某雑誌でボツにされた原稿(15年くらい前)

 やっと夏が終わった。読者諸君は異常気象ともいえるあのクソ暑さを避け家に引きこもりっぱなしだったのではないか。まあ、その過ごし方の是非はこの際どうでもいいのだが、夏休みになるとネット上に色々な困ったちゃんが発生する。ネットデビューの超弩級初心者、勘違い厨房(通称夏厨)などが代表格だ。彼らは夏休みにだけ発生し、秋風が吹く頃になるといつの間にか消えてしまう、いわばネット上に生息するセミみたいな物であるが、ネット上にはそんなセミたちの親分も多数存在する。一般的には彼らの事を「電波系」と呼ぶ事が多い。彼らは突然ネット上に現れ、常人には理解出来ない言動で我々の目を楽しませてくれる。そんな彼らの姿を一緒に見に行こうというのが今回の企画である。名付けて「ゲームラボ的電波昆虫採集」だ。そこの人、日曜日の夜に思いついたんだなとか勘ぐるのはやめなさい。

 昆虫採集に行くといっても、いきなりチッチゼミやチョウセンケナガニイニイを捕まえに行くのは無謀というものである。ましてやテイオウゼミなどに手を出すのは愚の骨頂だろう。というわけで、まずは割とよく知られているミンミンゼミ級の知名度のところから紹介していこう。栄えあるトップバッターは「もう森へなんかいかない」( http://homepage1.nifty.com/Mitume/index.html )だ。このサイトの管理者は、自分は電波にやられたと主張する電波である。非常にややこしい書き方だが、前者の電波は困ったちゃんの電波ではなくテレビの事だと思っていただきたい。肝心の内容はというと、彼はあるテレビ番組を見る事によっておしゃれ事件という謎の事件に巻き込まれてしまった「らしい」。そして、その事件を世間に知らしめようとしている「らしい」のだ。なぜ「らしい」と書いているのかというと、実際のところサッパリ意味がわからないのである。そもそも、何がおしゃれ事件で、何が起こったのかすらわからないのだ。説明しようにも全く理解出来ないので少々彼の言い分(なのかどうかも不明)を引用させていただく。

この番組で問題の異変にぼくが気づいたのは、土佐シリーズと言われているところからです。これが10月20日「土佐のペギー」からです。このときぼくはテレビを見ない人間なんですね。久米宏と楠田枝里子の関係にどういうことだと思いました。久米宏には確か奥さんがいたはずだと思いました。それから「おしゃれ」でこれより少し前に、久米宏の愛人関係が週刊誌に書かれていることを、楠田が「おしゃれ」でも言っていたのです。特に問題なのが11月3日から6日までの、性的関係の持ちようが不自然であるということです。(原文ママ)

一番まともな引用をするために小一時間ほどかかってしまった。ちなみにこの文章は昭和56年の話である。彼は久米宏と楠田枝里子の間に性的関係があったと思っている「らしい」。その根拠がすごい。

この当時は11PMなどで、セックスについて取り上げることが沢山あったようです。女性がこのような放送を見てはいけないとは思いません。ただこの日の放送で楠田の性への関心と、それについて話す久米宏の、楠田枝里子の性に対する尋常ではない、関心に驚きました。楠田へのあからさまな侮蔑の表情を見て取ることができます。久米が怒っているのはなぜなのか?これは楠田とセックスをしたいという、久米の裏返しの、屈折した心理の表れと思えます。(原文ママ)

(多分)これだけ。これだけでテレビ局に抗議文を送ったり、「超音波盗聴器」で盗聴されていると主張したりしている。未見の方がもしいるのなら一度は見てみる事をおすすめする。そして、彼が何を言いたいのかを私や世間に説明してほしい。

ミンミンゼミを紹介するだけでかなりエネルギーを消費してしまった。正直どうでもいいような気になってしまっているわけだが、電波と接するにはそれくらいの覚悟がいるという事である。と、電波採集の注意点などを織り交ぜながら次のセミの紹介。存在要素の確定がもたらした真実の記憶( http://members.tripod.co.jp/rana_kualu/ )という非常に長い名前のサイト。電波の王道、お告げ系サイトである。電波系サイトとしては珍しく、文章だけのサイト(サイトと言っていいものなのか微妙だが)である。背景さえないその佇まいは逆に電波の真実性を増しているといってもいいのかもしれない。内容はよくある「私は選ばれた人間だ」系だが、2ちゃんねるに少々言及しているのが面白い。彼らはヤハヴェの犬だそうだ。ちなみに電波には珍しくファンも多く、ファンサイトも存在する( http://tebukuro.tripod.co.jp/index.html )。ヤハヴェの犬の妨害によって更新を止めてしまったようだが、彼女(彼かもしれないが)はまだアヌビス様に仕えているのだろうか。そして聖輪の戦士仲間は見つかったのだろうか。その後の動きを知っている方は教えていただきたい。

やや和んだところでいくつか初心者向けサイトを紹介。まずUFOの正体( http://members.tripod.com/~NTT2/ )。アクセスすると目がチカチカするが我慢だ。実は、厳密には電波サイトでも何でもない。UFOの正体といっても○○○○(見てない人のために自粛)だし、アニオタ死ねというコンテンツもまあ、そんな物かなと思う。だが、掲示板を見てほしい。ある意味電波以上の怖さがある。ちなみに検索エンジンの宇宙人の項目に登録されている事もあるが、そんなサイトでは決してない。次。ゴジラの霊( http://member.nifty.ne.jp/3734/index.html )。息子を亡くした母親のサイトなのだが、息子が霊界から色々伝えてきてくれるらしい。嘘だとかそういうのは論じるのはやめておくが、オタクアミーゴスにトンデモと紹介されているのをリンクしているのはわざとなのか。とりあえず電波に分類しておこうという感じ。スペースの都合で最後。INVEIGLE THEORY( http://www.biwa.ne.jp/~kawakawa/gokuhi.htm )。摩訶不思議で見づらく無意味で目が痛くなり妄想ばかりという電波まみむめも理論(今作った)に忠実なサイト。あまりに量が多いので説明はしないが、これぞ電波。入門には最適である。

 色々電波系サイトを紹介してきたわけだが、勘違いしてほしくないのは、私は別に電波を馬鹿にしているわけではないという事だ。そして、読者諸君にも彼らを馬鹿にしてほしくないと思っている。彼らがいなくなったらネット巡回の楽しみがなくなってしまうのだ。その楽しみを攻撃して潰してしまうのはまったくナンセンスである。特に某2ちゃんねる利用者は気をつけていただきたい。冒頭にも書いたように、彼らはセミなのである。夏にセミの声が必需品であるように、ネットには電波が必要なのだ。電波がいないネットに何の魅力があろうか。我々は彼らをそっと見守っていこうではないか。彼らが鳴き続ける夏は未だ終わってないのである。

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