DRUG SEX INTERNET


 小学校1年生、初めての漢字テストでいきなりカンニングをした。「テスト」というシステムが理解できなかったので配られた紙をどうしていいかわからず、隣の席のワタナベくんの真似をしようと思って。だっていきなりそんなこと言われてもわかりませんものね?と思ったらわかってないのは自分だけだった。
 何度怒られても宿題ができなかった。家に帰ると忘れているか、覚えていてもできなかった。4年の担任のモチヅキ先生は熱血で、毎日放課後の廊下で「今日こそちゃんとやってくるって言ったよね?」と下校時刻ギリギリまで締め上げてくれたが、それでもできなかった。宿題をやらないとまた泣くまで怒られる、とわかっていてもできなかった。なんでできないのか自分でもわからなくて、わからなくて泣いた。どんなに怒られても15時45分までには解放されるらしい、それは規則らしい、ということはわかった。
 登校すると毎朝みんなは自分の知らないことを知っていた。でもそれは昨日の帰りの会で先生から言われていたらしい。
 休み時間にみんなが楽しそうに喋っているので加わったら静まり返って輪が散った。
 自分だけ運動会のダンスが覚えられなくて、前の列にいたワタナベくんの真似をしていたら、ワタナベくんに「やる気あんのか」と怒られた。あるわけないだろ。
 6年の担任のマサキ先生も熱血で、全クラス対抗大縄跳び大会を目前に控え、クラスで唯一跳べない自分を毎日みんなの前で吊るし上げてくれた。
 靴下のゴムの部分は左右でピッタリ同じ高さでないと落ち着かなかった。左右で締め付けが違うと身体がちぐはぐになってしまうから。道行く車のナンバープレートは左からも右からも引き算した。好きな引き算は16-9で、7になるのがおかしかった。
 言っていいこととそうでないことがあるらしく、みんなそれを教わらなくても知っていて、その違いを人に教えるのは難しいらしい。
 自分はよく言ってはいけないことを言ってしまうらしく、父と母はそれでよく喧嘩した。父は家を出た。
 宿題ができないまま高校に進学したら、宿題ができなくて中退した。
 みんなが当たり前にできることができなかった。

 今年で25歳になります。
 最近たまに「何を当たり前のことを言っているんだ」と怒られる。
 やっと「当たり前」ができるようになってきたらしい。ここまでずいぶん遠回りをしてしまった。みんなが当たる前にわかっているものごとに何度もぶち当たって、やっとちょっとわかってきた気がする。その経験は主に薬物と性とインターネットを介して得られたもので、おかげでえらく恥の多い生涯になってしまった。前科もついた。
 プリキュアが「脇道、寄り道、回り道、しかしそれらもすべて道」って言ってたらしい。道は好きだ。地図を見ると興奮する。青梅街道と新青梅街道が交わる辺りとかアツすぎる。
 自分の後ろにある、すべての道程も愛したい。
 

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