シークレットフラットミニポーチ
昔から引きが強いと言われて育った。
家族でトランプをする時、大抵母か私が勝ち、父と兄は負けることが多かった。
お参りに行っておみくじを引けば、母と私は大吉、父と兄は小吉や中吉が出ていた。
ジャンケンをすれば母と私が真っ先に勝ち、弱いのはいつも父と兄。
だから小さな頃から、家族で運を試すようなことがある度に、私は母親から「引きが強い」「運が強い」とお墨付きをもらっていたのだ。
しかし正直、私は自分で強運だとはあまり思ったことがない。
何故かと言えば簡単で、自分から最も近い存在である母親が、自分よりも遥かに引きが強いからである。
母がくじを引けば、毎回アタリを引き、
母が抽選に参加すれば、必ずと言って良いほど当選の結果が送られてくる。
家では母がPascoのシールを集めて応募した結果当たったオーブントースターで毎朝パンを焼いていたし、
毎年お正月が過ぎると当選した年賀状を郵便局に引き換えに出かけていた。
残念ながらコロナ禍で行くことはなくなってしまったが、2020年の東京オリンピックのシンクロ決勝だって、本当は家族4人分のチケットが当たっていた。
全ては母親の元に訪れた幸運の恩恵であった。
そのため、私は自分自身を強運だとは思えなかった。
ホンモノは格が違う。
私はそんな域にはいっていない。
そりゃ、悪くはないけども。
席替えでくじを引けば、大抵仲良い子や好きな人の近くに座れたけども。
PTAのくじで散々アタリを引いて役員をやらされていた母親の元に帰れば、ああ、私はそれほどまでではないんだな、と思わされた。
引きが強いと、良い悪いに関わらずアタリとされた特別なものを引いてしまう運命にあるのだ。
可哀想…
私はこのままがいい…
むしろこれくらいでちょうどいいや…
だから私はそれほど引きが強いわけではない。
そう思っていた。
そう…
あの時までは……。
スヌーピータウンショップを見つければ必ず駆け込む。
それが私の習性だ。
ゆる〜い絵柄のピーナッツはいつも私を癒してくれる。
かわいくて、スヌーピー関連の商品を見ているだけでも楽しい。
キャラクターも変な奴ばっかで好きだ。
ウッドストックが大好きだけど、スヌーピーももちろん好きだし、
ライナスやシュローダーなんかも好きだ。
花沢さん ルーシーも、スヌーピーミュージアムで色々なエピソードを知ってからは面白くて、スヌーピーとのやり取りもかわいいので悪くない。
チャーリーブラウンは別にって感じ。
まぁ総じて絵柄はかわいいけどね。
そんなスヌーピー大好きっ子ちゃんな私が、この前原宿のスヌーピータウンショップでなんとも素敵なものを見つけた。
それがこちら。
ピーナッツ、シークレットフラットミニポーチ!
裏を見ると、
え!なにこれかわいい!!
表の説明『パステルのバイカラーがかわいいミニサイズのフラットポーチ』…
たしかに!
私は強く惹かれた。
何故ならば、パステルカラーの申し子だからである。
色なんか全部パステルが良いに決まっているのだ。
どれも色味がかわいいし、絵柄だって全部癒されるかわいらしいもの。
ポーチなら実用性もあるし、小さいのでカバンにも仕舞いやすいだろう。
これは買いだ!!!!
笹食ってる場合じゃねぇ!!とばかりにポーチの入った箱を片手に棚を飛び越え、レジの前にシュタッと着地した。
「これ、お願いします」
フラットミニポーチを1つ購入。
いや〜シークレットっていうのもワクワクするよね、自分じゃ選べないのが逆に良いっていうか、いつもの自分とはちょっと違うものが手に入ったりもして新たな魅力に気付けたり………
…え?
え、なに、
なに?これ
何なの?これ…
箱から出てきたものがこちら。
は?
え、なん、おま、
は???
何お前
どっから来たんだよ
帰れよ
てか誰だよ
帰れって
ジャイアンじゃねぇかよ!!!!!!!
ドラえもんのシークレットフラットミニポーチを引いた覚えはねぇぞ!!!!!!!!!
書いてたか?なぁ
『ジャイアンの洋服カラーがかわいいミニサイズのフラットポーチ』って
書いてたか!!!!!?
書いてなかったよな!!!!!!
『パステルのバイカラーがかわいいミニサイズのフラットポーチ』って言ってたよな!!!!!!!!!お前!!!!!!!
