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氷の海を飛び出した彼らが泳いだのは、果てのない大空だった 〜0X1 Japanese Ver. 感想〜

はじめに

9月にTXTにハマった私にとって、これが初めてのカムバとなります。それはそれは心待ちにしていました。
しかしどこかでこう思ってもいました。「0X1=LOVESONGの日本語版が出るのは嬉しいけれど、きっと私は『原語版の方がいい』と思うに違いない」——と。やはり原曲はメロディに添う音節と韻を配した美しい歌詞が魅力的で、訳がそれを超えることはないだろう。そして私は瞬時に理解しえない言葉の響きがつくりだす幻想的な雰囲気に呑まれているので、耳慣れた言葉に変わればその感動も薄れるだろう、と。

ところが蓋を開けてみれば。MVを再生して2番のサビが始まったあたりで涙が止まらなくなりました。
泣いたことを主張するのは抵抗があるけれど、感動の尺度としてこれほど便利なものはないので使います。2回目の再生時は1番Aメロから泣きました。昨日は2番Aメロのスビンの声を聴いて泣きました。
彼らの生き様に涙したのか自身の潜在的な寂しさが共鳴したのかわかりませんが、とにかくそのような状況でした。

文字数を気にせず思いの丈を綴る場所があることをありがたく思いながら、とりとめなく書かせていただきます。後半にMVの好き勝手な深読みを含みます。

日本語版の特筆すべきポイントたち

1. 思わぬバックボーカルの変化
最も強調したい項目なので最初に持ってきました。皆様が今回のバージョンで一番胸を抉られた部分はどこでしょうか? 私は断トツでBメロ「天使さ hometown」の左耳から聴こえるテヒョンのボーカルです。
もちろんこれは原曲にも入っています。ところが原曲よりももっと遠く、天上から聴こえるようなエフェクトがかかっています。気づいた瞬間、頻脈になりました。これの意味するところとは一体。
全体のバックボーカルのアレンジはほぼ変わっていないように感じます。しかし2番からは幾田さんのパートが増えるので、左に振られていたコーラスが右に移行してその分左に残されたボーカルが聴こえてくるようになりました。バックボーカル愛好家(私)は大歓喜です。
この曲で一番好きなのはもしかしてBメロなのでは? というくらい愛しているのですがなんということでしょう、今まで気づきませんでした。本来のメロディとワンテンポ遅れている低音に。ヨンジュンの声でしょうかね、よく聴くとAメロからもう入っています。「sinking alone」で揃うところが素敵です。
音量もやや大きくなっている箇所があって、サビのオクターブ下のメロディだとか「世界の果てまで」のボーカルとか、格段に聴きやすくなっています(気のせいでなければ)。

2. 歌い方の進化
現状に満足せず表現の可能性を追い続けるメンバーたちに敬意が止まりません。やはりここでもオリジナルとは異なるアプローチが散見されます。たとえばテヒョン担当「僕を掴んでよ」に相当する部分、元々は語尾の音を下げずに「ちゃばちょ~→」ですがライブ音源では「ちゃばちょ~↓」と一音下げて歌っています。今回はそれが反映されていました。
もう一点、これはコラボの素晴らしさを感じる箇所なのですが「世界の果てまで」の「ま」にトリルを効かせていますよね。これをオクターブで聴くと最高です。特にボムギュ、彼の声は最低音になると声の雰囲気が変わるのが魅惑的(より下に潜る感じでしょうか、話し声でもときどきそうなっています)ですが、「果てまで」の「で」でそれが発揮されています。
原曲の雰囲気をそのまま活かした箇所も素晴らしいです。「多分僕はダメだ」のあたり、めちゃくちゃよくないですか? 1番ボムギュの「とまんがま~り」で左耳から聴こえるテヒョンのハモリ、氷が溶けてなくなるような歌い方が大変耳心地いいのですが、それが再現されていたので大満足しました。もちろんMIXの方のセンスも大きいと思います。さらにサビの「唯一の法則」の「ほ」の喉奥から絞るような絶妙な発音、原曲の該当箇所よりも真に迫るものを感じました。このニュアンスを掴むためにどれほど練習を重ねたのでしょうか。

3. 幾田りらさんの参加
これまでよく存じなかったのですが、彼女の歌声のファンになりました。私はドラマに浸るよりもフラットな歌声に胸を打たれることが多く、幾田さんのきっぱり語尾を切る歌い方に痺れました。姿の見えない天使が囁くようです。最後のサビの直前で「あ~~~」というところ、どうしようもないときに笑うようなニュアンスが込められていて「この方がコラボしてくださって本当に良かった」と感嘆しました。元々のテヒョンver.は行き場のない感情が表出されていて見事です。どちらも好きです。
幾田さんが担当された2番「掴んでよ」の部分も原曲には歌詞がなかったですし、最後のサビの「死んでもよかった」からのバックボーカルも右から左へ流れるようにヒュニンカイへ繋がっていて、書き出すとキリがないのですが好きポイントが溢れます。改めてご参加ありがとうございます。

