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ベビーチェア

常に通る道に、リサイクルショップあり。この店の前を通るを楽しみとするなり。百円の衣類ワゴン出でたり、店頭には千円以下の目玉商品並べらる。時に、十円商品の籠もあり。さらには、零円の時もあり。

かの場所に、ベビーチェア置かれたり。赤ちゃん用品はしばしば陳列され、殊更珍しきことにもあらず。しかし、そのテーブル部分には、隙間なくシール貼られたり。百均などにて売らるる廉きシール、用紙よりすべて貼り付けたる様子なり。値段は五百円。

廉けれども、かかる物売れるや?

帰り道にまたもリサイクルショップの店頭確かむ。ベビーチェアはすでになくなりたり。 買う人あらんとは驚きけれど、少し経てより、価値といふものをさまざまに考えさせられたり。 あの隙間なく貼られたるシールを汚れとみるか、それともまったく意に介さず、座れて使へばそれでよしとするか。いや、もしかしてシールを装飾とか、アートとして受け取るかもしれざるなり。

われもまた、思わず写真に撮りぬ。

ベビーマグや食器を避くるごとくシール貼られたり。ぽっかりと、食器の部分は空きぬ。

きっと、使ひし赤子は今は大きくなりたりなん。幼児か、小学生くらいになりたるべし。 テーブルに残されしは、もう戻らざる赤子の時代の食卓の痕跡なり。さやうに思ふと、ちょっとした作品のやうにもあり。文脈次第にはこれのみで現代アートにならむやもしれぬ。

次の持ち主は、いかなる使ひ方をするならむ。赤子のみぞ知る。

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