『パステル』どこ行ったんだよ!!!!!!
俺パステルの申し子だっつってんだろうがよ!!!!!!!!!!!!
パステルじゃねぇ色なんか無い方が良いに決まってるっつってんだろ!!!!!!!!!!
んだよその色は!!!!!!!!
バイカラーって黄色と黒のその阪神みてぇな色のこと言ってんのか!!!!?あぁ!!!!?!?!!!!!?
33-4のくせによ!!!!!!!!!!!!
帰れよ!!!!!!!
帰れ!!!!!!
帰れって…!
うぅ…
二度と、そのツラ見せんな……っ!
僕は泣き崩れた。
原宿の中心で小さく嗚咽した。
その日一緒に出かけていた友人と、かき氷を食べながら開封した時のことだった。
友人は引いていた。
どうやら、私は引き当ててしまったのだ。
そう、パッケージに書かれていたようなパステルカラー8種のポーチではなく、
その端で『?』とふざけたようにとぼけている、シークレット2種の方を…。
私は帰宅後、それをカバンから取り出すや否やすぐに部屋の隅に置いてある紙袋の奥の方に隠した。
奥の奥の、奥の方へ。
ねじ込んで二度と見れないようにした。
ジャイアンという、戦えないボディを。
見たら気が狂ってしまいそうだったから。
私は封印することにしたのだ。
それからしばらくは、穏やかな日々が続いた。
連日気温が35度を超え、日本は猛暑に見舞われていたが、
うだるような暑さの中でも、毎日それなりに楽しく、笑顔で暮らしていた。
もうあの事件のことなどすっかり忘れ、
そうめんをすすり、麦茶に氷を浮かべれば、体の中の熱は和らぎ、夏のほとぼりは冷めていくようだった。
少しずつ、少しずつではあるが最高気温も徐々に下がっていき、
ようやく外もマシに歩けるようになってきた頃。
私に再び、機会-チャンス-が訪れた。
東京ソラマチ。
皆さんはここに、スヌーピータウンショップがあるのをご存知だろうか。
9月某日。
すみだ水族館でかわいいかわいいペンギンのぬいぐるみ・ペン子をお母さんに買ってもらった帰り、
ソラマチの中にスヌーピータウンショップがあると聞きつけた私は、笹食ってる場合じゃねぇ!!とペン子を片手にスカイツリーを飛び越え、シュタッとショップの前に着地した。
櫻坂46『なぜ 恋をして来なかったんだろう?』の落ちサビの「なぜ」の藤吉夏鈴ほどの勢いで顔を上げ、満面の笑みで中へと飛び込む。
すぬ子♪すぬ子♪♪
すぬこ巡り!
ウッドストックもかわいい♡
スヌーピーのグッズ売り場で毎回見かける、塩昆布おにぎりみたいな絶妙な茶色みのスヌーピーのぬいぐるみ(通称:塩昆布おにぎりすぬ子)が毎度欲しくてたまらなくなるが、今回もスルー。
今日はペン子がいるからね!
るんるん♪とご機嫌で店内を回っていると、
…
ウォイ…
出たな……
おまえ………!
そこには、因縁のあのシークレットフラットミニポーチがいた。
その瞬間、私は全てを思い出したのだ。
あの忌まわしき記憶…
ジャイアン…334……シークレット………!
頭が割れるように痛い。
ヒビが入ってビキビキと…そう、あの模様のように、黒いヒビが。
私の脳天から平和ボケした頭を真っ二つに割ったのだ。
そして、桃太郎の如く中から冴えた脳みそが出てくる。
その頭で、考えた。
もう二度と思い出さぬようにと封印していたあのシークレットフラットミニポーチに、
最低な中身であるという危険性を孕んでいるあのシークレットフラットミニポーチに、
もう一度、チャレンジするのか。
私はシークレットフラットミニポーチの棚の前で立ち尽くした。
…いや、本当は忘れてなどいなかったのだ。
あの日から、毎日。
忘れたふりをして日々を過ごしてきたけれど、
本当は、一秒だって忘れたことはなかった。
あの時の衝撃と悔しさから、常にシークレットフラットミニポーチのことが忘れられず、
私にもっと運があれば…
こんな星の下に生まれてこなければ…
そんなことばかりを考えては、密かに自分を呪っていた。
スヌーピーを引いたはずがジャイアンを引いてしまう、こんな愚かな自分のことを。
ずっと、許せずにいたのだ。
今、目の前に現れた新たなシークレットフラットミニポーチ。
これは、そんな自分をやっと許すことができるかもしれない、チャンスなのでは…?
