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ペンペン
ペンは二本持つべし。
弘法筆を選ばずといへども、凡人は弘法にあらず。筆を選び定めることは要なり。目的を見失ひ、道具の沼に迷ひし者ほど、愚かなることなり。我、余計なことを考へ動き回る癖ありて、道具の迷子にならぬやう、心掛けを持ちぬ。
紙のメモにはジェットストリームのボールペン、iPad Proでのネーム作業にはアップルペンシル、ワコムの液晶タブレットでの原稿にはワコムのペンと決めたり。
この中にて最も長く用いるはワコムのペンなり。一日十二時間ほど握りしめることもあり。三つあるボタンの一つ、取れてしまひしが、使ふボタンにあらざるゆえ放置せり。
さて、ネームを描き終へ提出し、担当氏のフィードバックを待つ。即座に返事あり。修正すべきところもなし。即レスとは即スタートせよといふことなり。締切まで時間なきゆえ、直ちに原稿に取りかからねばならぬ。
ペンを握りし瞬間、何かが落ちたり。
ピアスが落ちたかと思ひ耳を触る。ピアスは無事なり。イヤホンも耳にあり。落ちたりしは黒き小さき部品なり。ペンのボタンなり。それも、一番よく使ふボタン。
拾ひてはめ込むも、すぐに落つ。上からセロハンテープで巻きしが、ボタンは反応せず。描くことはできるも、作業効率は半分以下に落つ。時間なきゆえ、作業スピードを落とすことは許されず。
絶望的なり。危機的状況に、頭が痛くなりたり。棒で殴らるるやうな感覚なり。いざといふ時のために買ひ置きし頭痛薬、イブクイックDXを飲む。いつもはスタンダードなイブA錠なれど、太刀打ちできぬほどの頭痛なり。
緊張性頭痛といふやつならむ。
電機店のwebを探し回り、Yの新宿東店に一本、Bの有楽町店に一本あるを確認す。かくも品薄なりとは知らざりき。あとは京都に一本、梅田に一本なり。
東京の二本を逃すと、新幹線に乗り関西まで往復し、帰宅して直ちに原稿を描くことになるべし。
ありがたきことに、B有楽町店で買ひてきてくるる人あり。頼む。
されど、この一本が壊るると終はる。原稿が描けず、掲載を落とし、その先は口にするも憚らるる恐ろしき事態に至るべし。破滅を避けるため、予備を買ふことに決めぬ。Y新宿東店のペンを配達してもらふことにしたり。
かくして、二本のペンを手に入れたり。
この瞬間、たぶん一日や二日ほど、東京の電機店からワコムのペンがなくなりぬ。もし他の漫画家や絵描きが我と同じ状況ならば、申し訳なきことなり。されど、普通のプロなら予備のペンくらひ持つべし。我、プロ意識の欠けたることなり。
されば、ペンは二本持つべし。
安価なるジェットストリームのボールペンは何十本もありて、部屋のあちこち、上着のポケット、バッグごとに入れてあり。なぜだか数本ずつ失くすゆえ、このくらひでちょうど良きなり。
ワコムのペンは一万円以上して高価なり。けちりて予備を買はざりしことが今回の惨事を招きぬ。
さらに高価なるはアップルペンシルなり。これもまだ一本のみ。予備を買ふべきか悩みたり。いや、買ふべしなれど、二万円もするなり。
きっと近きうちに、同じやうな騒動に巻き込まるるならむ。
その時はまたこのnoteのネタとして、おいしくいただきたし。
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