漫画「ブラックチャンネル」を読んでほしい
子どもの頃、コロコロコミック読んでましたか?
ランドセルでサッカーをし廊下はスライディング移動、学校から帰ればポテチ食って友達とゲーム、そんな小学生男児のバイブル、コロコロコミック。ドラえもんにはじまり直球ギャグ漫画やホビアニ系の王道バトルもの、マリオ・カービィ・ポケモンなど有名ゲーム作品のコミカライズ、近年オタクたちへ新しい扉を開いた『ぷにるはかわいいスライム』なんかもコロコロの名を冠しておりますね。ちなみに自分は友達の家でたまに読む程度でした。
コロコロに限らず、定期刊行漫画雑誌というのは読者アンケートの結果がものを言う世界。
人気の低い作品はすさまじい早さで打ち切られることもザラではありません。主に子どもがターゲット層であるコロコロでウケるためには、物語の起伏・起承転結のわかりやすさはもちろん、面白さにも特化していなければ生き残れないというわけです。
合法的にうんこちんちんが許されているそんな舞台でひときわ異彩を放つ漫画、はい、それがブラックチャンネルでございます。
ブラックチャンネルってどんな話?
作中のヨーチューバーはそのままYoutuberのことを指します。
「悪魔系ヨーチューバー」と書かれていますがブラックは本物の悪魔。そんな悪魔が人間界に降りてきて撮影するターゲットは、もちろん人間。
人外のもつ不思議な力やツールによって人間がめちゃくちゃになる1話完結のストーリー(すごい要約)という点では、笑ゥせぇるすまんとかドラえもんを浮かべていただければイメージしやすいです。ジャンルはブラックコメディだけど鬱で暗い話ではないので安心してください。
おおまかな流れとしては、
「現状への不満や自己顕示欲・承認欲求が強く、“調子に乗らせたら面白そう”なターゲットを見つける」→「近づいて動画企画を持ちかけ、撮影契約」→「不思議な力を得た契約者は自分の願望や欲望を叶えていく」→「調子に乗りきったところで魔界へ落として制裁」→「更生」(※後述)という感じ。
ワンパターンにも見えますが、この一見ワンパターンな流れのバリエーションがめーーーーちゃくちゃ豊かに描かれていてすごい。
ターゲットを制裁するときのブラックの決めゼリフ、「ディスイズ 炎ターテイメント!」も含めて、サクッと読めるのにズシッとくる、そしてなんと言っても身体の内側からワクワクする不思議な面白さ。
契約すると得られる不思議な力は、助手・カメラちゃんがターゲットを撮影している間のみ使えます。「デビルツール」というドラえもんで言うところのひみつ道具のようなアイテムがよく出てきます。
力を得るためには、ブラックとの撮影契約が必要なのですが
ブラックの契約書は、長い!!!
ターゲットたちは、契約書の分厚さ・長さに「こんなん読んでられるか!」とあっさりサインしてしまうのが常です。本当の撮影目的がしっかり書かれているにもかかわらず……
心の隙間に上手くつけ込んでそそのかしてはいるもののあくまで強制はせず、意思決定をしっかり契約者本人に委ねているところがいじわる人間の上位存在という感じがして良いですね。『どんなにおいしい話でも契約書をしっかり読まずにサインするとエラい目に遭うことがある』という現実を子どものうちから教えてくれるあたりは、むしろ教育になると言ってもいいでしょう。
とりあえず第1話です。
読めます。
1話を平たく説明すると『いじめられっ子がブラックとの契約によって強大な力を手にし、いじめっ子に仕返しをする。しかし力を手にしたいじめられっ子はどんどん調子に乗ってしまい、……』というあらすじ。
この第1話はニューカマーや未来の人気コロコロ漫画を発掘するための読み切り漫画が載る場『ミラコロ』で掲載されたもの。ブラックチャンネルはこの読み切り版でいきなりストーリー部門のアンケート1位を獲得し、Youtubeアニメ版(詳細割愛)の制作が決まるという快挙を果たします。
その後本場の月刊コロコロコミックに読み切りとして第2話・第3話が掲載され、2020年11月から連載開始したとのこと。(wikiより)
読み切り時点ではまだ「小学生向け」「コロコロコミック向け」のテイストが強い。ブラックのキャラデザもどこか丸っこくてかわいらしいです。
第2話では、これ以降行動をともにする小学5年生の「さとしくん」と出会います。
↑なんと2話も読めちゃうぞ
そして今回ターゲットとなる学校イチの美少女・市井ちゃん
市井ちゃんはさとしのことを「さとくん」と呼ぶんだけど、それを聞いて以降ブラックもまた彼のことを「さとくん」と呼ぶように。
悪魔が人間の文化に馴染もうとしている感じがとてもけなげで個人的好きポイント。
(この市井ちゃん、なかなかのツワモノです。読んで読んで!)
