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キューアール

かかる折、近頃の飲食店にて、注文の方法がいと新しく変わりて、QRコードを読み取り、スマホにて注文するに至りぬ。席に着きて後、あ、さうかと気付きぬ。

未だ馴れず、QR注文はいと面倒にて、静かに過ごしたき時間にはスマホを取り出したくなきものなり。

先日、我、ハンバーガー店に入りぬ。やはりQR注文にて、なかなか注文ページが読み込まれず、
「えっ」
「どうなりたるや」
とぶつぶつ言ひながら操作す。三分後やうやくページが表示されぬ。

しかも、選択肢がいと多く、アイスティーを選ぶに、
「シロップあり/ミルクなし」
「シロップあり/ミルクあり」
「シロップなし/ミルクあり」
「シロップなし/ミルクなし」
「シロップなし/ミルクなし」
など、多岐に亘り、まるで算数の問題のやうなり。

もたもたしている間に、隣に母と娘の二人連れが座りぬ。母は我が苦戦している様子を見て、店員を呼び、

「直接注文しても良きか。われら、いと急ぎているので」

と申す。
母は一番早く出て来る料理を店員に聞き、さっさと注文を終へぬ。

我も程なく注文を終へ、スマホを仕舞ひ、外の緑を眺めたり。丸の内の故、窓から見える景色はどこも美しく、ガラスの四角と緑がよく調和してをり。

やがてハンバーガーセットが運ばれ来ぬ。高級ハンバーガーゆゑ、横より縦の方が長く、一・五倍くらいありぬ。


横より視線を感じぬ。

先に注文せし隣のテーブルには未だ食事が運ばれず。母が「遅し…」と呟き、娘も手持ち無沙汰の様子なり。我は仕方なく食べ続けぬ。
食べていなければ譲ることも出来たれど、運ばれ来てすぐにかぶりつきたり。

十分経ても来ず、ぴりぴりした空気がこちらにも伝はりぬ。母の無言の怒りが渦巻き、我も心臓が縮む思ひなり。

二十分経ち、母親が痺れを切らし、店員を呼びぬ。おそらく忘れられたるものなり。店長らしき人がやって来て、謝りぬ。


娘は母の怒りを収めんと急に話し始め、精一杯の笑顔なり。

「こんなに待たされたから、いつもより早く食べ終へることが出来さう」
「きっとすごい手の込んだ料理なり」
「けっこう量が多き故、食べ終へたら走らぬやうにせねば」

娘にほだされ、母もやうやく落ち着きぬ。小学五年生くらいか。賢く優しき娘なり。

やうやく料理が運ばれ来て、二人はあっという間に食べ終へ、店を出でぬ。

QR注文は苦手なれど、QR注文が推奨される場においては最も効率良き方法なり。かかる場にて店員を呼びて注文すれば、イレギュラーな方法ゆゑ、注文を忘れられぬこともあるべし。

我も食べ終えて、ドアを開け店を出んとすれば、引き止められぬ。Suicaを忘れしことを店員が持ち来たり。

焦る母と、優しき娘、忘れ物に気付く店員と。
システムと、その間にある人の動きがいと面白き出来事なりし。


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