サプライチェーンに関する思索 その5

サプライチェーンを調達企業と加工企業、マクロとミクロを合わせながら考えてきたが、実は生産性より大事なものがあることに気付くと思う。

生産性を上げていくことより、計画通りの納期で、計画通りの数量を、計画通りの品質で供給していくこと、また、発注をすることの方が大事だ。

マネジメントにおいて流動しやすい生産性をどうにかするより、 この「計画通り」というのが難しい。
企業経営でもそうだが、計画より下方修正や赤字となれば銀行がどやしつけてくるし、計画より上方修正となれば税務署が色めき立つ。
業績が乱高下するより、安定的に成長すること、計画通りに推移すること、サステナブル経営が求められるわけだ。

サプライチェーンにおいても、爆発的な需要を何とかするのは出来たとしても、あらゆるリスクの状況下で計画通りに供給することがやはり難しい。
サプライチェーン・マネジメント(SCM)も継続性、永続性、計画通りの推移を主眼点とすることがいよいよ求められている。

これは諸刃の剣で、供給側(加工企業)に安定的な供給を求めるのなら、需要側(調達企業)も安定的に需要を作り出す、つまり、部品発注額を安定化させる必要があることを示唆している。
「くれくれ」ばかりを求めていては人間関係が成り立たないように、調達企業も「くれくれ」と要求するなら、「あげる」こともSCMの視点に入れるべきである。

さて、本題に話を戻して、サプライチェーンのQ(品質)について考えよう。

製造業に長年関わってきた人であれば分かることだが、品質は上流工程で既に決まっている。

つまり、加工企業に流れてきた図面や仕様、引いては製品の品質は、その上流工程である設計段階で大概は決まってしまっているということだ。

また、設計にも上流から下流までがあり、最上流は構想・企画の段階、要求性能や仕様を決める段階で決まってしまっている。
あとはその上流工程で決められたことに沿って設計の肉付け、調達、加工、検査・確認をしていくわけだから、加工企業がいくら素晴らしい技術を持っていようが、設計がダメな場合は取り返しが付かない。

ということは、SCMの範囲は上流の設計段階からになるわけだが、それがまた難しい。

まずは誰が上流から下流を想定して、これが良い悪いとジャッジできるのかである。
よく見られるのは、俺は設計屋だから知らない、俺は調達員だから知らない、俺は加工屋だから知らないの精神態度だ。
この分野を任せられるエンジニアは本当に少ない。

また、PMI(製品製造情報。CAD的にはマニュファクチャリングデータと言う)を上流から下流まで一気通貫したやり取りができるかが問題となる。
これはツールの問題であり、企業間の連携の問題でもある。

この解決策は至って簡単で、上流工程を担う会社(ここでは調達企業)が下流工程を担う会社(加工企業)に全てのマニュファクチャリングデータを開示してしまえばいいのである。
これは情報セキュリティの観点から難しいと言われるだろうが、高精度に自動化され、堅牢なセキュリティを構築したシステムであれば可能であり、そのシステムがセキュリティと一気通貫を担保する役割を果たすわけだ。

工程間に人が入るから情報漏洩リスクが生じるわけだが、自動化システムは暗号化したり、ホワイトリストによりデータアクセスできる者を制限したりできるため、現状より高セキュリティにはなる。
かつ、開示しないことでの非効率を払拭できる。

我々アルムがMMOPを構想したのは、こうした製造現場におけるもどかしさ、非効率、情報漏洩リスクを間近で見てきたからだ。
また、我々アルムは、調達企業であり、加工企業であり、開発設計企業であり、下流工程企業でもあったので、俯瞰して見ることができ、こちらを立てれば、あちらが立たずの状態を解決すべくMMOP構想を立ち上げた。
そして、有難いことに、それが現在NEDO研究開発事業として採択され、多額の資金を投入して、開発を日夜続けている。

サプライチェーンを語る時には、この上流工程から下流工程までの全てを俯瞰して見るべきで、その視点が抜けると一気に机上の空論になってしまう。

SCMの基本原則は「くれくれ」では成り立たない。「あげる」から始めることが大事だ。

※マニュファクチャリングデータは、紙図面では全て落とし込めない。だから、今だけ見れば紙図面の処理や管理を何とかしようとなるが、サプライチェーンにおける上流工程から下流工程までの一気通貫情報連携を考えると、3DCADの活用は必須である。

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