日本通運事件・東京地判令2.10.1~契約更新を重ねた後に導入された更新上限条項及び不更新条項の効力は?

弁護士の荒川正嗣です。
主に企業側での人事労務案件を取り扱っています。
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労働判例等の紹介をしながら、思うところを書いていきます。

1 はじめに

 本記事では、日本通運事件・東京地判R2.10.1を取り上げます。本事件は、被告Y社(日本通運)とH24.6.1からの有期労働契約(契約1)を結び、以後、概ね1年ごとの合計7回の契約更新(契約2~8、通算5年10か月)をした原告Ⅹが、H30.3末で契約更新なく終了すること(本件雇止め)は、労働契約法(以下「労契法」)19条1項1号又は2号が適用され、客観的かつ合理的理由がなく、社会通念上相当でないとして、労働契約上の地位確認をした事案です。
 契約5及び6では更新上限条項が、契約7及び8では不更新条項が設けられていたことから、Y社はこれらにより雇用継続の期待は放棄されたとの趣旨の主張をしました。本判決は係る主張を認めなかったものの、これら条項の存在は同期待の合理性を判断する一事情と位置づけた上、その他の事情も考慮し、結論として同期待は打ち消されたとし、期待に合理的理由はないとして、労契法19条1項の適用を否定し、Xの請求を棄却しています。
 更新上限条項や不更新条項が設けられていることは、実務上多いと思われますが、本判決を通じて、契約更新を何度か重ねた上で、これら条項を設けた場合の法的効力についてや、これを有効に機能させるための条項導入時及び導入後の留意点について、考えてみたいと思います。

2 事案の概要・争点等

【事案の概要】
 
Xは、H24.6.1、Y社と期間3か月間の有期労働契約を結び(契約1)、以後、契約更新を重ねますが、4回目の契約更新で結んだ契約(契約5・期間H27.7.1から1年間)は次のとおりの内容でした。なお、5回目の契約更新で結んだ契約(契約6・期間H28.7.1から1年間)も期間以外は契約5と同内容でした。

<契約5及び6の内容>
●就業場所:A1支店B1事業所
●勤務内容:C社業務(協力会社作業実績表、出荷作業実績表の作成、運転手窓口対応他)
●契約更新:以下の旨の内容
➀「本契約は前記の勤務地、勤務課所で、前記の業務を遂行するためのものであり、これが消滅、縮小した場合は、契約を終了する。」
②「更新の可能性 無。 ただし、更新する場合には労働条件の内容を変更することがある。」
➂「契約更新の判断基準 1契約終了時の業務量、2 労働者の能力、勤務成績、態度等、3会社の経営状況、従事している業務の進捗状況により判断する。2013.4.1以後、最初に更新した雇用契約の始期から通算して5年を超えて更新することはない」・・・更新上限条項

 その後、H29.7.1に契約更新されたものの(契約7)、Y社はC社から商品配送業務を失注し、Xの業務がなくなるために期間は2か月間とされました。この契約7の内容は以下のとおりです。

<契約7の内容>
●就業場所及び勤務内容:契約5及び6と同じ。
●契約更新:以下の内容
➀契約5の「➀」に「ただし、他の勤務地・勤務課所が確保できた場合は新たに契約を締結する。」と追記。
②「更新の可能性 無」
➂「契約更新の判断基準」自体は、契約5の「➂」と同内容だが、「2017.8.31を超えて契約を更新することはない。」との旨を追記。
                          ・・・不更新条項

 上記の内容で契約7を結んだ上で、Y社は、Xに対し、C社からの受託業務を新たに受注することになった後継業社への転籍を打診したが、Xがそれを希望せず、Y社の別事業所での勤務を希望したこと、また、Xが加入する労働組合よりH30.3末まで雇用して欲しいとの意見があったことから、Y社は、Xとの間で再度、契約更新をし、期間H29.9.1~H30.3.31までの契約(契約8)を締結します。この契約8の内容は以下のとおりです。

