僕たちの戦争
全てが思い通りにはいかないというが、やはり思い通りにいくことがあればとても嬉しいものだ。
一ヶ月ほど前、私の好きなアイドルグループである欅坂46の、私の最推しである長沢菜々香というメンバーの卒業が発表された。
好きだと言ってもライブや握手会に行ったことがある訳でもなく、現場に行かないいわゆる在宅オタクに近い感じだが、一応CDやDVDを買ったりブログやテレビをチェックしたりするなど、人目より興味が勝つ範囲のことはしていた。
山形の訛りを抑えて喋っているのか若干単調に聞こえる落ち着いた話し方が好きで、心地良くて、SHOWROOMもよく見ていた。
シュッとした輪郭、まんまるなのに切れ長の目、細くて真っ直ぐな鼻筋、キュッと上がるとアニメみたいに可愛い口角、あひる口っぽくてピンクがよく似合う唇。
笑った顔が猫みたいで可愛かったり、ふと目を伏せると大人っぽくて儚げだったり。
のんびりしていて個性的で、好きな物事には妥協せず努力を惜しまない印象だった。
綺麗なビジュアルと、独特だけど平和で安定した雰囲気に、いつも癒されていた。
正直、なーこちゃんの卒業は、もっと先のことだと勝手に思っていた。
突然欅坂の公式Twitterからの通知で知ることになった。
長沢菜々香の卒業発表。
たまごがゆが食べたくなって、コンビニで買ってきて食べながら、色々思い出していた。
なーこちゃんは色々な才能を持っていて、それは好きの気持ちから発展したものが多かった。
アイドルも元々自身がアイドル好きでなったし、他にも少女漫画が大好きだから漫画が描けたり、食べることが好きだから料理ができたり、とか。
特に食に関してのなーこちゃんがすごく好きだ。
「お腹を空かせた状態が嫌」で、抜き打ちで荷物の中身を公開した時もリュックの中にたまごがゆが入っていたり。
SHOWROOMでなーこクッキングを配信し、アイスを作ろうとするも塩が無くてなかなか冷え固まらずに「どーしお」と言っていたら、その配信を見ていたみいちゃんが塩を持って現場へ登場してきて出来上がったアイスを2人で食べる神回があったり。
寮の食事が美味し過ぎて、「1キロまでなら食べて良い」と決めて体重計に乗っては「まだ食べれる」と余った分を食べ続けたり。
夏ライブのケータリングのかき氷を30杯も食べ、あかねんが一番食べたのでは?と聞かれるも「一番はなーこちゃん。負けたわ」とあのねんさんに負けを認めさせたり。
つっちーの誕生日回にマグロ解体したり。
死んだら棺桶にポップコーンの種を入れて一緒に焼いてほしいと言ったり。
ブログの写真も、いつもなーこちゃんの側に食べ物があった。
食べることが大好きで、あの華奢で細い身体からは想像できないほど食に対して貪欲。
もぐもぐするなーこちゃんは世界一可愛かった。
3月いっぱいで卒業になることを3月が終わる4日前に知らされた。
最後だから握手会参加してみようかなとか、オタクとしては良くない発想なんだろうけど最後をきっかけに積極的になることすらできなかった。
推せる時に推せなんて散々聞いていたし、自分がこういう好きのなり方をしている以上後悔は無いけど、やっぱり凄く寂しかった。
もっと欅坂46の長沢菜々香ですと言ってほしかった。
FIVE CARDSの新曲を聞きたかった。
ふわふわの卒業ドレスを着て微笑んでほしかった。
録り溜めた分なのか4月に入ってもけやかけの収録にはなーこちゃんが参加していた。
こないだの放送の最後に、なーこちゃんの卒業の挨拶が入った。
参加していたのは今週分までだったのだろうか。
「太陽は見上げる人を選ばない」が流れていた。
確かに、なーこちゃんってそんな存在だった。
平等に愛と温もりを与えるような人だった。
だってなーこ教の教祖様だもんね。
それが放送された日、ツイッターであるツイートが流れてきた。
岩井様がなーこちゃんについて呟いていた。
(自称岩井帝国民なので高校時代から岩井には様をつけてしまう体になっている、気にしないでほしい、以下敬称略)
それを見て、驚いて、それから嬉しくなった。
岩井といえば、澤部がMCをしているけやかけで何度もロケに出演している。
その中でも、大食い企画のリベンジの為になーこちゃんが武者修行をするというロケで、なーこちゃんと岩井は直接共演していた。
それも確か2~3年前ぐらいだと思うが、それをちゃんと覚えていて、あの子辞めちゃったのか、とわざわざ卒業に触れたのだ。
一度ロケでちゃんと共演したくらいのもので、がっつり関わりがあった訳でもなく触れなくても何も疑問に思わないところを、わざわざ。
そんなこと、少なくともどうでもいいと思っていたらしないだろう、しかも色々と面倒なツイッターなんていう場所で。
寂しさをじわじわと噛み締めながらそのロケがあった回を見て、本当に可愛いな、岩井もいるしめちゃくちゃ良い回だったなと思い返していたところに、ちょうどそんなツイート。
