僕が僕であるために、

僕が僕であるために、自分を偽ることを辞めた。
僕が僕であるために、思いを潰すことを辞めた。

そして僕らのオーナーは、そして僕は彼ら彼女らと、手を取り生きることにしたのです。

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それはそれは美しい星の夜でした。桜の蕾が少しずつふくらみ始め、今か今かと目覚めの時を待っている。
毎日真っ赤なハイヒールで、彼女は浜辺を歩いていました。いつも小さな声で、子守唄を口ずさみながら。やがてやって来る、決断の時を、静かに待っているのでした。
僕らはそれを、いつも見下ろしていました。かわりばんこに、いつもいつも。にこにこしながら、時々ふらりと彼女が波打ち際へ寄っていくのを知っていたから。遊ぶように、突然駆け出して、まるで今この瞬間に光が弾けて消えるかのように。
彼女は彼でもありました。彼は、赤いバッシュを履き、一歩一歩確かめるように、ゆっくりと浜辺を歩くのでした。時にその場に座り込み、真っ暗な水平線を眺めるのです。まるでその場所だけ時が止まったかのように、長い間、ずっとそこにいるのです。僕らに気付く事など無く、ずっと、ずっとその場所にいるのでした。

産まれる前の子どものようだね、と、ある日誰かが言いました。たしかにそうかもしれない。何となく気になる。多分この人はいつもしにたいんだろうな、と、誰かが言いました。きっとそうなんだろう。僕らがいなくなったら、きっとふらっと消えてしまうに違いない。
時々、時々、人間になりたいと願うのです。きっとこの人は何もならないけど、もし人間になったならもっと隣にいられるんじゃないかと考えるのです。でも彼はいつも笑いかけるのです。「ただいま。」と。

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