フラメンコシューズ

コンプレックスの素敵なごまかしかた

周りのみんなが誰もやっていないことをやろう。
そうすれば、他人と比較をしなくて済む。
誰かに見せるためじゃなく、
評価を気にすることもなく、
ただ自分だけのために誰にも言わずにやろう。

そう思って、1年3か月ほど前に私はフラメンコを習い始めました。

フラメンコを選んだ理由は、レンタルショップでたまたま手に取った漫画。『鉄楽レトラ』というその漫画は、無気力な男の子がフラメンコと出会うことで活き活きと成長していくお話でした。無性に心を惹きつけられて、フラメンコダンサーの動画をいくつも見漁り、そしてとうとうフラメンコ教室へ体験レッスンを申し込んだのです。

自慢ではありませんが、私は比較的身体が器用で運動神経が良い方です。大学生のころからバンドでドラムを叩いていましたが、ろくに練習もせずひたすら運動神経だけで演奏してたようなタイプです(ごめんなさい)。そう、ドラムをやっていたのでリズム感もそれなりにあるはず。だからダンスの類はまぁそこそこ出来るだろうと、高をくくっていたのです。

うん!!浅はかでしたね!!!

そもそも身体が思い通りに動かないのです。否、思った通りに動いているかどうかすらもわからない、という方が正しいかもしれません。先生の動きを真似しているつもりなのに、鏡に映る自分の姿のなんと情けなくみっともないことか。器用さや運動神経だけではまるで歯が立たない世界がそこにはありました。

ところで、フラメンコは専用のシューズを履いて踊ります。太めのハイヒールのような見た目ですが、つま先とかかとの部分にたくさんの釘が打ちこんであって、床を踏むたびに堅い音が鳴ります。もしかしたらタップダンスに似ているかもしれませんが、タップダンスはどちらかというと跳ね上がる軽快なステップ(だと思う)なのに対し、フラメンコの場合は跳ねずに下へ下へと打ち付けるようなイメージです。

音の鳴らし方がいくつもあって、つま先で踏む“プランタ”、かかとで踏む“タコン”、足の裏全体で踏む“ゴルペ”などを使い分けてステップを踏んで踊ります。初めてフラメンコのステップの踏み方を習った時は「ドラムのルーディメンツ(私がろくにやってこなかった基礎練習)みたいだな」と思いました。「音楽みたいな踊りだな」とも。

あと意外だったのは、フラメンコはとてもとても“重い”踊りです。ステップもそうですが、とにかく跳ねることはしません。常に重心は低め。先生からは「足の裏が地面にガムテープでくっついているのを剥がすようなイメージで」とまで言われました。だからこそとても濃厚で力強い踊りです。

フラメンコの良いところは、体格の良い大柄な女性(おでぶちゃん)が踊っても様になること。迫力が増すのでかえって魅力的にすらなるのです。また、若くて機敏なダンサーも勿論素敵ですが、年齢を重ねた女性にしか出せない奥深さがフラメンコにはあります。老若男女全ての人に、その人にしか出せない魅力があるはず

そんな訳で、未知の世界で叩きのめされながらもそれなりに楽しくやっています。今までに経験したことのない刺激がたくさん。出来ないことすらも楽しい。「ただ自分だけのために」と思って始めたものの、いつか人様にお見せ出来るくらいに上達したら、ちょっとだけ披露したいな、なんて思えるようにもなりました。

もし「自分が他人と比べて劣っているな」とか「自分には何も得意なことがない」とか思うことがあれば、周りのみんながあまりやっていないことをすると良いと思います。誰かのためじゃなく自分だけのために。新しい景色が見えて気持ちがすっきりするかもしれません。

キャシー(@cathyletter

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