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たまごのサービス

近所にお弁当屋さんがある。

美味しいらしい。
店員さんが気さくらしい。
サービスで、ゆで卵を付けてくれるらしい。

「らしい」と書くからには、もちろん行ったことがないわけで。朝まで台本書いたりしてるのも当たり前の生活、開店と同時に行くぐらいのチャンスはいくらでもあるのだが、行けないわけがある。

サービスで、ゆで卵を付けてくれるからだ。

私はゆで卵が苦手である。

生卵は好きで、牛丼の真ん中で黄身が割れたり、卵かけご飯のツヤには色気を感じるのだが、ひとたび火が通ると、たまごがあまり好きでなくなる。蛙化現象と言って良いかもしれない。

ゆでたまご>目玉焼き>卵焼きの順に苦手である。(キン肉マンは関係ない)。これはひとえに、“白身の主張・量”に比例する。

黄身のイメチェンみたいな「卵焼き」は比較的マシで、「白身の旨みを丸かじり!」みたいな「ゆで卵」は非常に苦手。

ただ、ラーメンじゃないが「情報を食う」時はこの順序が変わったりして、たとえば『天空の城ラピュタ』を見た後は、しばらく目玉焼きonトーストを美味しく感じるように脳を信じ込ませるスイッチが入ったりする。「絵に描いたような洋朝食」という美味しい情報を食うために、スクランブルエッグを好きなフリをしたりする。

こんな器用なこと、人付き合いでも出来たら良いのだが。

話は逸れましたが、そんな順不同の中でもゆるぎない苦手TOPに君臨するのが「ゆで卵」であります。

そんなゆで卵を笑顔でサービスしてくれるという弁当屋さん。

断りづらい。

「アレルギーで」みたいな嘘は、本当にアレルギーな人に申し訳なくて言いたくないこともあり、ゆで卵サービスには「要りません」と言わなくてはいけない。

「タクシーで行先を告げるカロリー」を割きたくないがために、わざわざ500円上乗せしてタクシーをアプリで呼ぶぐらいの自分は、480円のお弁当を買うときに「善意を断るストレス/カロリー」を抱えていたくない。

ので、行きたいけど、ネットで画像見るととっても美味しそうだけど、そのお弁当屋さんに行けない。

ふと、ネットのレビューを見かける。近年の卵の高騰により、ゆで卵提供のサービスをやめてしまったらしい。
代わりに小さいおにぎりを付けてくれるそうだが。

怪我の功名とはこのことか、私は初めて、その弁当屋さんに行くことができた。

のり弁。安くて、美味しい。

赤ちゃんの拳ぐらいのゆかりのおにぎりを一緒に付けてくれた。

湯気でしなったラップに、実家の残像を見る。

卵の高騰はかなりの痛手だが、そんな卵の高騰のせいで、私は行きつけの弁当屋さんをひとつ、増やすことができたわけである。


なんか、ことわざとか慣用句になりそうな出来事だな~と思ったが、普通に「怪我の功名」だった。

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