻の切実な願いを知っていたので喜んでいたのです。

そして夜にはアチュタの宮殿で、クリシュナとスダーマーは豪華な美味しい食事と飲み物を楽しまれて、幸せな時間を過ごしました。やがて夜が明けてスダーマーが家に帰ろうとしたとき、クリシュナは最後まで優しい言葉をかけ、一緒に歩いてくれました。

その時、スダーマーはクリシュナから何も財産をもらいませんでした。彼は、自分の心の卑しさを恥じていたために、自分から何も求めなかったのです。それ以上に、スダーマーは偉大な友であるクリシュナの姿を見て触れ、この上ない喜びに満足していました。

けれども妻に懇願され、本来の目的であったのに、クリシュナ神から何1つ財産を受け取れなかった理由を考えていました。
「もし愛するクリシュナが貧しい自分に富を与えたら、私はのぼせあがって、神を忘れてしまうので、クリシュナは慈悲を示され富を与えなかったのだ。」

そうこう考えている内に、家の近くにまで戻ると、光り輝く豪華な広い大きな宮殿が並んでいるのを目にしました。自然に溢れる森や湖や庭園、様々な鳥や動物たちの鳴き声、咲き乱れる花々、着飾った男性や美しい装いの女性たち。

ここは、なぜこんなに変わったのだろうと、スダーマーが不思議に思っていると、美しい金の首飾りやドレスを身に付けた妻が涙を流し、夫を出迎えました。さらに、家に入ると、何百という柱に宝石が散りばめてあり、インドラ神の宮殿のようでした。

このように、降ってわいたような莫大な財産に、謙虚なブラーフマナであるスダーマーは冷静に考えました。

「クリシュナ神は、自分へ贈られた信者からの贈り物をそれほど重要視されず、それ以上に信者の望みをすべてご存知で、口には出さずに、溢れるほどの富を与えてくださったのだ。自分が捧げたわずかなお米の贈り物を喜んで受け取ってくださり、お返しにあの方の莫大な富という贈り物を無執着にも与えてくださったのだ。どうか私がいつの世に生まれても神への愛と奉仕を忘れずに、無限の恩寵が宿るシュリー・クリシュナの御足を崇めることができますように。」

スダーマーはそう心の中で祈り、クリシュナ神から与えられたこの世の楽しみを、非常に謙虚に執着を持たずに妻と楽しまれて、クリシュナ神の信仰を深めていきました。クリシュナの学友であったスダーマーは、神はいかなる者にも征服されないものの、信者には喜んで従われることを悟ったのです。』

愛と優しさをいっぱいありがとうございます!