<契約8の内容>
●勤務場所:B2事業所D果
●勤務内容:倉庫事務全般(E社業務他)
●契約更新:以下の内容
➀契約5の「➀」と同じ。
②「更新の可能性 無(今回の契約をもって終了)」
➂「契約更新の判断基準」自体は契約5の「➂」と同内容だが、「2018.3末を超えて契約を更新することはない。」との旨を追記。・・・不更新条項

 Y社は、契約8の定めのとおり、更新はせず、H30.3.31の期間満了をもって契約終了としました(本件雇止め)。

【争点】
 主な争点は、➀労契法19条2号の適用の有無、すなわち、雇用継続に対する合理的理由が認められるかどうか、②これが認められる場合における本件雇止めが有効か否かです。
 そして争点➀との関係で、Y社が更新上限条項及び不更新条項(以下両者を併せて「不更新条項等」)が結ばれているために、Xは雇用継続に対する期待を放棄した旨の主張をしたことから、不更新条項等の効力ないし雇用継続の期待の合理性判断での位置づけも問題となりました。
※なお、労契法19条1号の適用の有無も争点となりましたが、本判決は、毎回更新手続が取られており、格別の意思表示がなければ当然更新されるべき労働契約を結ぶ場合に当たらないとして、同号の適用を否定しています(詳細は本項では略)。

3 争点に対する裁判所の判断要旨

(1) ➀‐1不更新条項等の効力ないし期待の合理性判断における位置づけ

【結論】
 不更新条項等の存在は雇用継続の期待の合理性を判断するための一事情に留まる。

【理由】
<不更新条項等を承諾し、期待を放棄したと認められるための規範>
●契約書に不更新条項等が記載され、これに対する同意が更新条件となっている場合、労働者としては署名を拒否して直ちに契約を終了させるか、署名して次期の期間満了時に契約を終了させるかの二者択一を迫られるため、労働者が不更新条項等を含む契約書に署名押印する行為は、労働者の自由な意思に基づくものか一般的に疑問がある。
●契約更新時において労働者が置かれた前記の状況を考慮すれば、不更新条項等を含む契約書に署名押印する行為があることをもって、直ちに不更新条項等に対する承諾があり、合理的期待の放棄がされたと認めるべきでない。
前記行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合に限り(山梨県民信用組合事件・最判H28.2.19参照)、労働者により更新に対する合理的な期待が放棄されたと認めるべきである。
<本件での当てはめ>
●本件では契約5の締結時に、更新上限条項が初めて契約書に記載されたが、契約5及び6の締結時、Y社の管理職が、Ⅹに対し、Y社運用基準(※H25.4.1から少なくとも通算4年2か月以上雇用された有期雇用労働者に対して無期転換権を付与するもの)の存在や同条項の法的効果について説明したことを認めるに足りる証拠はない。
●また、Xは契約7の締結の際、管理職に対し、不更新条項について異議を留めるメールを送っている。
そうすると、契約5~8までの不更新条項等の契約書に署名押印する行為がXの自由な意思に基づいてされたものと認めるに足りる合理的理由が、客観的に存在するとはいえない。
<その他>
●また、当該有期労働契約期間満了前に使用者が更新年数の上限を一方的に宣言したとしても、そのことのみをもって直ちに労契法19条2号の該当性が否定されることにはならない。

