観てみたら『三国志 Secret of Three Kingdoms』がスゴかった件・その3

『三国機密』の何がスゴいのかの答えは、ひとえに「原作がスゴいから」です。

ああ、やっと書けた(笑)。

「歴史モノ」としてはあまりにもデタラメな改変がなされているし、宮廷ドロドロ陰謀系としてはあまりにも爽やかすぎるし、主な役者はみんな三十代だし…ということでもしかしてこの作品は「とんでもない駄作」ととらえられかねないんですけど、第一話の冒頭から張り巡らされたさまざまな伏線が中だるみすることなく緊密に最終話まで引っ張られ、最終的にラストでそれらすべてが見事に回収される。
しかも史書に記された史実から大きく外れることなく。

…というより「史実があるからこそ生きる創作」として、作者にとってはあの結末以外なかったはずなんです。
あの「甘々なハッピーエンド」には作者の重要なメッセージが込められていますが、それはラストだけでなくドラマの随所に散りばめられており、それこそがあのドラマで作者が「言いたかったこと」なのだなあというのが最後まで一通り見終わったあとにようやくひしひしと伝わってきて、爽やかな感動を覚えました。

というわけで、ここでひとまず作者のマー・ボーヨン氏の経歴の紹介をしておきます↓。

↑より引用)
馬 伯庸(ば はくよう、マー・ボーヨン、1980年11月14日 - )は、中華人民共和国の小説家。本名は馬力。満族。
1980年11月14日、内モンゴル自治区赤峰市に生まれた。
2005年5月、処女小説『寂靜之城』を発表。

↑マー氏は1980年内モンゴル自治区生まれの満族です。

それ以外の詳しい経歴は↓にあります。

↑によると、氏は1998年頃から作品をオンラインフォーラムに発表し始め、その後ニュージーランドに留学、その時することがなくてヒマだったのでもっと長い作品を書くことにトライしていたようです。
2005年、中国に戻るとシュナイダーエレクトリックというフランスの会社に就職、その後2015年まで10年間勤めたのちに退職、フルタイムの作家となりました。

上記記事にもあるように、マー氏の作風は「史実に厳密に忠実でありながらも、その史実の隙間を自由な創作で埋めて両立させることができる」点で際立っており、『三国機密』においてもその能力が存分に発揮されています。

まず、『三国機密』の史実にはない創作部分とは、

・献帝に双子の弟がいて司馬家で密かに育てられ、献帝と入れ替わったという史実はない。
・したがって入れ替わった双子の弟が子供の頃から司馬懿(仲達)と共に育ち、懿を慕っていたということもない。
・弘農王妃が剣の達人だったという史実もないし、司馬懿と恋仲だったという史実もない。

↑このへんで、それ以外の部分は歴史にほぼ忠実に描かれているんですが、マー氏はこの史実と創作を巧みに組み合わせて緻密なプロットを作り出し、そこに作者の言いたいこと、伝えたいことを込める作家としての能力が半端ないんですね。

逆に史実に忠実な点は、

・献帝の前の少帝は董卓によって弘農王の身分に落とされ殺された。哀れに思った献帝がその妻を園中に置き弘農王妃とした。
・献帝は曹操の死後その子曹丕に禅譲のかたちで帝位を譲り、およそ400年間続いた漢王朝の最後の皇帝となった。
・曹丕は三国時代魏の初代皇帝となるが、たった6年で病没した。
・その曹丕に重用された司馬懿の孫である司馬炎が禅譲によって魏から帝位を受け継ぎ、晋王朝の初代皇帝になった。

といったあたりで、この、歴史に忠実な部分と自由な創作部分とを破綻なく巧みにブレンドさせたうえで、入れ替わった双子の献帝の生きざまに強烈なメッセージを込めた。

次回はその「作者が作品に込めたメッセージとはなにか」についてです。
まだ続くよ(笑)。

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