何もかえせない


人は生まれながらに原罪を背負ってるって聞いたことがある。
生まれてびっくり原罪が。

キリスト教ではないからセーフ?

たくさんの愛をくれた人に何もかえせない。
避けて通れない罪があるならこれが原罪に近いのかもしれない。

大人になったら子供に手一杯で、何も返せていない。

「順送りだよ」
祖母が父や伯母に言い、私もよく言われた言葉。
自分がしてもらったことは子に返せという意味らしい。

久々に会った伯母は数週間前危篤だったとは思えない程元気に振る舞っていた。
多分、無理をしていた。


「安いかもしれないけど、形見で、私も使っていた物だから」と幾つかアクセサリーをくれた。
なるべく自然にありがとうともらった。

娘たちにもお小遣いをくれた。
そんな事しないで。
喉から出そうだった。
「あんたも生活で好きなもの買えんだろ?」とお小遣いをくれた。
もらえないと言うと鞄に入れてきた。

返せない。返せないから来れなくなる。
堪えきれずに泣いてしまった。
「もう、あんたは、怒るよ」
お土産を持って行っても「子供に使え」と怒られる。


思春期も終りの、両親とも周りの人とも うまく折り合いが付けられなかった頃、数週間泊まらせてくれた。
小さい頃は叱られまくったがその頃になると色んな事を話せた。
深夜まで話した。

ストーブの上のやかん。
そのお湯でいれたコーヒー。愛犬とゆるい夜。
また明日。と部屋の前で別れ、少し小説を読み、洗濯機の音で目を覚ました。

ついこの間みたいだけど、随分時が経っていた。
冗談を言い合い、笑い、時には愚痴り、泣き、私は伯母の前ではいつでも子供に戻ってしまう。
電話では、話したい気持ちだけで、何も話せなくて、色んな事を話したあの時間を過ごすことはもう出来ないのかもしれない。


返せない。
これ以上もらえないから足が遠のく。
おばちゃんこそ、自分に使って。
くれたお小遣いは、大事過ぎて使えないんだ。

順送り。
分かってるけど、どうにも辛い。

がんばってな。がんばってな。
何度も何度も言ってくれる。
言われる程がんばっているか。
恥ずかしくなる。

私そんながんばってない。
それくらいでいいよ。
がんばらんでいいよ。
どこまでも私を甘やかす。

また来るから。
もうお小遣いは要らんから。
また深夜まで話したい。


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