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クラゲ

ついに、エンツァイの芽が出でにけり。もはや、踊り出さんばかりに嬉しきことなり。専用のプランターを用意し、土を入れ、種をまきてより一週間のほど。日ごと、今か今かと待ちわびし有様なり。ここ数日、三時間おきに様子を見に行きては、心乱れしことなり。

かくして昨日、ついに白き芽の顔を見せしこと、いと嬉し。


エンツァイとは、朝顔菜などの名にて知らるる野菜なり。空心菜と言ひし方が馴染み深きやもしれぬ。中華料理にて青菜の炒め物として出づる、ストロー状の茎が特徴的なるアレなり。

我、中華料理の前菜に出づる「クラゲの冷菜」をこよなく愛す。ごちそうに預かる機会あらば、寿司にあらず「クラゲ」を所望す。中華クラゲ、常のスーパーには手に入り難し。おつまみ用惣菜のクラゲサラダは別物なり。我が好むは、中華料理にて出づる太くしっかりとしたクラゲなり。

自宅にて食すこと能わざれば、憧れのみ募るなり。されども、残念なることに、近ごろは外出の機会なく、中華料理にも出会えぬ。ファミレスのバーミヤンにてラーメンを食せしが関の山なり。

ああ、台湾にてごちそうになりしクラゲ、人生最高に美味なりし。あの時の幸せなる気持ち、周囲の人々の苦笑、今なお心に焼き付きたり。


あれより一年。クラゲを食べたき思い膨らみすぎて、同時に円卓に並びし皿をも思い出す。冷たい水、暖かきジャスミン茶、取り皿。そしてクラゲの冷菜、空心菜の炒め物。

されば、我はクラゲを連想するため、空心菜を手にせんとす。空心菜、すなわちエンツァイ、家庭菜園にて育てらると聞きぬ。


YouTubeの動画、夏の菜園のおすすめにエンツァイが選ばれしを見る。水さえ枯らさざれば、どんどん茂り行くと聞きぬ。さすれば、空心菜の炒め物が食べ放題なり。空心菜、スーパーにはなぜか売れ残りし見切り品の籠に入れらるること多し。普段使いする人少なきやもしれぬ。

見切られし彼らをすべて買い来て、すぐに炒めん。味わうはエンツァイならず。エンツァイを食しながら、その隣にあるべきクラゲの冷菜を想像す。


ところで、Amazonにてエンツァイの種を買はんとせしに、他にもいろいろな種をサジェストされぬ。その中に、「山クラゲ」といふ植物あり。初めて聞く植物なれど、もしかすれば何処かにて食したることあるやもしれぬ。

エンツァイとクラゲ、近しかるとAmazonも考ふるに違ひなし。

今はまだ弱々しき芽なれど、確かにエンツァイここにあり。といふことは、クラゲも何処かに居るなり。我が想像の中にだけなれど。


夏の盛りを楽しみに待つとしよう。

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