そして私がしょっちゅう騒いでいる作画の話について
この靴底!!!
読み進めていた私はこのコマで「ん゛?!」と目をかっ開く。コロコロコミックというフィルターでぼやけていたけど……この人めちゃくちゃ絵が上手いのでは!?
(プロの作家なので当たり前なんですが)
↑この3話も読めます、というか1話~5話まで読めます
第4話は、それまで子どもばかりだったターゲットがはじめて「大人」になる回。
売れない漫画家・イマイチはひょんなことからブラックと出会い、契約して得た力で夢だった本誌連載をもぎ取るが…?
ブラックチャンネルはこの後も「クリエイター業の苦悩」を描く話があるのですが、ゼロから創作したり漫画を描いたりしたことがある人なら心臓をギュッと握られる心地になるのではないでしょうか。
更生
おおまかな流れで説明した「ターゲットを見つける」→(中略)→「魔界へ落として制裁」→「更生する」、この「更生」の部分について。
ターゲットは人間の子ども(小学生)がほとんどなのですが、誰から見ても真面目で完璧“すぎる”優等生だったり、ゲームの強さで驕りを身につけてしまった子だったり、賢いばかりに周囲を俯瞰して冷笑してしまう子だったり、「このまま大人になったら、結構危ういんじゃないかな?」という考え方や言動を持っている子たちが多いです。
彼らの等身大の心理描写はコミカルなのに生々しく、大人が読んでいても思わず固唾を飲んでしまうような緊張感があります。
ブラックチャンネルのいいところ、というかブラックの好きなところでもあるんですけど、物語の最後、魔界でブラックに制裁されたターゲットはみな、以前よりほんの少しだけ変わって話が終わるんですよね。
ガラっと変わって大成功!というより、腑に落ちていない苦しい背伸びでもなく、自分の心と向き合って、素直になる。たとえば完璧だった子は、ちょっとダメなところも見せるようになる。
この瞬間への焦点の当て方がくどくなくサラっとしていて、ブラックコメディでありながら読後感が非常に晴れやかなんです。疲れない。
というのも、ターゲットは調子に乗るフェーズで取り返しがつかないレベルの醜態を周囲にさらしまくるわけですが、ブラックの制裁が終わって更生するときには、まるで撮影自体がなかったことになっているんです。
気がつけばいつも通りの日常。
でもこれは撮影自体がなかったことになっている…のではなく、周りの人間の記憶をうまいことブラックが編集してくれているんですよね。(さとくんの記憶は残っています)
この救済ともとれる措置。情けや慈悲ではなく、人間という“愚かだけど成長できる生き物”への期待というか、完璧ではない綻びから生まれる予想外の何かを待ち望んでいるような………悪魔・ブラックの人類への果てない愛情というか、なんとなくそんな意図を感じます。
人間をおもちゃに遊んでるといえばそれはそうなのですが、裏側を暴いて終わるのではなく、その先の第一歩まで見届けるブラック。そういうところがたまらなく好きなのです。制裁じゃなくて禊かも。
2巻以降
最初に言えよって話なんですが、1巻読んだ人、頼むから2巻も一緒に読んでほしい!!!!!!
2巻をオススメする理由は2つ。
1.ここからバトル・アクションシーンの描画にギアが入り、きさいち先生の絵のうまさ・漫画のうまさ・画面の構成のヤバさが際立ってくる
2.都市伝説・SCP(※1)などオカルト系ネタの色がかなり強い
妙齢のオタクなら誰しも耳にしたことがある「きさらぎ駅」にはじまり、コロコロ読者の中でもこう…ちょっと斜に構えたこじらせ小学生層(言い方)へのアプローチ、なんならその親世代を逃さないテーマ設定!
SCPは、一度顔を見たものを地の果てまでも追ってくる「シャイガイ」、いたずら好きの道路標識「シンボル」が登場。
シャイガイ回はこれまでどんな場面においても余裕を見せていたブラックがはじめてさとくんの前でピンチに陥る回。自分を置いて逃げるよう指示したブラックに対し、さとしがとった行動は…?
シンボル回はブラックの助手・カメラちゃんがかわいいのと同時に、ブラックが撮影に懸ける知略のすさまじさ、そしてカメラちゃんもまた悪魔であることを存分に味わえる回。
私はこのシンボル回が特段に好きなので何度も読み返してしまう。全 コ マ あ ま す と こ ろ な く 良 い 。全巻通してそうなんだけど、カメラちゃんの動きだけを追って読んでいくのも楽しい。ブラックチャンネル、意味のないコマがひとつもない…………
そして続く3巻
絵、うますぎるやろ
3巻では、怪作・傑作・読み応え抜群の長編『エンドレスサマー』が収録。
終わらない夏休み。はたしてそれは幸せなのか?
