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カエル

雨降る中、自転車を漕ぎて来たる編集氏、頭より足元までびしょ濡れにて、打ち合わせに遅刻し給ふ。其の上、途中より度々スマホを覗き見る。心ここにあらぬ様子なり。何事ぞと怪しむ。

昨日、我この日記に「菓子折をじゃんじゃん持ち来たれ」と書きしを、編集氏見て菓子折を用意するも、自宅に忘れたり。慌てて自宅にある夫に持ち来たらせ、其の連絡のためにスマホを何度も見たりけるなり。ひどく申し訳なく思ひぬ。またもや雨の中を自転車を漕ぎて来たる彼女の夫にひたすら頭を下げ、瓶詰めのフルーツを賜りぬ。

雨の日を好むことは、大人になりてよりのことなり。幼き頃は嫌ひしものなり。学校にて配らるるプリントは湿気にてふにゃふにゃになり、前の子より後ろなる我れに渡すことも難しく、下方に折れたり。道には何といふことなき木の葉の落ちてあり。長靴の底にへばりつく。最悪なるは、いつも車に轢かれし蛙のあることなり。潰れたる蛙を避けつつ学校より帰る。誰も掃除せぬゆえ、蛙はいつまでも其処にありぬ。

高校の修学旅行にて京都に行きし折、我れが土産に買ひしはキーホルダーとなるミニゲームなり。車走る道路を、蛙が渡るゲームなり。蛙はどんどん轢かれゆく。運良く渡りきれる蛙もあり。此のゲームをやり込み、我は蛙たちを無事道路向こうに送りゆくことを得たり。小学生時代のトラウマを克服せしなり。

大人になりて、もう少し街中に住むことになりぬ。雨の日に蛙を見ることもなくなりぬ。変な葉っぱも落ちず、紫陽花の色づくを眺めつつ、快適なる雨の日を楽しみぬ。街はいつもより静かに、空気も清し。

今日は仕事中に音楽をかけることをやめ、ただ雨の音を聞くことにしぬ。たまに自転車の通り過ぎる音、静かに歩く人の足音も聞こゆ。小さき生活の音、雨の間より沁み出で来ぬ。

おやつは賜りし瓶詰めのフルーツ。炭酸水に入れ、別に作りし寒天ゼリーを加へ、フルーツポンチとして楽しみむとす。

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