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スケジュール


忙しといふは難しき事なり。

わけて「忙し」といふ漠然たる理由にて断る時なり。

我もまたこの理由にて断られしこと幾度かあり。その度に、「果たして本当なるや」「他に理由あるや」と疑心抱きつつ、深く突っ込まぬも、何とはなしにモヤモヤす。

一度のみ親しき人「短き間なれば気分転換になりぬ」と出で来たりしことあり。然れど、その人は共に居る間、終始「ああ、締切が明日なり」「早く帰らねば」と言ひ続け、互いに嫌な気持ちなりしか、次第に楽しきなり、結局半日フラフラとあちこち巡り遊びけり。

ふと我に返り、「ああ原稿書かねば……」とブツブツ言ひつつ帰りぬ。

我は断ること殊更苦手なれば、仕事の采配を事務方の人に任せぬ。彼女にとりては、今日マチ子への依頼など他人事なれば、出来ぬものはきっぱりと断りぬ。それはありがたく思ひつつも、我はますます断ること苦手となりぬ。

特に、仕事ならずプライベートより入り来たる依頼なり。同期生よりLINE来ぬ。繁忙期に当たりどうやっても時間を捻出できず、旧知の人にいきなりNOとは憚られぬ。ただ、忙しきを理由とするも感じ悪し。本当のことなれど。

此の辺の知恵なきこと引きこもり生活の弊害と思ひぬ。

相手は候補日を出し来る。素直にこの日はこの原稿、この日はこの用事あり、と伝ふ。

「それなら」と相手曰く。「この前後の週の木曜日は如何?」

「この日は締切前日、この日は締切前々日なり」と正直に伝ふ。断り下手にては正直しか武器なきなり。かかるやり取りしてるうちに、我が七、八月のスケジュール相手にほとんど見え、丸裸なり。

相手やうやく諦めたるごとくあり。下着姿、ほぼ全裸ごときスケジュールに辟易して、「見たくもなし、もう結構」といふことならむ。賢き人なれば、さっさと他の適任者に依頼かけるべし。

納得してくるるならばよし、然れど時に何が何でも引き下がらぬ人ありて困ることあり。幾度も断りてゐるに、熱意という正義を振りかざし来る。

忙しといふも納得せず。然れど全く知らぬ相手にスケジュールを丸裸にすること能はず。

「漫画家常に忙し忙しと言ふも、果たして本当に忙しきや。合間にSNSに投稿したり、ゲームしたり、落書きしたりするなり。」
そう思はるるかもしれず。見た目、部屋の中にただ机に向かふのみ。

ミーティングを渡り歩き、人々と会ふ如き仕事の忙しさと違ひて、なかなか理解されず。単純に、原稿より目を離すこと能はず。作業時間の確保は生命線なり。手を止めて画面より離るること能はず。

デイトレーダーと思ひて欲しきなり。

(そして、人間的な生活を送るため、たまに休憩取るくらひは許されん。)


依頼する側も、される側も心得るべし。 忙しといふなら本当に忙し。
然り信じるほかなし。ここにて丸裸になる必要全くなし。

突然全裸となりし我を恥じるのみなり。


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