(2) ➀‐2契約8の期間満了時点でのXの雇用継続の期待に合理的理由の有無

【結論】
 Xの雇用継続の期待に合理的理由はなく、労契法19条2号は適用されない。雇止めは有効。
⇒労働契約1~7までは、流通センター事業所におけるC社の商品配送業務をY社が受注する限りにおいて継続する性質の雇用であったところ、Y社が同業務を受注できず事業所を閉鎖して撤退するに至ったため、契約7締結前にXが、Y社の管理職から、業務失注により事業所閉鎖の見込みとなり、次期契約期間満了後の雇用継続がないことについて、複数回の説明を受け、Y社に代わり業務を受注した後継業者へ移籍ができることなどを説明され、契約書にも不更新条項が設けられたことにより、契約7締結時点で、それまでの契約期間通算5年1か月、5回の更新がされたことによって生じるべき更新の合理的期待は打ち消されてしまった。
 そして、契約8締結時も、契約書に不更新条項が設けられ、管理職が、Xに対し、契約期間満了後は更新がないことについて説明文書を交付して改めて説明を行ったことにより、合理的な期待が生じる余地はなかった。

【理由】
➀契約意思確認の手続が取られていた。
 XYの労働契約では毎回必ず契約書が作成され、期日前に管理職からXに契約書を交付し、面前で全部を読み上げ、契約の意思を確認する手続を取っていた。
②契約1~7は流通センターでのC社配送業務をY社が受注する限りで継続する性質の雇用であり、そのことがXに明示されていた。
 契約書上、更新時の業務量が更新の判断基準であること、契約5~7の契約書には契約書記載の勤務地で契約書記載の業務を遂行するためのものであり、これが消滅縮小した場合は契約を終了することが記載されていた。/実際の職場、業務内容は契約書記載のとおりT支店流通センターでのC社商品配送業務の事務作業であった(これがXが担当した業務の95%以上を占めた)。/配送業務は単年度ごと入札で受注していた。
➂契約7 (期間H29.7.1~8.31)締結「前」のY社からのⅩへの説明等
 Y社がAの商品配送業務が受注できずXの業務がなくなるため、契約7の期間は2か月間で、その後更新がないこと、雇止めの際には会社都合とすること、Aの業務を受注した後継業者への移籍も可能であることを説明し、また、後継業者との面接を希望するかを確認していた(実際、Ⅹは面接を受けた)。
④契約7締結「時」のYからのXへの説明等
 管理職が不更新条項入りの契約書を読み上げ、別途交付した説明文書に基づき、次回更新がないこと、契約書記載の勤務場所、業務に限定された契約でこれが消滅縮小した場合は契約終了の可能性があること、仮にH29.9以降に別の事業所で働くとしても、ずっとY社で働くことはできないと説明。
⑤Ⅹが後継業者への移籍を希望せず、Y社の別事業所での勤務を希望したために、Y社から別支店の事業所を勤務場所とする契約8が提案された。
⑥契約8締結「前」のY社からXへの説明等
 Y社の管理職が面談にて、不更新条項入りの契約書を読み上げたほか、別途交付した説明文書に基づき、次回以降の労働契約は締結しないこと、更新年数の上限は期間満了日であり、今回で労働契約は終了すること、契約書に明示された勤務地、勤務場所、業務に限定された雇用で、これが消滅縮小した場合は契約が終了する可能性があることを説明。
⑦補足・契約7で不更新条項がありながら契約8が締結されたことについて
 
Ⅹが加入するH労組より、Y社運用基準の上限であるH30.3末まで雇用して欲しいとの意見を受けてのものであり、契約8締結前の説明等のほか、H労組がY社と協議するもH30.4.1以降の雇用継続を実現できないとXに示したことを考慮すると、契約8の次の更新があり得ると客観的に期待できる状況だったとはいえない。

 なお、Xは本件雇止めが、無期転換権(労契法18条)の潜脱であると主張しましたが、本判決は、Xは(H25.4.1以降で)5年を超えて雇用されておらず、かつ労契法19条2号の適用により5年を超えて雇用されたことになるともいえないから、労契法18条の保護が及ぶことはないとし、排斥しています。

