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『レゲエ・ボーイズ』

たまたま実家に帰る用事があったタイミングで「ヨコハマ・フットボール映画祭2020」が開催中だったので数年振りに行ってきた。大手では配給されないような世界中のサッカー関連映画を上映してくれる、本当にありがたいイベントです。ぜひ末長く続いてほしい。

本作はブラジルW杯の予選を戦うジャマイカ代表、通称「レゲエ・ボーイズ」に密着したドキュメンタリー映画。僕が縁もゆかりもないジュビロ磐田を応援するようになったきっかけは98年フランスW杯のジャマイカ戦でゴールを決めた中山雅史を見たからで、その試合はジャマイカサッカー界にとって最高の試合であり、現時点ではワールドカップでの最後の試合でもある。つーか、もう22年前か…そりゃアラサーにもなるわけですな。

殺人犯罪率の高さに悩むジャマイカ。しかしワールドカップ初出場を決めた日だけは街から銃声が消えたという。
その再現を託されたドイツ人監督シェーファーは地元の文化を知るために訪ねたレゲエ界のレジェンド:バニー・ウェイラーからジャマイカ代表浮上のためのアドバイスを授かる。

首都キングストンで活動する陽気なレゲエバンドのメンバー、成績不振で辞任した前監督に代わって就任したドイツ人のシェーファー監督、国内リーグから招集された唯一の代表選手ジャーメイン”タフィー”アンダーソンという異なる三つの立場から、ジャマイカのサッカー、音楽、国民性などにフォーカスしていきます。とは言っても全てにおいて表面的にさらっていく程度なので、歴史を遡って深掘りするような構成は特になし。それでも気がつくとジャマイカ人の陽気なノリに引き込まれ、なんとなくレゲエボーイズを応援してしまっている自分がいる。

音楽的な見どころで言えば、ボブ・マーリーのバンドThe Wailersのメンバーでありジャマイカン・レゲエ界のレジェンドであるバニー・ウェイラーも出演しています。あらすじを読む限りではバニーがビルドアップの問題点を的確に指摘しチームの得点力不足解消に一役買ったような印象を受けますが、実際にはシェーファー監督に「上物のハーブだ、神の植物だよ」といってマリファナを勧めたり、ラスタの精神を表す歌を歌ってあげたりします。「こんなのドイツに持ち帰ったら即刑務所行きだよ…」と苦笑いしていた監督が印象的でした。ボブ・マーリーに関するエピソードも劇中で数多く語られており、ジャマイカ国民にとって彼がいかに特別な存在なのか実感。ご存知の通り彼はサッカーを愛した男であり、「音楽にハマらなかったらきっとサッカーを極めていただろう」とまで言われてました。

メインの主人公と言えるのは国内リーグで活躍するストライカーのタフィー。ファンからの人気は絶大で「タフィーがこんなに活躍しているのになぜ海外組の選手ばかり代表に呼ばれるんだ!」「タフィーを代表に呼べ!」とデモ行進まで行われます。ちなみにジャマイカ国内リーグは一部でも12チームのみで、タフィーは普段は工場で働きながらプレーしています。言ってしまえばアマチュア選手なわけです。勝利の可能性を追求するならMLSやヨーロッパで揉まれている海外組を主力に据えるのが定石だろうと思いますが、それ以上にタフィーに強いシンパシーを感じる地元ファンは彼の選出を求める。
「海外組は負けても逃げ帰る場所があるけれど、タフィーは国を背負って戦う覚悟が違う」というのはレゲエバンドの兄ちゃんの言葉。代表チームの勝利よりメンタリティ的な意味での「俺たちの代表」を望む彼にジャマイカの国民性を垣間見たような気がしました。

その後、ファンの後押しもありタフィーは代表に選出され、終了間際に同点ゴールを決めて英雄に。「自分が活躍することでジャマイカの若者に希望を与えたい」という彼の言葉はジャマイカの社会問題に関連するものですが、その全貌を知るにはこの映画だけでは浅すぎるのが勿体ないところか。

正直言って映画としてとても出来が良いとは言えませんが、ジャマイカ人のサッカー熱を強く感じることができる面白い作品でした。

初めての開港記念館がまさか映画鑑賞になるとは。

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