観てみたら『三国志 Secret of Three Kingdoms』がスゴかった件・その6

本日はその4の続きになります。

ひとまず参考資料として、史実と演者の生年をまとめた表↓を載せておきます。

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演者でいちばん年長なのはドン・ジエ、最年少は司馬懿を演じたエルビス・ハン。若いんだけとドラマの中ではわりと老けて見えていたので意外でした。
逆に若く見える曹丕役のタン・ジェンツーは1990年生まれで、ヒップホップ系グループのボーカルとして10年のキャリアがあります。
皇后を演じたレジーナ・ワンは1982年生まれで、なんとこの撮影は妊娠中に行われたのだとか。
ここに載せていないですけど、曹節を演じた女優さんが20代前半でいちばん若い「新人さん」です。

というわけで,原作者のマー氏を含めみなさん80後生まれの「小皇帝世代」です。

各演者についてもう少し詳しく説明していきます。

みなさん国籍も育った環境もそれぞれ違っていて、主演のマー・ティエンユーは山東省徳州市の農村出身の回族で、貧しい環境の中から容姿ひとつでのし上がってきた人。北京電影学院卒です。
レジーナ・ワンは存じ上げなかったのですが湖南省益陽市出身で子供時代から声楽を、上海戯劇学院では演技を学んで着実にキャリアを積み上げてきた人で、映画『軍中楽園』の娼婦役でイーサン・ルアンと共演されてたそうですが、あーそういえばなんか、以前CSでやっていた映画でタンクトップ姿のイーサンを家事しながら適当に観ていたおぼろげな記憶が(笑)。
ドン・ジエは軍所属(中尉らしいが、今もそうかは知らない)です↓。

6歳からダンスを学び、10歳で人民解放軍広州軍区戦士歌舞団に入団。その後、北京解放軍芸術学院舞踏科を卒業。2000年、張芸謀監督の『至福のとき』のオーディションでは4、5万人の応募者の中からヒロインに選ばれた。


サニー・ワンは実家が台湾の大手船会社を経営するリアル御曹司アメリカ生まれニューヨーク大学スターンビジネススクール卒です。両腕のモンモンがそのやんちゃぶりを象徴している気がします。
エルビス・ハンは黒竜江省ハルピン市生まれで、カナダのバンクーバーで高校に通っていましたが中国に戻り上海戯劇学院で演技を学びました。カーレーサーのライセンスも持つスポーツマンで、顔もいいけど「脱いだらスゴイ」です。私のイチオシです(笑)。
最後に曹丕役のタン・ジェンツーですけどこの人の経歴がちょっと変わってて、広西チワン族自治区北海市生まれで「ラテンダンスを専攻し、北京舞踏学院付属中学校に入学」、「2006年、全米ダンススポーツ選手権で16歳のプロラテンダンスチャンピオン、モダンダンスで5位。2006年、世界IDSFグランプリアニュアルファイナル上海オープン16歳のラテンダンス3位、モダンダンス4位」といった経歴があり、その後北京体育大学に入学、2010年からはM.I.C男団というアイドルグループのヴォーカルで活躍してきました↓。

ちなみにM.I.Cというのは「メイド・イン・チャイナ」の略なんだそうです。
2つばかり動画を貼っておきます。
歌もだけどダンスのキレが素晴らしいのはさすがですね。

タン・ジェンツーは漢字で書くと「檀健次」で、これは確認がとれたわけではないですが「父親が日本の外交官で母親が広西チワン自治区で商売をやっている裕福な家庭で育った」という噂があります。
そして原作者のマー・ボーヨン氏にはニュージーランドでの留学体験談があり、帰国後10年間外資系会社に勤めていたんでしたね。

以上、これでもかと出演者らの経歴を紹介してみましたが、これで「彼/彼女らがどれほど大勢の中から選び抜かれ、勝ち抜いてきたエリートであるか」ということと、「80後世代がいかに裕福な環境で育ち、高学歴で海外経験も豊富であるか」がおわかりいただけたと思います。

役者として「北京電影学院」「上海戯劇学院」「中央戯劇学院(ここにはいない)」を卒業したということは、彼/彼女らが毎年30人程度の定員に数千人数万人もの受験生が殺到する「超絶狭き門」をくぐり抜けた演劇のトップエリートであることを意味しています。

↑より引用)
毎年行われる入学試験では、特に表演系は中国全土から何万人もの俳優志望者達が受験。表演系の入学試験で試されるのは、演技力や表現力に加え、正しい発音など...合格するためには何千倍もの競争率に勝ち残らなければならない。
21世紀の今日では、戯劇学院自体の学生数増大、他大学での芸術系(戯劇系)新設などで演劇映画俳優志望の学生は増大し、もはや厳しい入試を突破し中央戯劇学院を卒業しても職業俳優の道が保障されているわけではない。
[主な卒業生女優]
呂麗萍 コン・リー(鞏俐) 徐帆 陶紅 チャン・ツィイー(章子怡) 梅婷 袁泉 秦海璐 陳好 張静初 湯唯 艾敬 劉筱筱

「北京舞踊学院」もこれに準じ、その卒業生には女優のリウ・シーシーがいます。タン・ジェンツーの「北京体育大学」はオリンピック級スポーツ選手を多数排出している有名校、サニー・ワンの「ニューヨーク大学」もアメリカの名門大学です。

こんなとてつもない競争率のなかから選ばれた人ばかりなので、美男美女であることはもちろん、男優で180cm越え、女優で170cm越えの人がざらにいて、しかも演技力も伴わなければ「生き残っていけない」のが中国という国なんですね。

こういった激しい競争の中では実力がなければ勝ち残っていけないので、もはや「世襲」は意味をなしません。太子党にしたところでこれからは親から受け継いだ特権的地位だけでは生き残っていけないでしょう。

ところが日本の場合、本当の意味での生存競争がないので「世襲」がまかり通っています。そうやって「能力もないのに」権力の座についた二世三世のボンクラが国力を落とす元凶になっている。まさしく「400年続いて滅んだ漢王朝」のように

こんなふうにして私がドラマ『三国機密』から受け取ったメッセージは「世界は王朝などといった世襲ではなく、真に統治する能力のある者が統治するのがもっともよい」という「ある意味反体制や政権批判とも受け取られかねないもの」でした。

これは中国や日本に限ったことではなく、世界中どこの国の権力者や大富豪でも「子孫に残すために」その権力や富を独占したがりますが(進化論的に説明可能)、「そうじゃないぜ」と終始一貫して語り続けていたのがこのドラマだったのでした。

こんな風にこのドラマがいろんな意味で示しているように、世襲なんかではなく適正な競争下で選抜が行われた場合にその集団が一番強くなるんです。

これでこのシリーズは終わりですが、今回の最後で書いたことについて次回はちょっと違った切り口で考察してみることにします。

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