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パリピ

連休の末日、川へ遊びに往かん。釣りを習うためなり。始めに川に入りて、川底の石を翻し、釣りの餌を覿しむ。是を針に付けて魚を釣らむ。流れに沿いて針を漂し、引き寄せむ。是を繰り返さん。簡単なれば、幼児でさえ小魚を釣り得るべし。

五月の渓流は猶寒かりき。少し足を浸さんとすれば、冷たすぎて足が痛み、たちまち陸に上がりける。慣れれば大丈夫なるやと、周囲の人々は次々に川に進む。再び挑みんとすれば、やはり足が痛みぬ。それどころか、心臓が締め付けられるような感じを覚えん。撤退す。幾度を重ねんとしても、全く無理なり。皆、楽しそうに川で釣りをしておりけれど、我のみが「このままでは心筋梗塞により救急搬送される」との恐怖を抱き、川に進み、出づるを繰り返しておりけり。

諦めんとし、少し高き所にある岩に登りて見学することとせん。対岸はバーベキューの場なり。多くの集団が楽しんでおり。盛り上がり、川に飛び込む者あり。男女が半裸にて尻相撲をとり、水を掛け合う。「ジャンボリーミッキー」を踊りており。上半身裸になり、脱いだTシャツを頭に被り、大声を上げんとす。即ち、いわゆるパリピなる人々なり。彼ら、身体が強し。食い飲みし、凍るような水に飛び込んでも、心臓はびくともせず。

バーベキューの食材を狙うトンビの急降下も、彼等にとりてはエンターテイメントなり。トンビに肉を奪われん度に、歓声上がる。旋回するトンビの心地は如何なるや。パリピより拍手を得て、得意気にも見ゆる。

コロナの時節に、流行に依って何度かバーベキューをせしめたれども、頓に飽き果てたり。バーベキューは楽しきにても、隣の集い来ることを嘆ふ。気遣いし、向こうは大勢なればなるほど、ますます肩身狭し。我は独りにて肉を焼きたし。

大いに縁遠きパリピの世界を、対岸より眺む。川の彼方ならば、別世界のことなり。氷の如き冷えた足を太陽に晒しつつ、楽しき彼等を肯定す。良きや、楽しき。然れども彼方には往かざる。

便所は彼方岸なりければ、橋を渡りて往かん。彼らは速やかに撤退せり。きちんと片付け行いたり。パリピにして悪者なし。今は数人の子ども遊ぶのみ。

五匹目の魚を釣り上げたる女の子、声を上げたり。

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