4. 原曲の雰囲気を反映した訳詞
TXTを聴くようになって気づいたこと、それは「韓国語には拗音が多い」という点です。「ちゃ」とか「ちょ」の勢いがリズムの面白みを生んでいると感じることが多々あります。日本語にもないわけではありませんが、この曲のサビを比較してみると韓国語は6回登場するのに対して日本語は0回です。わお。では面白みがなくなったかといえば、全くそんなことはありませんでした。出だしではヨンジュンの歌声が安心感のある旋律を一歩一歩踏みしめるように支え (私はこのパートにヨンジュンを任命した方に拍手を差し上げたいと常々思っています)、続くボムギュは幽幻な魅力を見せてくれます。ヒュニンカイに至っては「こんなに日本語をかっこよく歌ってくれてありがとう」という気持ちでいっぱいです。
これはたまたまなのかもしれませんが、両バージョンで同じ音になっているところがあります。「天国には行けないや」の「や」とか。こういうところで原曲の記憶がふっと蘇り鳥肌が立ちます。
そして! 今回「ボムギュ天才」と思った部分があります。「唯一の」の「い」をわざと抜いていますよね。MVではそこに表情変化も加わって表情天才です。大好きですこの部分。「い」から加わる幾田さんのハーモニーとの相性が超絶お気に入りです。

テヒョンは一体何者なのだろうか

LO$ER=LO♡ERでバカみたいに笑ったはずの彼らから笑顔は消えています。ごみだらけの世界に転がった廃車ではどこへも逃げられない。私服姿の彼らが集合する場面もなく、孤独が満ちています。
MV終盤では無数の彗星が強烈な印象を残します。彗星の定義を調べると『太陽系小天体のうち、おもに氷や塵などでできており(後略)』——思わず拍手。0X1において負のモチーフとされる氷と塵がこんなにも美しく描かれ、惑星と衝突して終わりを迎えるであろう彗星の運命は登場人物たちの姿と重なります。

今回はテヒョン扮する人物が異質な存在として描かれているように感じました。あからさまに天使の格好をしているのは彼だけです。ヨンジュンとヒュニンカイはオレンジのヘッドホン、スビンとボムギュはイヤホンという共通点がある中で、テヒョンだけが黒いヘッドホンです。最後のサビで叫ぶタイミングも彼だけが微妙にずれていて、暗いところにいます。そして残されたのは五人分の制服ではなくたった一つ、テヒョンの制服です。
制服の血痕にもヒントがあるように思います。ヒュニンカイが最も軽傷でヨンジュンは鎖骨あたり、スビンは右胸に傷を負っている。そしてボムギュとテヒョンは同じく左胸。テヒョンの傷はあまりにひどくて助からず、ボムギュは地上へ戻れたがベッド上安静。彼らはかつて同じ学校の生徒だったのかもしれません。

MV冒頭、ヨンジュンは空を落ちる夢から醒めたようにパチリと目を開けました。自分がどこにいるのかもわからないような表情の中、唇は自然と0X1の旋律を紡ぎます。古いテレビ、紙のカルテ、割れた浴室のタイル。他に人らしき影はなく、まるで人類が消滅してから長い時間が経ったかのようです。カセットテープも郷愁を誘うアイテムとなっている。

※以下は100%私の想像です。LO$ER=LO♡ER 後の彼らを描いていると仮定しています。

自動車の墜落事故で致命傷を負った五人は天国へと向かったが追い出されてしまう——ただひとり、テヒョンを除いて。

地上へ戻る代償として、五人が一緒にいた楽しい時間の記憶はすべて奪われてしまった。それどころか自分が何者かもわからず、人類が消滅した廃墟の地球で途方に暮れるしかなかった。唯一確かなのは、0X1=LOVESONGを聴くたびにこみ上げる懐かしさ。けれどその正体はわからないまま。
孤独なテヒョンは仲間を探して地上に降り立つが、かつて共に過ごした教室には誰もいない。仲間と巡り合うことはできず、彼もまた彷徨うことになる。
荒廃した世界に降る無数の彗星を見つめながら、彼らは思い出す。どうしようもない人生の最後に笑い合ったことを。誰かを愛し、愛されたかったことを。

彼は仲間とともに天国へ戻れたのでしょうか。最後に衣装が変わったのも何かしらの意味がありそうです。

いいイヤホンが欲しい、切実に

TXTの曲の良さを何倍にも増幅しているバックボーカル。手持ちのイヤホンの音の分離感ではそろそろ満足できなくなってきました。テヒョンの高音からボムギュの低音まで余すところなく堪能できるイヤホンを探す旅に出ます。オススメがあればご教示ください。

皆様は0X1=LOVESONGのどこに惹かれますか? MVをどのように解釈されましたか?
ご感想・考察などどんな些細なことでも構いませんので、コメントいただけますと幸いです。私はこの曲をもっともっと愛したいので。

感慨に耽っていたのにMVメイキングのテヒョンにすべて持っていかれました。どうしたんだその声は。