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昔話のはじまりは

信州は松本に、
かつて松本高等学校という旧制高校があった。
当時の校風は、斉藤クンという
優秀な卒業生が書き残してくれた手記に詳しいのだけれど、

ちょうどマンボウ氏がこの本の執筆にとりかかっている頃、
失意の大学生が元・松本高校の校舎にいた。
父である。

模試の判定に気を良くして
予備校を半年で辞めた浪人生は、
志望校をスルリとすり抜けて、
入学式はとっくに終わり、すでに授業すら始まっている春の日に
補欠合格の通知を受けて松本にやってきた。
生来無口な人の無口に拍車がかかり、
信州の遅い桜が咲いていたかどうかも覚えていないという
この不本意な入学は、
結果的に父にかけがえのない青春をもたらすことになる。

ひとつ、
たまたま氏名順で後ろの席だった同級生が、
半世紀たっても変わらない、一番の親友になったこと。
ひとつ、
心から尊敬できる先生と出会ったこと。

父の親友を仮に木村さんとするが、
木村さんはとても賑やかな人だ。
大きな声で、大きく笑い、
良く酒を飲み、誰とでも仲良くなる。
山梨の出で、武田信玄ってもしかしてこんな感じだったのかしら?
と、笑ってしまうくらい、
磊落という言葉が良く似合う。

特にしゃべる必要がなければ、
2、3年くらいは平気で黙っていられる気がする…
お酒はなぁ、飲めたら人生変わるよなぁ…
と言っている父と、
何をどうやったら仲良くなるのか
そこのところがムスメにはよくわからないけれど、
ともかくすぐに木村さんと意気投合した父は、
木村さんに引っ張られて空手部に入部した。


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