くもの糸

#映画にまつわる思い出 ということで。

初めての転職先が、元々勤めていた場所以上にブラック企業で、毎日泣きながら帰宅していた頃。三か月ほどで心身ともに異常をきたしたので逃げるように辞めたけれど。三か月目は仕事に行くと言って映画館で過ごすこともあった。仕事帰りにあまりにぼろぼろな顔をごまかしたくて映画を観て帰ることもあった。

読書や物語など空想の世界に浸ることが子どもの頃からすきだった。苦しい時ほどたくさんの本を読んだ。たくさんの人のさまざまな考えに触れて、正解はいくらだってあるのだと自分に言い聞かせたものだ。
大人になって仕事をするようになると、対人関係に子どもの頃以上につかれるよになって、読書もしんどくなってしまった。映画は、特に夜のレイトショーは、ひとりやふたりだけの空間でゆっくりと物語の世界に浸れることが気楽で好きだった。徐々に上映回数が減ってきた映画の、小シアターのレイトショーは、時に大きなスクリーンを独り占めできる。
誰かという存在すら直接感じたくないほどに、苦しんでいた当時は間接的に、片想いのようにスクリーン越しに他者に触れることができた時間はありがたかった。

仕事を辞めたあとは、家から出られなくなることも少し増えて、朝の新聞配達を横目に散歩をして、昼寝をして、午後からサブスクで一日中映画を観ていたりもした。昔観た映画、誰かにお勧めされた映画、劇場で観損ねた映画、田舎じゃやっていなかった映画、たくさん観た。ただ画面を眺めていることなら出来る、机に座っていることなら出来るとたくさん観た。

2時間ほどの短い時間で、たくさんの人生や考えにふれることができてよかった。この何もできないと思っている時間も、色んな考えや行動を知って、触れて、私だったら?こんなことになったら?と考えることは、ちゃんとまた普通の日々につながると思っていた。思って観続けた。

今思えば人生で一番映画を観た時期で、あの日々のおかげで私だけの特別な映画もたくさん見つけられた。
だからあの日々は、ちゃんと今の普通の日々につながっていると思う。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?