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どうしたって、忘れられない言葉があって

3年ぶりに、大学時代の友達と連絡を取った。

移動することに罪悪感を覚える必要もなくなって、
どうしているかしらと、ふと思った。
彼女、由ちゃんは何度目かの旦那さんの転勤先で、いつのまにか小学生になった2人の男の子のお母さんをやっていた。
電話で声を聞いた瞬間懐かしさが込み上げて、
ちょっと涙声になったことに、由ちゃんは気づいていたかしら。

由ちゃんは、ゼミも学生生活の送り方も違ったけれど、
ご実家に泊まりに行かせてもらうくらい、一緒にいるのが楽しくて楽だった友達だった。

元気そうでよかった〜!
と笑ってくれる声が、嬉しくて嬉しくて。
元気だよ!
と、答えられることが、嬉しくて嬉しくて。


23になる冬。
当時付き合っていた男の人は二回り以上年上で、
住んでいた場所から新幹線で3時間くらいのところに、別の女の人がいた。
彼は、その女性は自分にとって子供のようなもので女ではないのだと言い切ったけれど、
私には意味がわからなかったし、
毎週末、女性のところに泊まりに行く意図がわからなかった。

お付き合いを始めた時には知らなかったその女性の存在が、
どんどん強くなって、
いろんな限界を突破したんだと思う。
よく覚えていないけれど。

大学の友達は皆、
それぞれの職に就いて、それぞれの場所で生活していて、
あの数年間ほど、ひとりぼっちだった時期はない気がする。

そんな中で、ほとんど唯一繋がっていたのは、
アパレルに就職して働いていた由ちゃん。
彼女も、初めての就職が辛くて、
よく遊びにきてくれていた気がするし、
よく電話もした気がする。

仕事がしんどい彼女に
半乱狂で電話をかけた夜、
うんうんと私の泣き声を聞きながら、
由ちゃんは何のアドバイスもせず、
ただ聞いてくれた。
私の頭も体も、彼以外のことが入る隙間はゼロで、
私は完全に由ちゃんの時間泥棒だとわかっていながら、
それでも、内側で爆発しそうなものを出さずにはいられなかった。

その日の分を泣き言い終えた私に、由ちゃんはふと聞いた。

「ねえ藤ちゃん。いま、いちばんなにがほしい?」

私は、頭の中ですぐに答えた。
彼に帰ってきてほしい。
いますぐに、彼女のところから新幹線で。

まさか言えなかった。

ほしいもの、なんだろう、と電話越しに言った私に、私はね、と明るい声で由ちゃんは言った。

私は、いますぐ藤ちゃんのところに行って、
買い物したり、ご飯食べたり、カラオケ行ったりする時間がほしいよー

言葉が出なかった。
体から力が抜けた。

あぁ、あたしは。
こんなふうに言ってくれる友達がいて、
その友達は、仕事がしんどくて、それはとても大変なことで、
なのに私の、毒にしかならないような、どうにもくだらない話を延々聞いてくれて、
その上、気遣ってまでくれる。
会いたいと、言ってくれる。

たぶん、由ちゃんは本当にそう思ってくれていて、
それを伝えてくれただけなんだと思う。
その時の、どこまでもどこまでも、どこまでも身勝手な私には、
その思いが、言葉が、たまらなく沁みた。

それから、いろんなあたたかさが重なって、
その時の彼とは離れることができたけれど、
きっかけは間違いなく、
由ちゃんのその一言だったと思う。
誰かに大事に思ってもらっている、と実感する、
その最初の一歩だった。

10年以上経った今でも、あの時のことを思い出すと涙が出てくる。
どうしようもなくおちてしまったとき、
そんなふうに思ってくれる人がいることを
思い出している。
ありがとう、と、脈絡もなく言いたくなる。

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