4 検討

(1) 事後的に設けた不更新条項等の効力ないし位置付け

 無期転換権(労契法18条)が設けられたのを受け、実際にそれが発生するのを避けるために、有期雇用契約において更新上限条項や不更新条項が設けられている例はままあります。もっとも、本件のように、契約締結当初にはそれら条項は存在していなかったが、何回か契約更新をした後に設けられたという場合、それら条項によって雇止めを問題なく行えるかというと、必ずしもそうとは限りません。
 そもそもとして、更新上限条項や不更新条項自体は、文字どおり更新の限度を定めたり、期間満了後に更新がないことを定めるものであって、それ自体は解雇や雇止めといった契約終了原因そのものではありませんが、雇止めの有効性を判断する過程におけるそれら条項の効力なり、位置づけについて、裁判例上、様々な見解が示されています。
 不更新条項についてみると、例えば以下のようなものがあります。

【不更新条項の効力、位置づけについての裁判例】 
➊「雇用継続に対する合理的期待の消滅、放棄」とした例(本田技研工業事 
件・東京高判H24.9.20)
➋合理的期待の放棄とは認めず、雇止めに客観的かつ合理的理由があるかどうかを検討する上での一事情に留まるとした例(明石書店事件・東京地決H22.7.30)
➌「今回をもって最終契約とする」との文言につき、雇止めの予告に過ぎないとしつつ、経営状況について説明を受けた上で、同文言入りの契約書に署名押印していることから、更新への期待の程度は低いとした例(東芝ライテック事件・横浜地判H25.4.25)

