サプライチェーンに関する思索 その3

今回からようやく調達活動の絶対条件であるQCDについて記述したいと思う。QCDについては既に読者が知っているものとして話を進めていく。
今回は特にC(コスト)について扱う。

前回の記事で、国産と偽りながら中国産を供給していた加工企業の話を取り上げたが、需要を満たす面では問題がないとしても、サプライチェーンの冗長性からは大問題であることを考えた。
他社で出来ないような価格での調達実績が出来てしまうと、それが正となってしまい、地政学的問題や天災が生じてしまうと、サプライチェーンの寸断となってしまうわけだ。

サプライチェーンの変更での価格転化が進まなければ加工企業が赤字状態を我慢する必要があるし、価格転化をしてしまうと調達企業の利益が圧縮され、他国メーカーとの競争力がなくなってしまう。

コストの問題を語る時に、「人も企業も高いモノは絶対に買わない」という現実を覚えておく必要がある。
時々、「うちは付加価値の高い製品をやっているから高くても買ってもらえる」と言う経営者がいるが、それは単なる勘違いで、日本でやっている加工は中国でもできるし、都合の良いタイミングで調達先は切り替えられる。
その勘違いを引き摺っていたのが、自動車であり、工作機械だったのではないだろうか。

だから、コストの問題から目を背けてはいけない。

このコストの問題には三つの解決策がある。

一つ目は、調達企業側であるメーカーが思い切って値段を釣り上げるやり方だ。
自社のサプライチェーンの冗長性を実現するために、調達製品の価格の見立てを10〜30%程度幅を持たせる必要がある。そして、調達先により最終価格を変動させるやり方をする。
これを実現するには、メーカーとしてフレキシブルに価格転化できる仕組みがないといけない。
メーカーとして均一な製品を、同価格で提供したい気持ちは分かるが、思い切ってパーツ産地国明示をして、それによって価格変動販売するやり方を採用する。
しかし、これはユーザー視点に立つと、目利きが必要になり、なかなか実現が難しいように感じる。(販売国により最終価格を変動させているメーカーはあるが、調達国により変動させているメーカーはいるのか、わたしの知識不足かもしれないので、既に実施しているメーカーがいれば教えてください。)

二つ目に、最安値を出せる国や地域、企業を探し続ける。
中国大連が高ければ深圳に、中国が高ければASEANにという形で、調達国をどんどん変えていくやり方だ。
わたしはこれを「焼畑農業的調達」と呼んでいるが、一つの国や地域を焼き尽くせば、次の農地へと進む調達方式である。
このやり方はいずれ限界が生じることになる。全てを焼き尽くした時にどうなるのかの思考がないのである。
ある企業は日本での調達が上手くいかなければ中国やASEANでと考えたのだが、地政学的問題や商習慣、労働や納期の感覚、輸出の手間や費用などを深く考えずに安易に海外調達をやってしまっている。
大企業が円安や地政学的リスクのために国内回帰をしている姿を見ると、その辺りの思索がどこまで深かったのか疑問に思うところはある。
(当時の状況からは適切な判断であったのだろうとは思うので、大企業を批判するものではない)

三つ目は徹底した自動化とデジタル化である。
これは量産分野ではなく、一品一様の生産現場の自動化、デジタル化を意味している。
会社経営をしていると事業計画と実績の差異が必ず生じる。
これはほぼ全て人に頼り切った工場運営をしておりムラ、ムダ、ムリがあるからだ。
人は今月良くても来月には生産性を下げてしまう生き物で、その原因がモチベーションやら病気やら価値観やらと多岐に渡る。
彼らを管理するためにまた人を雇い、経営者は本来なら事業や製品開発、資金調達などに時間と体力を割きたいが、社内のゴタゴタに全てを奪われてしまう。

自動化やデジタル化の領域を一品一様の世界にも広げることで、生産性の定量化が可能になる。
生産性の定量化が可能になるということは、生産性の上下の要因も簡単に見つけられるわけだ。

ここで覚えておかなければいけないのは、自動化やデジタル化をしたとしても、すぐには生産性が上がらないということだ。
いや、人がやっていた時より逆に生産性を下げてしまうこともある。
大体の経営者はここで諦めてしまうのだが、自動化やデジタル化は成長させていくものと理解していないといけない。
自動化やデジタル化をすることで定量化された情報から、何をどうすべきかが分かる。
定量化されたデータに基づいて、改善または開発して、また生産性を追求する。この繰り返しをすることで、即効性ではなく、永続性や継続性の観点で生産性を上げていくことを意識しなければならない。

一品一様の切削加工の自動化が実現すれば、コストは大幅に下がり、無理して海外調達する必要もなくなる。
国内で調達を完結できるということは、サプライチェーンの安定化に繋がる。

現在、切削加工品の自動化やAI化が盛んに言われるようになってきたが、バックエンドでは人が代行して作業しているものばかりで、ユーザーを煙に巻いているサービスや製品が多い。
今はいいだろうが、大量にある需要に対していつまでも人海戦術でやっていくのだろうかとの疑問がある。
最初の回で記述したように、代行サービスは調達企業の肩代わりをしているだけで、何の解決にもなっていない。
代行サービス企業が延々と人材確保できて、そのサービスを継続できるのなら問題はないだろうが、大企業でも人材確保が難しい昨今、それは現実的な考え方ではないだろうし、代行サービスを突き詰めてブラッシュアップしているのではなく、単に機械を売りたい、補助金を得たい、業界内で目立ちたいという、いやらしい大人の事情がチラチラと垣間見えるから、これまた何の役に立つのかとの疑問も浮かんでくる。
こうした理由から代行サービスにサプライチェーンの安定化は無理なのだ。

調達コストを下げながらも、サプライチェーンの冗長性を実現するには、自動化とデジタル化しか現実的な解決策はない。
今の感情一つで自動化やデジタル化に反対していては、海外調達に頼り切った日本の製造業自体、未来がないと言える。

だから、望むべくは皆が協力して、本当の自動化ツール、デジタルツールの開発に手を携えてやっていくことだ。

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