ロケの内容とその中のなーこちゃんのことまではっきり覚えている書き方と岩井っぽい言葉選びで、すぐに卒業のことだと分かった。
ラジオっていう別の楽しみで好きになった人が、別で好きになった推しの卒業に反応した。
深夜ラジオを聴き始めたのと欅を好きになったのがほぼ同時期だったから、それが余計に。
悲しいけど嬉しかった。
でもツイッターは本当に面倒だ。
そのツイートのリプ欄には、誤解だらけの酷いリプライがいくつもあった。
全然関係無い話を持ち出す人間もいるし、無意味に攻撃する人間もいるし、何も知らないことをわざわざ分からないと送っている人間もいた。
ツイッターとはそういうものだ。
割り切るしかないし、こいつらは馬鹿だなと鼻で笑って無視してやるしかない。
自分と対する物には抗うだけ無駄であり、むしろ参加してしまっては自分まで同じ馬鹿みたいに思えてしまう。
ましてや有名人に無闇矢鱈にリプライを送るなんて反応してもらいたいか傷付けたいかの二択だ。
いつもならそう思って、馬鹿らしくなってツイッターを閉じるだろう。
だけど、どうしても納得いかなかった。
岩井がまるでなーこちゃんを皮肉ったかのように解釈して、馬鹿な反応を寄越している奴までいたのだ。
それを思う人間がそいつだけならまだ良いが、何が何だかよく分からない人がこのツイートを見て、そのリプを見て、ああそういうことなの?と理解してしまったら。
なーこちゃんのイメージを勝手に下げるようなリプ欄が広がっていたら。
こんな小さな島のどうでもいい奴らの抱くイメージなんか、本当はどうでもいいはずだ。
だけどどうでもよくなかった。
賢く振る舞いたいならここでぐっと堪えていいねだけ押して立ち去れば良い、分かりきったことだ。
でも、もう馬鹿でもいい、自己満足でいい、むしろ自分だけの為に、どうにかしたい。
そう思った。
返信を押して、画像フォルダにある数日前に保存したばかりの例のロケのスクショを貼り付けてやる。
そこに、まずなーこちゃんの卒業についての話であること、それからロケで共演し、そこでのエピソードを混じえながらのツイートであること、そのことを覚えていて、スルーしてもおかしくない所を触れてくれたこと、が明確に分かるように、私なりの解釈を詰め込んだ文章をなるべく単調に違和感なく添えて、送信した。
恐らく、くだらないリプライで埋め尽くされているのと、このリプをセットで見るのとでは、このツイート自体の印象が全く変わるはずだ。
人間はすぐに影響されてしまうから、きっと、皆の反応で自分自身の純粋な意思を見失っていつの間にかそいつらと同じ意見を持っていると勘違いしてしまう。
もし私が送ったこのリプライが上の方に表示されたら、訳の分からないリプライより先に見てもらえて、ツイートの内容の受け止め方が一気に変わるだろう。
勢いのままにやったことだが、これがRTやいいねを稼げたら少しは上手くいくと思った。
で、実際上手くいった。
結果から言うとそのリプ欄の中では一番反応の数が多かった。
おかげでリプは埋もれることなく持ち上がり、ツイートを見た後にすぐ目に入る形になった。
他人の気持ちなど分からないが、多分、ツイートの解説部分になれたんじゃないかと思う。
これはもちろん岩井の意図とは違うかもしれないし、何が正しい訳でもない勝手な解釈をしたリプライだったが、そんなことは問題じゃない。
私なりの考えに影響されろ、なーこちゃんを眺めてきた私の思いに、岩井のトークを聴いてきた私の解釈に、影響を受けろ。
それが目的だったから。
なーこちゃんの卒業から余計なものは遠ざけたかったから。
ほんの少しの小さい小さい抵抗だった。
とはいえ岩井のツイートには2万以上のいいねがつき、このツイートはもっともっと多くの人に見られたことだろう。
だけどなーこちゃんのおかげでリプライにはたくさんの反応が届いて、少しでもツイート見る人達に影響を与えることができた。
こんなこと全く自慢にならないし、正直どうでもいい人ばかりだし、カッコ悪い行為だけど、これがなーこ推しとして最後をきっかけに出た行動だったのだ。
自己満足でも、それができて良かった。
そのリプライのリツイートが46回になった時、私はアカウントを元通りに隠した。
よく噛んでもぐもぐして食べるので、最終的にたくさん食べるが、短時間では大食いを発揮しきれない。
陸上もそうだった、なーこちゃんは短距離より長距離に強い。
その時々よりも、全体で見た時にその力がよく分かる人だと思う。
欅のこれまでの4年間も、なーこちゃんが与えてきた影響は計り知れない。
いつも癒しになってくれてありがとう。
少し遅いけど、誕生日もおめでとう。
好きにならせてくれて、ありがとう。
なーこなーこなーこなーこなーこなーこなーこ
なーこなーこなーこなーこなーこなーこなーこ
なーこなーこなーこなーこなーこ
またね
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