 上記➊は不更新条項が設けられたことで、労契法19条2号適用の前提となる、雇用継続に対する合理的期待の消滅や放棄したとの効力を認めています。この見解に立てば、同号の適用はなく、したがって、雇止めに客観的かつ合理的理由があるかどうかは、法的には問われません。
 これに対し、上記➋はそのような放棄の効力は認めず、雇用継続に対する合理的期待が認められる場合に、雇止めを有効とする方向に働く一事情に過ぎないとするものです。
 また、上記➌も期待の放棄の効果までは認めてはいませんが、一方で、不更新条項が合意されたことは、雇用継続に対する期待の程度を下げる事情と位置付けています。
 上記➋及び➌ともに、更新に対する期待が合理的理由があれば、雇止めに理由があるかが法的に問われるため、不更新条項等があれば無条件に雇用を終了させられることにはなりません。ただし、上記➌では、不更新条項の存在によって期待の程度は低いと評価される分、雇止めが有効とされるハードルは下がります(同事件では結論として雇止めを有効としています)。
 本判決は、上記➊と同様に、「不更新条項等を承諾すること」=「雇用継続に対する合理的期待の放棄」との解釈をとっています。
 ただし、不更新条項等が盛り込まれた雇用契約書に署名押印がしてあるからといって、直ちに、不更新条項等に承諾があり、期待が放棄されたと認めるべきでないとも述べます。労働者が不更新条項等を拒んで契約を更新せず、直ちに契約終了となるのか、ひとまず更新はするが期間満了時に契約を終了させるのかという二者択一を迫られる立場にあって、署名押印が自由意思によるのか、一般的に疑問だというのがその理由です。
 その上で、本判決は、不更新条項等を承諾し、更新に対する期待を放棄したと認められるかについては、慎重な検討を要するとし、労働者が、不更新条項等を含む契約書に署名押印をすることが、その自由な意思に基づくものと認められる場合(正確には、自由な意思に基づいてされたと認めるに足りる合理的理由が客観的に存在する場合)に限って、更新に対する合理的な期待が放棄されたと認められるとしています。
 本判決は上記の旨を述べるに当たり、山梨県民信用組合事件・最判H28.2.19を参照としています。
 同事件は、退職金規程の変更(退職金支給基準の変更)について、労働者から署名押印の上で同意書の提出があったものの、実際の不利益の内容や程度に関する情報の提供や説明がなされていなかったというものでした。
 最高裁は、労働者の使用者に対する従属性や、意思決定の基礎とする情報収集に限界があることを理由に、「就業規則に定められた賃金や退職金に関する労働条件の変更に対する労働者の同意の有無については、当該変更を受け入れる旨の労働者の行為の有無だけでなく、➀当該変更により労働者にもたらされる不利益の内容及び程度、②労働者により当該行為がされるに至った経緯及びその態様、➂当該行為に先立つ労働者への情報提供又は説明の内容等に照らして、当該行為が労働者の自由な意思に基づいてされたものと認めるに足り合理的な理由が客観的に存在するか否かという観点からも、判断されるべきものと解するのが相当である」と述べています(➀~➂は筆者が付記)。
 つまり、たとえ同意書への署名押印等、賃金や退職金に関する労働条件の変更を受け入れる旨の労働者の行為があったとしても、それだけで直ちに同意があったとみるのではなく、同意の有無は慎重に判断すべきとし、その判断に当たっての考慮要素として上記➀~③の客観的事情を例示しています。この考慮要素に照らして、労働者が変更に同意するという意思を自由に形成したと認めるに足りる事情があれば、労働者の同意が有ると認めることができる、ということです。
 本判決は、この最判の射程が、賃金や退職金に関する労働条件の不利益変更の場面だけでなく、雇用継続への期待の放棄をもたらすことになる不更新条項等を新規に導入する場面も労働条件及ぶと解した上で、上記ウのとおりに述べたといえます。
 そして、本件では、Y社から、更新上限条項導入時にその法的効果について説明がないことや、不更新条項に対しⅩが異議を留めていたこと等を理由に、自由意思に基づいて承諾したとは認められないとしています。
 そうすると、そもそもとして不更新条項等についてはⅩの承諾自体がなく何らの効力もないのかと疑問も生じますが、本判決は、同条項の存在は雇用継続に対する期待の合理性を判断するための一事情と位置付けています。おそらくは上記➌の裁判例(東芝ライテック事件)と類似の考え方に立ったものといえるでしょう(実際の判断でも、他の事情ともあいまって、不更新条項等の存在は更新への期待を打ち消したとされています)。
 さて、上記のとおり、中途で、契約更新の際に不更新条項等を設けた場合にその効力なり、雇止めの適法性を考える上での位置付けについては様々な見解があり、実務上、必ずしも統一されているとはいえません。見解によっては中途に不更新条項等が設けられたとしても、それで問題なく雇止めができるということにはなりません。
 もっとも、中途で、不更新条項等を設けることで、更新への期待の放棄とは認められなくとも、期待の程度を弱めたり、他の事情とあいまって打ち消されるという判断もなされ得ることから、使用者側に延々と更新を続けるわけにはいかない事情がある場合には、同条項等を更新の際に設けることはやはり有益だとはいえます。

