観てみたら『三国志 Secret of Three Kingdoms』がスゴかった件・その4

はい続きますよ(笑)。

今回は、「原作者がこの作品に込めたメッセージとは何か」でしたね。
その前に、この作品のキモとなる設定について説明しときます↓。

・献帝(劉協)には双子の弟(楊平)がいて、生まれた直後に人知れず儒学者の楊俊に預けられ、ついで幼いうちに司馬家に預け替えられて司馬懿とと共に育ったが、19歳のときに隠密理に宮中に連れてこられて病気で亡くなった兄の献帝と入れ替わって皇帝にさせられる。
・これは双子の兄弟として生まれた時から計画されていたことで、兄の献帝も知っており、事前に皇后など関係者に指令を出していた。この計画の目的は「漢王朝の復活」だった。

↑このようなわけで、物語は「『漢王朝の復活』を目的とするグループと曹操らの『王権の簒奪』を目的とするグループの攻防戦」として進行していきます。なので三国志名物「赤壁の戦い」なんかは話題として出てくるものの合戦シーンなしでわりとあっさりスルーされます(笑)。

だがしかし、もし物語のメインテーマが「『漢王朝の復活』を目的とするグループと曹操らの『王権の簒奪』を目的とするグループの攻防戦」なのだとしたら、なぜあえて献帝を双子の弟という架空の人物に設定したのか(もしくはする必要があったのか)、もちろんそこに作者の最も重要な意図が込められているわけですが、じつは作者がこの作品で「本当に言いたかったこと」は「漢王朝の復活」でもなければ「王権の簒奪」でもありませんでした。
この皇帝と入れ替わった弟の楊平という人物は、物語の初めから終わりまで終始一貫して「戦いたくない、殺したくない平和主義者」として描かれていますが、要は「そのような人物を物語の中心に据えるために入れ替える必要があった」ということです。

こうして入れ替わった「漢王朝最後の皇帝」は、じつは「漢王朝の復活」ではなく「民の安寧と幸福のために戦乱の世を終わらせること」を常に考えて動くのですが、それは当然ながら周囲にいる「漢王朝の復活を目的として動いている人物たち」や「王権の簒奪を目的として動いている人物たち」との間に激しい軋轢を生み出すことになります。
実際そのように物語は進行していき、終盤で(史実どおりに)帝位を曹丕に禅譲しますが、その時おそらくホンモノの歴史上で起きていたことは「曹丕が禅譲の形をとらせて帝位についた」だったはずです。

帝位を譲ることによって自由の身となった楊平はそれまでずっと願い続けてきた「とってもハッピーな結末」を迎えますが、彼がその「ハッピーな結末」を手に入れることができたのは権力争いやら身分関係やらの桎梏から逃れられたからであり、ドラマではその対比として「皇帝の座についた曹丕の悲惨な姿」が描かれています。

このように楊平は終始一貫して「民の安寧と平和のためなら漢王朝なんてなくなってもかまわない(そもそもすり替えられて皇帝にさせられたんだし)」という意図で動いていたんですね。

このドラマのメインテーマは「漢王朝の復活もしくは滅亡」でもなければ「王朝の簒奪」でもありません。
ここで作者が問いかけているのは「あるべき統治とは何か」「人の幸せとは何か」であり、これは漢王朝の思想的バックボーンであった「儒教的なものの考え方」とは対立するところがあります。
同様に戦争などの「力による抑圧」にも反対しており、となるとこの作品は「体制批判ととらえられかねないちょっとヤバい作品」ということになるわけで、今後同様の作品を作れるのかいささか心配になったりします。

他の歴史ドラマでもすでに当局による検閲は強化されつつあり、「史実から離れるな」というような指摘で修正せざるを得なかった作品もけっこうあるみたいです。
なんせSF小説『三体』なんかでも章の入れ替えが行われ、作者も「できれば(章の入れ替えのない)英語版で読んでね」と言ってるぐらいですから↓。

初めて『科幻世界』で連載された本小説の第一章「狂乱の時代」(中: 瘋狂年代)には、文化大革命を描く一段落があり、それは清華大学の紅衛兵及び百日大武闘(ゲバルト)を下敷きにする。中国本土で刊行される単行本では、この部分は「中国の政治・社会状況に照らして、文革から語り起こすのは得策ではないという判断」から第七章に移されたが、英語版では著者が本来意図していた構成に戻され、日本語版もそれに準じている。
ケン・リュウが翻訳した英語版は「中国人読者をして「原作より読みやすい」と言わしめた名訳」とされており、日本語版の翻訳者である大森は「ケン・リュウの英訳が原文に忠実でありながら非常に明解でわかりやすかった」として日本語版の目標にしたという。また著者の劉慈欣は「中国文学が外国語に翻訳されると何かが失われやすいものですが、『三体』では、むしろ得ていると思います」とし、中国のSFファンに向けて、英語が理解できるのであれば英語版を読むよう勧めている

本日はここまでですが、まだ続きますよ(笑)。
次回は、今回の最後に出てきたヤバい話を深堀りしてみたいと思います。大丈夫かなw

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