どう考えてもターゲット層を子どもに絞るにはもったいないほどの完成度。もっと広く届くべき。個人的にはデジタル作画なのを存分に活かしていることにも注目。
漫画がうまい。いや、漫画も、、、うまい!!!!!
初見で読んでほしすぎるので説明できない………
2巻と比べてさらにあらゆる機械や武器がわんさか登場するんですが、特にブラックがガトリングをぶっ放すシーンはかなり興奮しました。ちょうどエンドレスサマー編PVのサムネになっとりますわ。
ヒューッ!!!!
あとこのコマ。
周りの子は身軽なのに1学期最終日メチャクチャ荷物が多いさとくんの描写好き。ダイナミックな構図が多い中でのこういう細かい描き込みも本当にたまらない。何度読み返しても楽しい。
ぶっちゃけ言ってしまえば子ども向けならもうすこし作画コストを削っても問題なさそうな感じがするのに、そこで手を抜かないことによる説得力がブラックチャンネルの魅力のひとつだと思う。
扉絵もだけど、「そこまで描くんすか?!!?」みたいなページがメチャクチャあってヤバイ。鬼ヤバ。画集出してください。今までのカラーイラスト全部見せてほしい。
漫画は視線の誘導がけっこう重要で、視線をどう動かしていいかわからない漫画はストレスになるんですよ。画面の密度が高くなればなるほど見た目が重くうっとうしくなってしまって目が滑り読みにくくなる。しかし一切そうならずにスラスラ読めてしまう画面の引き算というかバランス感覚が本当におぞましい。きさいち先生、何者………?(※プロの漫画家です)
黒い面積の多いブラックは登場するだけで画面がグッと締まる。
ゆえに同じポーズや立ち絵だと単調な画面になりそうだけど、どんなシーンでもブラックは生き生きとした動きで描かれていて本当に楽しい。
うーん、良い!!!!!
4巻ももちろん面白い
動画クリエイターとして“やらせ”には断固拒否の姿勢をみせるブラック。ただ再生数が欲しい・注目を集めたいだけじゃない、質にこだわっていることがわかるの好き。
(もちろんこのコマの構図も好き 絵や漫画を描いたことある人ならわかるはず、絵の中でカメラの位置を自由に動かせるのがどれだけすごいことか……)
突如現れた不思議な少年・白戸。
あっという間にさとしと親睦を深めた白戸はなぜかブラックを敵視し、さとしからブラックを引きはがそうとする。
そして挑むは動画対決、負けたら魔界に帰ることを宣言したブラック。はたして勝負の行方は……!?
この白戸くんの話、Youtubeをよく見る層・あまり見ない層、双方に「なるほどなあ」と思わせてくれる話です。ただ面白い動画やすごい動画であればいいわけじゃない。奥が深い。
ネタバレになっちゃいますが、ここまでの登場人物、おもに色に関する名前がついているキャラは人間ではありません。つまり白戸くんも………なのですが、人間界に降りてきたばかりの白戸くんと、人間心理をしっかり理解しているブラックの対比がすごく面白い話です。
SCPは無限の現実改変能力を持つ「小さな魔女」、また創作の怪異として有名な「サイレンヘッド」や都市伝説「ブラックサンタ」などが登場。特にこのサイレンヘッド回がお気に入りです。これはこの先も幾度となく思うことなんだけど賢くて強いブラックがどこまでもカッコいい。4巻は基本笑顔(?)を絶やさないブラックのいろんな表情を見ることが出来ます。
5巻ではブラックの過去が描かれた長編、「EPISODE 0」(通称エピゼロ)が収録・完結。
ブラックが初めてバズった「神殺しの動画」とは? いかにして悪魔系ヨーチューバーに目覚めたのか?おなじみの助手であるカメラちゃんとの出会いも描かれています。
『停滞していた心を動かされる瞬間』というのは、人生の中でそうそう経験できるものではありません。だからこそ強く輝き、力となる。
ひっそり収録されている野球少年・小谷くんの回も好き。はっきりした序列がものを言う世界は、上を追いかけているときより下から追いかけられるときのほうが苦しいよね。野球だけでなくスポーツをやっている子どもたちは直面しそうな悩みだし、ゲームやオカルトだけでなくこういう方面の話もあるのはいいですね。
6巻では異世界転生オールスターバトルの長編「BREAKING THE WALL」(通称BTW編)が収録。
どこかで見たようなあんなキャラやこんなキャラ!
