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倒産寸前の加工屋を黒字会社に変貌させた話 その4

「オーエスイーの社長を今期限りで辞めてもらいます」

先代社長に対するわたしの通告はシンプルだった。
そこからは先代社長の泣き落としやら、脅しやら、怒りやらで時間が過ぎる。
あまりにも口汚い言葉もあったため、ここでは割愛したいと思う。

先代社長との話し合いが終わると、経理担当の奥さんにも解雇通知をする。
奥さんは「この歳でどこかで働くわけにもいかず、何とか話し合いでカタが付きませんか?」と追い縋ってきたが、オーエスイーを再生するには、先代社長と奥さんはいてはいけない存在であった。

わたしも心を鬼にして、「そういうわけにはいきません。オーエスイーは簿外未払金で既に倒産した会社だ。それをあなた方は黙っていた時点でわたしを騙したことになる。信頼関係がない人を会社に置いておくわけにはいかない。オーエスイーは集中治療室で大規模な外科手術を施さないといけないレベルなのに、手間取っている時間はない」と告げる。

そうしてオーエスイーから先代社長とその奥さんは去ることになった。

その夜、Yさんと工場長、切削部門リーダーのKくんと会社近くの居酒屋に集まり語り合う。

「先代社長が大きなガンだったから、これでオーエスイーは良くなりますね」とYさん。
「いや、そうはならないですよ」
「平山社長、なぜですか?」
「本番はここからです。先代社長は性格上、分かりやすい問題でしたから、ただ排除すれば解決しましたが、先代社長に隠れた社員側の問題がこれから沢山出てきますよ。彼らは今まで先代社長の独裁、圧政のせいだと言い訳できていましたが、先代社長も奥さんもいなけなれば、社員たちは何を言い訳にしますかね。赤字を抱えた原因の半分は社員側にもあります」

工場長もKくんも黙り込む。
非常に不味い酒となった記憶は今でも鮮明だ。
そして、わたしの予測は当たってしまうことになる。

2016年3月度決算。
売上:4億円、純利益:▲4,500万円。
これが先代社長のどんぶり勘定と、隠れた赤字社員たちのオーエスイーの実力値だ。

娘と。4人子供がいるが、オーエスイー買収後は家族との団欒はほぼない状態。妻や子供たちには申し訳ない。

銀行との関係性

M&Aして一週間で倒産必至の状態を何とかくぐり抜け、毎月のように押し寄せる資金ショートも何とかやり繰りして、初の決算が大赤字。

勿論、オーエスイーのメインバンクは黙ってはいない。
オーエスイーは先代社長の頃から、借金返済をリスケしており、金利しか払えていない状況だった。
メインバンクが「アルムがオーエスイーを買収したのだから、今までの借金全額をまずは返済してください!」の一点張りになるのも理解はできる。

「少し待ってください。もし、オーエスイーが先代社長のままなら、あなた方は今の借金を回収できましたか?我々がM&Aをして一週間で倒産するような会社で、借金返済を期待できたでしょうか?もし、今のリスケを待って頂けるなら、わたしが必ず改善して黒字化してみせます。五年後には返済ができる会社にしてみせます。だから、今はリスケしたままで様子を見てください」と述べて、五年の事業計画を渡した。

今では元金返済もしており、その時にわたしの言葉を信じて待ってくれたメインバンクさんには心から感謝したい。

さて、銀行への説明は終わった。
オーエスイーの大規模な外科手術の開始である。

つづく。

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