緑日記

これは8年前の春の出来事である。

当日、仕事も金も無かったは池部凶太郎は平日の昼間から公園を彷徨っていた。
土日なら子供達で埋め尽くされる公園を自分が独り占めしているという贅沢感に浸っていたのだ。
特に凶太郎は野原に広がる木や草を眺めることが好きだった。
街中を歩けば嫌でも目に入る人工物を目にすることがないからだ。
この瞬間だけは自分が人間であることを忘れられる。

凶太郎はいつものように自然を楽しんでいた。 
そして自然を堪能出来たので帰ろうと思ったその時、ある事に気がついた。
緑の自然の中にレジャーシートを敷いて日光浴を浴びている人がいたのだ。
凶太郎は思った。なぜ、すぐに気がつかなかったのだろう。 
すぐにその疑問は解決する。その人、いや「彼女」の肌の色を見てその理由が分かった。
彼女とそしてレジャーシートの色が草むらの緑と同化して気が付かなかったのだ。

そう彼女は「緑人間」だった。

凶太郎にとって緑人間は男のイメージが強かった。
ニュースや新聞などのマスメディアで取り上げられる緑人間は男ばかりだからだ。
だが男緑人間がいるのだから女緑人間がいてもなんら不思議ではない。
凶太郎は自分にそう言い聞かせ「その事」については深く考えなかった。
「ポカポカして気持ちいいですね」
凶太郎は小走りで彼女に近づき話しかけた。
「そうね。ここは静かで仕事するには最適たわ」彼女は寝転がりながら答えた。
「仕事してるんですか」
「見て分からないの。こうして光合成する事で酸素を作ってあげてるの。こう見えてちゃんとした公務よ」
凶太郎はなんと答えればいいか分からなかった。
「フフ。冗談よ。ミドリージョーク」
「なんだ。あのミドリーか」
「フフ。なにミドリーって。あなた面白いわね。私はレイよ。よろしく」
「き、凶太郎です。よろしく」
「凶太郎か。じゃあ凶君って呼ぶね」
これが凶太郎と緑人間の出会いである。
凶太郎には緑人間の笑顔がとても美しく映った。

「恋」その素敵な好奇心が凶太郎を行動させた。
たちまち凶太郎と緑人間は友達になり凶太郎は緑人間に夢中になった。

「ねえ、これ飲んでよ。レイのために緑茶を作ってきたんだ」
凶太郎はコップに緑液を注いでレイに渡す。
「凄い。とても美味しい」
「泡立たないように作るのがポイントだよ」
「泡立ってるよ」
「泡立ってないよ」
「泡立ってるけどな。お礼にこれあげる」
レイは自身の鞄の中からお弁当箱を開けて凶太郎に渡した。
「なにこれ。食べていい」
凶太郎はお弁当の箱を開けて聞いた。
「うん、いいよ。なんのおかずか当ててみて」
凶太郎はその固形物を口にいれた。
「うーん、ピクミンの生皮巻き。いや、違うな。分かった、黄人間の緑風煮込みだ」
「どっちも違うよ。答えは蛙の皮で作った焼き餃子でした」
「なんだ、蛙の皮で作った焼き餃子か」
「黄人間の緑風煮込みはこっち」
「黄人間も用意してくれてたんだ」
「うん。お母さんがおじいちゃんも天国で喜んでくれてるって」
「おじいちゃん」
「ごめん、話してなかった。実は私、血統書付きの緑人間じゃないの。青人間と黄人間のハーフなの。黙っててごめんなさい」
レイは哀しそうに答えた。
「全然気にしないよ。話してくれてありがとう」
「気にしないなんて嘘よ」
「本当に気にしないよ」
「私、純緑人間じゃないから、3回に1回青い唾が出るのよ」
「気にしないよ」
「匂いのせいで街中では黄人間に話しかけられることもある」
「気にしない」
「純緑人間じゃないから、体の断面だって緑にはなれない」
「気にしない」
「嘘よ。外面はどれだけ緑になれても内面は緑になれないのよ。だって、私は本当の緑人間じゃないから。私は本当の…」
泣き叫ぶレイに一瞬衝撃が走った。

凶太郎はレイの唇に自分のそれを重ねることでレイを黙らせた。
緑の瞳を見ながら、舌を口の中に入れる。
レイは凶太郎の赤い舌を拒まずに緑の舌で案内した。凶太郎は赤い舌を使って緑の舌を自身の口内に招き入れる。
決して混ざり合うことのない赤と緑の舌が互いの口内で絡み合い体液は混ざり合った。
長い重ね合わせが終わりレイは緑の頬を赤くする。レイは喋れない。自身の肌色を緑に戻すのに必死だった。
そんなレイに凶太郎は答える。
「今回は青色だったね」

その日、凶太郎とレイの交際が始まった。
2人は互いの体を重ね合わせた。
次の日、凶太郎の体に異変が起きる。 
自身の使った枕が緑になっていたのだ。
その時はあまり気にしていなかった。
そしてまた別日に2人は体を重ねる。
凶太郎は肌の色が少し緑になっていた。
レイは逆に白くなっていく。
その時に気づいた。緑人間と体を重ねるたびに自身の体は緑になっていくのだ。反対にレイは白くなっていく。
しかし2人は止まることなく何度も何度も体を重ねた。
ある日、レイに妊娠していることが分かった。
女の子だった。
凶太郎は葉っぱのような彩りの肌になって欲しいと願いを込めて「彩葉」と名付けた。 

それから数ヶ月後彩葉が生まれた。肌の白い女の子だ。
その頃には凶太郎の肌は完全に緑になっていた。
緑人間としての生活は凶太郎にとって辛いものだった。
犬に吠えられたり、赤人間を見かけたら無意識に敬礼をした事もあった。
老婆に除草剤をかけられたりもした。
日光浴をしていると、小学生に遮光シートをグルグル巻きに巻いた物を投げられ光合成の邪魔もされた。
ルイージに間違わられクリボー達に誘拐されたりもした。気の毒に思ったクッパが粗茶を出してくれたことが唯一の幸いだった。
そして1番の不幸は記憶障害だった。
脳が緑人間の細胞に拒否反応を起こして記憶役割を果たす海馬が機能しなくなったのだ。

「レイへ。
私は最近の出来事を記憶出来ません。あなたと出会った時の事も思い出せない。そうなる前にここから立ち去る事にします。これからは緑人間としてホームレス生活でもします。これから彩葉と共に幸せでいて下さい。凶太郎より」

凶太郎は手紙を書き残すと家を出ていった。
レイの好きなお茶をいつでも作れるようにと茶筅だけを持って。

それから年月を重ね現在、凶太郎はダンボールの上でお茶を点てる。
もう凶太郎に過去の記憶はない。
そんな凶太郎にある親子が近づく。
凶太郎とレイ、彩葉の3人が奇跡の再会を果たすのだ。

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5/2(木)『MEKKEMON』
開場17:15 開演17:30 終演18:30
チケット¥800
道頓堀ZAZA HOUSE

チケットはお取り置きになります!
ご希望の方はご連絡ください。

同期のLaychellと彩葉と「爪痕」という名前でユニットコントします。

緑人間の最終章です。ぜひお越し下さい。





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