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Shyな日本人とGentleman:Tapestry

海外出張の多い私の上司は、ヨーロッパにも行くし、アジアにも行くし、いろんな文化に触れて、多様な人たちと一緒に仕事をしている人だった。私は時々、海外にいるその上司とどうしても連絡を取らざるを得ない時は、現地時刻を世界時計で確認してから、メールやLINEで送るタイミングを測っていたものだ。

そんな折、ヨーロッパの国から帰国して間もなかった上司と二人でエレベーターで乗り合わせた時があった。同じ階で降りるのに、上司はボタンを押して黙って待っている。私は一瞬何が何だか理解できなかった。
私は普段、エレベーターに乗り込むと、いち早くボタンのある場所へ移動し、「何階ですか?」と訊き、降りる人のために「開」ボタンを押す習慣が身についてしまっている。これは、職場でもスーパーでもそうすることが当たり前になっていて、一瞬自分が逆の立場になっただけかと思ったのだ。とりあえず上司に頭を下げて非言語的に感謝を伝えエレベーターを降りると、今度は上司が行き先のドアを先に開けて待っている。

そこでようやく私は、上司が”ladies first”をしてくれていることに気が付いた。
出張中、上司はずっと当然のように習慣的にこういう行動をしながら生活していたのだろう。その行動はあまりにも自然だった。

異文化を目の前にした時というのは、こういう感覚に陥るものなのだろうか?
私は、急に気恥ずかしくなってしまい、返す言葉もなく、ただ固まってしまったのを覚えている。

「私は、典型的なShyな日本人なんだなぁ。」と感じた瞬間だ。


今年に入り、私は他の保護者と同様、子どもの習い事でレッスン室に子どもと入ることが増えた。
同じレッスン室に入る子ども達はまだ幼く、先生が説明しても、言葉の意味をあまりよく理解できず、先生がさらに簡単な言葉で言い直すことすらあった。
レッスン室に入っている保護者全員が先生の指示がわかるのに、子ども達は全員がさっぱりわからない、という表情でポカーンとして、どうしたらいいのか途方に暮れているような時もあった。
「同じ日本人なのに…。早く日本語がわかるようになってほしいですよね〜。」
隣に座っていた別の子どもの保護者と私は頷き合った。

ある時、男の子2人、女の子3人のグループで、レッスン中「将来の夢はなんですか?」と先生が訊いた。ヒントとして「うちゅうひこうし」の言葉が例として見える形になっている。
しかし、手を挙げる子は誰もいない。
しばらくすると、1人の男の子が手を挙げて、「フェミニストです!」と勢いよく答えた。
レッスン室は一瞬固まったが、先生は「そういう夢もありますね。素敵ですね!」と穏やかに答えた。
私は、こんな幼い頃から「フェミニスト」を目指すと言うとは、さぞかし親御さんが教育熱心な家庭なのだろうなと思った。

レッスンが終わり、部屋のドアを開けようとすると、将来の夢を勢いよく語った件の男の子がドアを開けるのに苦戦していた。重いドアで、子どもの力ではうまく開けられないようだった。私はその男の子に代わって、大人の力でドアを開けて「どうぞ。」とドアを男の子に返した。すると、その男の子は、黙ってドアを最大に引き開け、自分はドア・マンをやっているのだ。すぐ隣にいた私の子どもは、意味が分かっていない様子だった。

「ありがとう、小さなgentleman。
ladyies firstをしてくれたんだね。
先に行かせてもらおうね。」

私は言葉でそう男の子にお礼を言いながら、自分の子どもを促し、一緒にレッスン室を先に出させてもらった。
私にとっては職場の上司とのかつての経験が活きた瞬間だったが、一方でその男の子のことを「将来末恐ろしい子だな。」と思った瞬間でもあった。
ただ、さりげない優しさに私はタイミングよく感謝を伝えることができたので、親として子どもにもいい見本を見せられ、男の子も満足げな表情をしていた。

これで良かったんだな、と私は思った。


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