(2) 中途での不更新条項等導入における実務上の留意点

 雇入れの時点ではなかった不更新条項等を契約更新時に導入することにより雇用継続への期待の放棄が認められるかどうか、またそのためには本判決が述べたような山梨県民信用組合事件最判の述べた、労働者の同意の有無認定に当たっての枠組みが今後の裁判実務でとられるかどうかは、不透明であり、今後の事案の集積次第ではあります。
 ただし、本判決も指摘するように、労働者は二者択一の立場に置かれるし、不更新条項等を入れることで更新に限度が設けられるなど、従前よりは不利な状況になります。
 このため、中途で不更新条項等を入れる場合は、山梨県民信用組合事件最判の枠組みをとるかどうかは措くとしても、➀不更新条項等を設ける理由(業務が期間限定、業務失注、企業内再編による業務の消滅、会社の経営状況等、契約更新を繰り返すことを困難とさせる事情)、②不更新条項等を設けた場合どうなるか(更新回数に限度が設けられる、または更新は今回が最後、次期契約更新はしない)、➂不更新条項等に応じない場合の扱い(更新なし、契約終了)といった点を労働者に説明することが重要だと考えます。労働者が、不更新条項等に応じるか否かを判断するための情報、材料をしっかりと提供するということです。
 これらの点について丁寧な説明をし、承諾をとっておけば、いざ雇止めの場面になった際に、不更新条項等があることで、契約更新への期待の放棄か、そこまでは認められないまでも、期待の程度を弱めたり、期待を打ち消す方向に働き得ると考えられます。
 なお、上記➊の裁判例(本田技研工業事件)の事案でも、不況の影響下での減産に対応した経営努力だけでは余剰労働力を吸収しきれず、そのため期間契約社員を全員雇止めにせざるを得ないこと等について説明がなされており、労働者がもはや雇止めは回避し難くやむを得ないものとして受け入れていたこと、そして、労働者が、雇止めを予定した不更新条項が設けられた契約書に署名したが、その際に、従前の雇止めでは契約期間満了による退職と一定期間経過後の再入社が想定されていたが、不更新条項が予定する雇止めでは、再入社が期待できない、これまでは全く趣旨を異にすることを十分に理解して、任意に上記署名をしたことが認定されています。このことを前提に、同裁判例では、労働者が次回は更新されないことを真に理解して契約を締結したといえ、雇用継続に対する合理的期待を放棄したものと認められるとしています。やはり、不更新条項を設けざるを得ない事情ないし、今回の契約を最後とする理由を、労働者に説明し、理解を求めることが重要といえます。

(3) 不更新条項等の運用における実務上の留意点

 さて、不更新条項等を導入できたとして、それで一安心というわけでも ありません。
 まず、不更条項等を設けながら、それに反して更新上限回数を超えて更新するとか、あるいは更新なしとしながら更新をするということが横行すると、不更新条項等は有名無実化し、合理的期待の放棄等の効力は認められなくなりますから、そのようなことがないように、不更新条項等で定めるとおりに更新実務を実施することが鉄則です。
 仮に、これら条項等に反して更新するならば、特段の事情がある場合に限るべきで、係る更新をもって更新の期待を持たせない、期待が客観的に合理的だと言われないように留意すべきです。
 本件でいえば、契約7で不更新条項を入れたのに、更新して契約8を結んでいますが、ⅩがあくまでY社での勤務を希望したことや、Xが加入する労組からY社の運用基準の上限まではXを雇用して欲しいとの要望を受けたためという理由がありました。また、労組もY社との交渉の末、契約8で定められた期間以降の雇用は確保できないとXに示し、かつ、Y社も契約8更新の際に、この契約をもって終了することを説明、契約書に明記しており、したがって、契約8の更新があり得るとXが客観的に期待できる状況でなかったとされています。
 また、導入後も、実際に契約更新を困難ならしめる事情の変化(会社の経営状況の悪化、業務の失注、企業内再編による業務の縮小、消滅等が具体化、現実化した等)があれば、それは労働者に説明し、更新への期待をもたらしめる客観的根拠がない、または更新への期待を低下させる客観的事情を認識、理解させることも肝要です。
 本件でも契約7締結の際に、業務失注によってX担当業務がなくなるため、期間が2か月間だけになる等の事情を説明しており、こうしたことと不更新条項等の存在をもって、雇用継続への期待が、契約7終了時点では打ち消されたと判断されています。
 有期契約の更新に対する期待は、まずは客観的事情から、当該期待を持つことももっともである、合理的だ、といえるかどうかが判断されるので、雇用継続の有無にかかわる客観的状況を、労使で共有しておくことが重要なのです。
 その余について、そもそもとして、業務自体が期間限定であったり、一時的な需要に応じたものであったり、あるいは本件のように他社から業務を受注できることを前提にしているという場合は、その旨を契約書に定めるほか、業務量も更新基準になることを明記し、実際にその点を考慮し、毎回の更新の有無を決めるという運用をしていくことも、また重要です。



 

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