そう思うと手が震えた。
額にはじっとりと汗が浮かび、
やけに喉が渇いてくる。
立っていられないほどの緊張感。
もう一度賭けるか
負けたままでいるか
この残酷な運命に抗うためには
…
運命…?
運…
不運…私が……?
そこでふと、違和感に気付く。
私は幼い頃から、どちらかといえば運が強い方だと言われて育ってきた。
昔から、引きが強いと言われて育ってきたのだ。
ババ抜きでカードを引けばあがり、
神社でおみくじを引けば大吉。
席替えのくじで強く願えば、好きな人の隣の席。
…そうか…
そうだったんだ
私は…
運が悪いんじゃない…
むしろ逆で、
引きが強くて強運なんだ……!!
全てを理解した私は、瞳孔をガン開きにして目の前のシークレットフラットミニポーチを見つめた。
そうか…そういうことだったんだな…
あの訳の分からないパッケージに載っていないシークレット種を引いてしまったのは、
私の引きが強かったからだったのだ。
それならば、話は早い。
私はようやくその場から動き、兄を呼んだ。
「この中から、1つ引いてほしい」
そう兄に頼んだのだ。
昔から、兄はあらゆる運ゲーで負けまくり、おみくじもロクな結果が出ない。
分かりきったことじゃないか。
なぜ今まで気付かなかったのだろう。
最初から、こうすれば良かったのだ。
シークレットフラットミニポーチは、
私ではなく、兄が引けば……!
そうして兄が引いたシークレットフラットミニポーチを、開封する。
出たのは、こちら。
エッ
カンワイイ〜〜〜〜!!!!!
キャワキャワキャワキャワ〜〜!!!!!!!
そうですこれですまさしく私が引きたかったのは!!!!!!!!
開けたその日に撮った写真なのでテンション上がりすぎて普通にネイル映してます!!!!!!つめもかわいい!!!!!!!!!
え〜てかライナスじゃん!!
私がまぁまぁ好きなやつ!!!!
さすが兄!
私の1番好きなウッドストックではなく、
2,3番目に好きかな〜くらいのライナスを引き当てるところ!!!!
これぞ私の知っている兄の運!!!!!!!!
兄に引いてもらって大正解だった。
それに、色は私の大好きなパステルグリーン♡
うんれし〜〜ぃ
最高かよ〜
やっと本当のシークレットフラットミニポーチを買えた気分だった。
そしてこの騒ぎを聞きつけて、母もやって来た。
事情を話すと、母はこう言う。
「私に頼まなくて正解ね。私が引いたらまたそのジャイアンが出てたよ」
うん、分かってた。
やっぱりそうなんだ。
これは、運が強い人ほどジャイアンを引いてしまうシステム。
そんな簡単なことに気付かず、自分を責め続けてしまっていた2024・夏。
それがこのパステルグリーンライナスによって、ようやく解放された気がした。
そっか…そうだったんだね。
私も、やっぱりお母さんと同じだったんだ。
強運の血筋を引き継ぐ者として、ずっと自信が無かった。
私はやっぱり、引きが強くないんじゃないかって。
でもこれで、ようやく分かったよ。
お母さん、私はやっぱり…
引きが、強いみたい。
良い悪いに関わらず、アタリとされる特別な何かを引き寄せてしまう。
それが、この血を引いている者の運命…なんでしょ?
わかってる!
そりゃ、この運命を受け入れてしまったら、普通の幸せなんか手に入らないって…
でも、でもね。
私、やってみたいんだ。
せっかくだから、見てみたいや。
普通じゃ手に入らない、特別な、幸せを…
自らの手で、引き寄せてみたい。
その分、特別な不幸だって経験しなくちゃならなくなるでしょう。
でも、それでも。
私、引いてみるよ。
こっちの運命を…
自分の手で、選び取るんだ。
そんな感じでランダム系ガチャの罠にまんまと掛かって2つ買わされましたね。
まぁ、結果的には楽しかったです。
でも今後ランダム系は買うのやめようと思います。
ちなみにその後ジャイアンはお母さんに押しつけて、今はライナスを愛用中。
充電コードとかね、入れてます。
んきゃわち〜〜
ありがとうございました。
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