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倒産寸前の加工屋を黒字会社に変貌させた話 その3

赤字企業の落とし穴② 杜撰な受注

オーエスイーを買収した初年度は、先代の社長がまだ代表として会社経営に携わり、お客様との折衝や受注活動を担当していた。
そして、金沢から派遣したわたしの右腕が補佐をする立場として、部品一点一点の原価の記録を付けていた。
それまでのオーエスイーは原価管理なるものをやったことがなく、そうした記録もなかった。
全ては先代社長のカンコツの世界だったわけだ。

「Yさん(わたしの右腕)、受注価格や原価に異常はない?」とわたしが聞くと、Yさんは首を傾げながら、「明らかにおかしい」とつぶやく。
何がおかしいのか訊くと、時間チャージが1,600円の製品がズラリと並び、酷いものは800円を切っている。

わたしはその数字を見た瞬間、背筋に寒いものを感じた。
人件費とマシニングを合わせると、最低でも5,000円/時間は取らないといけないものを、コンビニバイトの時給かのような数字が並ぶ。

わたしとYさんで何度も確認をするも結果は同じ。
しかも、売上第一位、第二位の顧客の時間チャージが軒並みそんな状態だ。

わたしは怒りを押し殺して先代社長に詰め寄る。
「なぜこんな時間チャージで受注しているのですか!これでは絶対に赤字になるし、こんな杜撰な受注活動なら誰にもできるではないですか!」

先代社長も負けじと声を大にして、「この値段じゃないと受注できないんだ!あんたは何も分かってない!このお客さんからは次に大きな案件があるから、勝負した値段でやってるんだ!」と言い張る。

しかし、その「お客さん」とは売上第一位の、一人でブローカーをやっている企業の体を成していない顧客だ。
なぜそのブローカーとの取引を大きくしているかと言うと、恩だ義理だとのこと。
恩があるから800円の単価でも続けるんだと言う。しかし、その恩も赤字の仕事を沢山くれる程度のことだった。
そのブローカーのお爺さんは、大企業とのパイプがある程度あり、それを語っては、先代社長に夢を見せていたのだろう。

揉めること数時間。
先代社長が折れて、利益が取れる価格で受注することで話が終わった。
これで安心と思ったわたしが甘かった。
先代社長が信じられない行動に出る。

オーエスイーのNCフライス。全て老朽化が酷い状態で精度が出ないものばかりだった。

赤字企業の落とし穴③ 先代社長の暴走

先代社長が受注価格をしっかり見直しているものと思い、2015年の年末年始を過ごす。
2016年年明け。
オーエスイー工場長から電話が入る。

「先代社長が社員への年始の挨拶で『今日からオーエスイーの経営権は俺に戻った。平山とYはお前らを騙そうとしている。あいつらが見せる原価の数字はデタラメで、俺の営業の邪魔ばかりをしている。もうあの二人の言うことは絶対に聞くな!』と言うのです。これはどうしたらいいのでしょうか?」

わたしは愕然とした。株式のオーナーはあくまでアルムであるし、好き勝手やってもいい権限など与えてはいない。原価の数字はファクトであるし、それを無視しては数ヶ月と持たない状況なのだ。
工場長に尋ねる。
「きみはどう思うか。このままで会社は上手くいくと思うか?」

「いえ、上手くいきません」と工場長。
「では、どうすべきと思うか?」
「・・・・先代社長に辞めてもらいましょう」
「しかし、その行動を取れば社内が混乱して、皆が一斉に退職するのではないか?」
「平山社長、わたしに任せてもらえますか?皆に話をします。このままではいけない、先代社長に辞めてもらうと」
「では、頼みます。先代社長とはわたしが直接対決します」

こうしてすぐに金沢から秋田へ飛ぶ。
金沢から秋田への移動は一日掛かりだから、その間ずっと、自分の親世代の人に何と言うべきかに思いを巡らした。
怒りをぶちまけるべきか。
それとも宥めながら話すか。

秋田に着いて早々、工場長が「社員たちは問題ない。あとは先代社長に解任を話すのみ」と言う。
わたしが事務所に入ると、先代社長が奥で仰け反り、お前の言うことなど聞くものかとの態度を見せている。
また、先代社長の奥さんも厄介者が来たかのように睨みつけている。

二人の態度を見て、わたしの決意はいよいよ強まった。

つづく。

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