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キーボード

受験生時代、ラファエルという水彩筆を使っていた。

それまで使っていたのは数百円の筆。カサついた塗りか、べったりとした表現しかできなかった。

6000円もする筆に乗り換えたのは、先に合格した先輩がその良さを語っていたからだ。

高校生にとっては大金だった。

実際に、水の含みが別次元だった。たっぷりと水を吸い、的確に吐き出す。豊かな発色。試験には楽々と合格した。

魔法の筆だ。


長年Appleのキーボードを使っていたけど、単行本を作るときの「あとがき」執筆で指を痛めるようになった。キーを叩く力が無駄に強いからだ。

良いキーボードを探して、HHKBにたどり着いた。数万もして、やたら高い。プロ用とあって、かなり躊躇した。

でも、これを使ったら、文章が書けるようになるんじゃないか。

気後れして、一番ダサい「日本語配列/白」にした。平成のキーボードみたいな見た目だ。Appleのキーボードは、描画作業時の左手デバイスにした。

それから数年。何本か「あとがき」を書き、いくつかのコメントやコラムも引き受けた。日記を綴り、1冊エッセイ集を出した。

ちょっとずつ、魔法のキーボードに変化しているのかもしれない。


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