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きびすを返す彼(レモンさん)

私には息子がいる
彼は私とは違う。

空手を4歳からはじめ、今では黒帯まで持っている。
私とは真逆の存在だ。
学ぶ部分もあれば、理解できない部分もある。
それでもその幼い彼は、尊敬できる存在だった。

彼の憧れは「応援団長」
小学校の運動会で応援団長を見た彼は、
紅白の鉢巻きをして、胸をはり、
大声で応援する応援団長は憧れるには十分だった。

自分も応援団長になりたい

その想いは小学生だった彼の心の1つの柱となっていた。
そしてもう一つの柱は騎馬戦団の団長になる事。
運動会の目玉競技「騎馬戦」、
その騎馬戦団を率いる団長は、 小学生男子の心を奮わすには十分だった。

小4になり彼は念願の応援団に入り、小6で応援団長になった。
そして騎馬戦の団長にもなった。
体育会系で培われた精神が既に有言実行を体の一部にしていた。

最後の運動会が始まる。
紅組白組の得点差は一進一退、 残り4競技の段階で、紅組が優勢していた。

最後の3競技、運動会の得点表示は隠され、
勝敗は蓋を空けなけばわからないという演出になった。
いわずもがな、盛り上がりは加速する。

最終競技「騎馬戦」

騎馬戦団長の彼は、これまで負けなしだった。
知力、体力、そして折れない心を持つ彼は連戦連勝を重ねていた。

だが、彼は負けた。

ただの負けではない。騎馬戦団の団長戦での敗退だ。

配点の高い団長戦での敗退は、紅白戦の得点への影響も大きい。
詳細は分からない。
だが、運動会全体を通しての紅白戦の結果も敗北だった。
折れない彼の心が折れた。

人目を気にせずに泣いた。
号泣。
6年間はこの日の為にと言っても過言ではない。
自信もあった。自負もあった。 だが、負けた。そして折れた。

運動会には、
紅白点数合戦とは別に、応援合戦というもう一つの戦いがある。
応援団長でもある彼にとって、この戦いはもう一つの決勝戦だ。

応援合戦の勝敗がアナウンスされる。
彼の勝利を告げるアナウンス。 彼はまだ号泣している。
なぜ?勝利したのに?

勝利の声は彼の耳には届いていなかった。
彼は応援合戦の勝者として表彰される場になって、
彼は初めて自分の勝利に気づいた。

瞬時に状況を理解した彼は、
それまでの号泣が嘘のように晴れやかな顔で、 踵を返し表彰台に向かう。 彼の背中に投げられる声援の多さが、
彼の6年間を表す 何よりの自己紹介だった。

※この内容はインタビューを元に、加筆修正を加えて作成しています。

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