(キャラデザ変わらないのでアニメ版の投稿も貼り付けてみる)
ある意味コロコロコミック連載なのをめちゃくちゃ活かしている回。BTW編(6-7巻)に関して私が言えることはできるなら紙媒体で読んでほしいな……ぐらいだけど無理は言いません。
とにかくバトルがメインなのでアクションシーンだらけ、見応えバツグン。あと2巻で出てきた赤鬼・アカネが再登場、“物理的に強い女の子”が好きな層にはたまらない活躍を見せます。
そしてまたもブラックの圧倒的な強さが純粋にカッコイイ。主人公が最初から強いタイプの漫画の中でもブラックは本当に強い。強いキャラというのはギャップによる親しみやすさをもたせるために何かしらかわいい弱点があるものだけど、ブラックは本当に、隙がない。強い。
弱点として映るものがあるとすれば、それは彼が人間ではないことによる価値観の差異から生まれる何かでしかないのではないかと思う。今までと違う切り口の終わり方もこのストーリーならではだ、すごいよ…。
7巻で個人的にグッときたのはミライちゃんの回。
『失敗するのが怖くて何にも挑戦できない』………
いや重いなこれ。いまの子どもたちにどう映るんだろうなあと思った。この思いって、子ども大人関係なくSNS社会が発達して格段に人と自分を比べてしまいやすくなった今の時代に深く深く根ざすものなので。
冷笑系というか少しスれた小学生の心、そしてかつて幼少期にそんな心を持ったまま育った大人の心までもほどいてくれるような話だと思う。あの頃の自分に読ませてやりたいな、ブラックチャンネル……。
ゲームと現実混ぜてみた回は楽しさに振り切ってて全然泣くような話じゃないのにこの話はちょっと、いやかなりウルっときてしまった。第1話では不気味がられていたブラックがクラスのみんなと協力して目的を成し遂げているというだけで胸がいっぱいになる(そしてやっぱりブラックは強い)
7巻の最後には、突如街に現れた戦闘機とUFOの謎に迫る本格SF長編『SPECIAL STORY B.T.』(BTW編とはちがう)の第1話が収録されています。
載せれないけど、いやあの、い、一話の中で見開きをこんなに使っていいんですか?!!!
どえらい絵がめちゃくちゃに出てくる。特にブラックがさとくんを連れて鬼ヤバなパルクールをかますシーンは大興奮です。いや、漫画っていうか映画じゃん。カメラワーク無限大すぎる。ページめくるたびに恍惚のため息。作画のオーバーキル何回起きるんだ……?
コロコロコミック、たとえば欲しいふろくがあるときだけ買うという層や何かの影響でもう一度買うことにした出戻り層なんかもいることを考慮してか、長編だと話の切れ目にあらすじ説明を持ってきてくれて読みやすいですね。(かく言う自分も最初はスプラトゥーンのふろく目的に本誌を買った)
B.T編は8巻で完結しますが、敵対する『謎の宇宙人&謎の少年』は、ブラック&さとしのコンビとどこか対比になるような、ある意味座標が違う世界の彼らのような描かれ方をしており、これまでになかった雰囲気のやりとりが面白いです。
正義の反対は悪ではなくまた別の正義であること、自分にとって大切な守りたいもののために戦うこと……子と親の確執という余所者からすりゃガチガチの不可侵領域をものともせず痛快にいなしていくブラックは必見。
そして全体を通して『ゲーム』にまつわる要素が非常に盛り込まれていて、ゲームとともに青春を過ごした人間にはたまらないですね。“この構図……アレじゃん!”とかね。SFモノは話が難解になりがちだけど、随所にそういうスパイスというか羽の休めどころがあって緩急が最高。7巻に引き続く作画のオーバーキル、ブラックが生き生きしすぎてて頬が緩む。いや、どんだけカッコイイんだよ!!!
オタクをやってきた大人は目が肥えているので、子ども向けとして描かれている漫画であれば先の読める展開というものがあってもおかしくはないですよね。だけどブラックチャンネルは、いやブラックは、目の肥えた読者ですら何度も裏切ってくる。もう本当に面白い。素晴らしい漫画に出会えて嬉しいです私は。
今は「ブラック・マルチバース」という、異世界のブラックたちが大集合!な話が連載中です。めちゃくちゃおもしれーです。9巻は12月に発売されます。
というわけで現時点の8巻までの感想みたいななんともいえない文章を書きなべてみました。(引用箇所は現状webで試し読みできる範囲を中心にお借りしました)
今度はアニメ版の個人的に好きな回でもまとめようかな。
Youtubeアニメ版の第1話もついでに貼っておきます
ブラックチャンネル、面白いよ…………!!!
なにかきっかけがあれば読んでみてね。おすすめです。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?